2026年核不拡散条約再検討会議の現状と論点
はじめに
核不拡散条約(NPT)は、1968年に署名開放、1970年に発効し、1995年には無期限延長が決定された、現代の核軍縮・不拡散体制の礎石とされる条約である。現在、191カ国が加盟し、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用という3本柱を基軸に、国際社会における核秩序の維持に重要な役割を果たしてきた。
しかし、近年の国際情勢の変化は、この体制に深刻な挑戦を突きつけている。間近に開催される第11回再検討会議は、こうした変化の中で、NPT体制の持続可能性が改めて問われる重要な節目となる。
Ⅰ.核軍縮・不拡散をめぐる現状
1. 核リスクの顕在化
近年、核軍縮および不拡散をめぐる国際環境は著しく悪化しており、核リスクの高まりが顕著となっている。とりわけ、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、核兵器使用の可能性が現実の安全保障問題として再浮上した。また、近年のイスラエルによるガザ侵攻を含む中東情勢の緊張も、地域的な核リスクの増大に拍車をかけている。さらに、これらの事象に見られるロシアや米国・イスラエルによる核関連施設への攻撃は、核被害の観点からも重大な懸念を生じさせている。
2. 垂直的拡散の進行
こうした状況の中で、まず顕著なのが核兵器の「垂直的拡散」である。すなわち、既存の核保有国において核戦力の強化および近代化が進展している。核弾頭数は増加傾向にあり、運用中の核弾頭数(現役核弾頭数)は2025年時点で約9,614発と推計されている。また、世界全体の核弾頭総数は同年1月時点で約12,241発と推計されている。これに伴い、核兵器関連支出も増大しており、2025年には総額1,002億ドルに達し、前年の914億ドルから大幅に増加した。
主な核保有国の動向を見ると、中国については核戦力の急速な近代化が進んでいるとの懸念が指摘されている。フランスは核戦力の強化に関し、保有数の増強を示唆する姿勢を示しているが、その詳細は明らかにしていない。ロシアは核戦力の更新と近代化に加え、新型の核兵器運搬手段の開発・配備を進めている。英国は核弾頭の総保有数の上限を従来の最大180発から260発へと引き上げた。米国は、いわゆる戦略核戦力の「三本柱」(ICBM、SLBM、戦略爆撃機)のすべてについて包括的な近代化を進めている。
さらに懸念されるのは、核実験再開の兆候である。ロシアは2023年11月に包括的核実験禁止条約(包括的核実験禁止条約)の批准を撤回した。一方、米国は2025年10月に大統領が核実験再開を指示したとされ、ロシアや中国などが地下核実験を実施しているとの認識を示している。なお、米国、中国、イスラエルはいずれもCTBTを批准していない。
3. 水平的拡散の懸念
他方で、「水平的拡散」も懸念される。イランの核問題は依然として解決しておらず、核拡散の潜在的リスクとなっている。また、ロシアは2022年以降、核兵器をベラルーシに配備しており、地理的な拡散も現実化している。
北大西洋条約機構(NATO)では核抑止への依存が強化されている。2022年6月に採択された「戦略概念」は核抑止の重要性を従来以上に強調した。英国は2025年6月にNATOの核任務への参加を表明し、ポーランドは自国への核配備を容認する姿勢を示している。さらに、エストニアは2025年9月に英国の核搭載可能機の配備を容認する意向を示した。
また、英国とフランスの連携強化も注目される。2025年7月の「英仏ノースウッド宣言」は核抑止に関する協力の強化を打ち出し、両国による核運営グループの設置が合意された。また、2026年3月のフランス大統領演説では、「前方抑止(dissuasion avancée)」の段階的導入が表明され、核抑止の地理的拡大が示唆されている。
さらに、原子力潜水艦保有計画の拡大も重要な動向である。2021年9月に発足したAUKUS協定の下で、オーストラリアへの原潜技術移転が進められており、これに関する国際原子力機関(IAEA)との協議も継続している。また、2025年10月には米国大統領が韓国による原潜建造を容認する姿勢を示した。
4. 規範の弱体化
このような核戦力の拡大・分散の進展と並行して、核軍縮・不拡散を支える規範の弱体化も進んでいる。まず、米露間の戦略核兵器削減条約である新STARTが2026年2月に失効したことは、核軍備管理体制に重大な空白を生じさせた。このことは、核軍縮に関する誠実交渉義務を定めた核不拡散条約(NPT)第6条の履行にも疑義を生じさせるものである。
また、CTBTをめぐる規範も後退している。CTBTの発効まで核実験を自制するモラトリアムは、1995年のNPT無期限延長の際の合意事項(決定2)であったが、近年その遵守が揺らいでいる。実際、2025年11月、米国は国連総会においてCTBT批准を目指していないことを明言しており、これは核実験再開への法的環境の整備とも考えられる。
さらに、NPT再検討会議の機能不全も顕著である。2015年および2022年の再検討会議では実質的な合意文書の採択に至らず、過去に合意された核軍縮措置の履行も停滞している。例えば、1995年には中東非核兵器地帯の設置、CTBTの発効、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始が合意された。また、2000年に合意された「13項目の実際的措置」では、核兵器の完全廃棄に向けた「明確な約束」が示された。さらに、2010年には64項目からなる行動計画が合意されたが、これらの多くは依然として十分に履行されていない。NPTの「グランド・バーゲン」の信頼性が揺らいでいるとされる理由がここにある。
以上のように、核軍縮・不拡散をめぐる現状は、核リスクの増大、核戦力の増強・拡散の進行、そして規範の弱体化という複合的な危機に直面していると言える。
II. 注目される主な論点
今回の再検討会議に至る核軍縮・不拡散をめぐる議論においては、複数の重要な論点が浮上しており、それぞれの立場の相違が交渉の帰趨に大きな影響を与えている。以下、必ずしも網羅的ではないが、特に核軍縮に関して注目される主な論点をスケッチしてみる。
1. 過去の合意の再確認
非同盟諸国(NAM)、新アジェンダ連合(NAC)、イランなどは、1995年、2000年、2010年のNPT関連合意の再確認を主張している。これらの合意には、中東非大量破壊兵器地帯の設置や、核兵器の完全廃棄に向けた「明確な約束」、さらには包括的な行動計画が含まれており、現状の停滞に対する不満の表れといえる。なお、2025年国連総会で採択された日本の核廃絶決議(以下、日本決議)でも、日本政府が設置した国際賢人会議(IGEP)の提言でも言及されている。
2. 核兵器の不使用
「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない」とする原則の位置づけが重要な争点となっている。この原則は、1985年のゴルバチョフ・レーガン共同声明に端を発し、2022年1月のP5首脳による共同声明や、2024年の国連総会でコンセンサス採択された「未来のための協定」にも反映されている。また、2025年の日本決議やNPT第3回準備委員会の議長勧告にも盛り込まれている。
他方で、核不使用の約束だけでは不十分とする立場もありえる。例えば、イランは核抑止そのものを条約目的に反するものとみなし、NAMは、核兵器の使用・威嚇や保有は人道に対する罪であり、保有も国際人道法と矛盾すると主張する。さらに、核兵器禁止条約(TPNW)締約国は、核兵器の使用および威嚇はいかなる場合も違法であり、核抑止は誤りであるとする立場をとっている。
3. 透明性と説明責任の強化
2025年の第3回準備委における58カ国共同声明や日本決議をはじめ、アイルランド・ニュージーランド・スイスなど多くの国々が、核兵器に関する透明性向上と過去の合意についての説明責任の強化を求めている。しかし、中国とロシアは日本決議の関連条項に反対票を投じている。なお、英国とフランスは、国家安全保障上の理由から公開できない情報が存在することを指摘し、「透明性の限界」を容認しつつも、透明性・説明責任を推進する姿勢を示しており、この点で何らかの妥協が生じるかが注目される。
これに関連して、定期的報告および対話メカニズムの整備といった「プロセス強化」も議論されている。多くの国やグループが、核兵器国による定期的報告や対話の制度化を提案しているほか、核抑止に依存する非核兵器国にも報告義務を課すべきかが論点となっている。また、市民社会の関与の拡大もEUや日本決議などにより支持されている。なお、中国は核兵器の無条件の先制不使用の姿勢こそが意義のある透明性措置であり、透明性措置は国情に応じて自発的に行うべきものだとして、白書などを通じて高い透明性は維持されていると主張している。
4. 核リスクの低減の具体化
核リスク低減の必要性自体については、フランス、英国、米国、日本などによる35カ国の共同声明や日本決議などをはじめ、各国の作業文書において広く共有されているが、その具体的措置については見解が分かれている。例えば、日本決議は対話の強化や危機予防・管理の枠組みを提案しているのに対し、仏英日など16カ国の作業文書では、透明性向上、データ交換、ホットラインの設置、核戦力の非標的化、意思決定時間の確保など、多様な措置が提示されている。他方で、NAMはリスク低減措置が核兵器の不可逆的削減や廃絶の代替となるべきではないと主張している。また、ロシアは戦略的リスク低減のための包括的措置を提唱し、中国は普遍的なリスク低減策は存在しないとしつつ、核の先制不使用を重視している。
5. 新STARTの後継交渉
第3回準備委での24カ国共同声明では、後継条約交渉の早期開始と現行制限の維持を求めている。日本決議では、最大保有3カ国(米露中)に保有の抑制を呼びかけた(露中DPRKが反対している)。米国は、中国およびロシアを含む軍縮交渉を呼びかけている一方、中国は最大保有国による大幅削減を前提条件とすべきだと主張している。また、ロシアは英国およびフランスを含めた枠組みを求めている。
6. 安全保障と核軍縮の関係
日本決議は、過去のNPTで合意されてきた「すべてにとって縮減せず増大する安全保障の原則」を確認し、P5はこれに賛成しているが、オーストリア、アイルランド、NZは反対している。NACは安全保障環境が不安定であっても核軍縮は進展可能であると主張し、NAMは安全保障上の理由を核軍縮義務の履行回避の口実とすることを強く批判している。また、IGEPは、核抑止と軍縮の立場の橋渡しを目指す対話の必要性を提起している。
日本決議へのオーストリアなどTPNW締約国による反対は、近年の「安全保障上の懸念」に関する彼らの主張を反映している。オーストリアなどは、核抑止が本質的に核使用リスクを伴うとし、その人道上の影響の重大性を強調するとともに、そのリスクをTPNW諸国が負担することについて核兵器国の説明責任を問うている。
7. CTBTと核実験モラトリアム
多くの国はCTBTの早期発効および核実験モラトリアムの維持を支持している。同時に、NAMやイランは核実験再開の動きを強く批判している。他方で、米国はCTBT署名国でありながら、前述したようにCTBT批准を目指していないと明言した。条約の署名には、当該条約の趣旨・目的を失わせてはならないという義務が生じるとされており、CTBTでは核実験の禁止がそれに該当するとされる。但し、当事国とならない意図を表明した場合には、この義務は消滅するとされる(条約法に関するウィーン条約第18条)。条約署名から生じる義務については法的議論があるが、いずれにせよ、米国の対応は核実験再開を念頭に法的環境の整備を進めているとも考えられる。
8. 核共有および拡大抑止
NATOの核共有政策については、2023年の第1回準備委員会から激しい議論の応酬が続いている。ロシア、中国、NAMなどは、NPT違反であるとか不拡散体制の弱体化につながると主張しているのに対し、米国やNATO諸国は、①NPT成立以前からNATOの核共有は存在し、交渉過程で両者の整合性については了解が存在した、②NATOの核共有ではNPTで禁止される核兵器の「管理」の移譲は行われない、③核共有の実行は核不拡散に貢献してきたなどと反論している。条約解釈をめぐる法的論争とともに、核共有の不拡散効果に関する評価も議論の対象となっている。
9. AUKUS協定の評価
AUKUSは原子力潜水艦の技術移転を含む枠組みであり、NPTとの整合性が争点となっている。AUKUS参加国は核兵器の移転は伴わず、核燃料は補給を要しない密封されたユニットで提供され、オーストラリアは濃縮・再処理を行わないと説明しつつ、IAEA保障措置協定の適用除外規定(14条)に基づく取極を結ぶべく現在IAEAと協議中であるとして、理解を求めている。一方、中国はAUKUSの取り組みはNPTの趣旨・目的に違反し、不拡散体制を損なうと批判し、ロシアも核兵器のオーストラリア持ち込みの可能性やオーストラリアへの核の傘の高度化に警戒を示している。原潜の場合、搭載された核物質の所在確認が長期間に渡り困難となる点など、検証の実効性への懸念もあり、議論の行方が注目される。
10. 原子力施設の攻撃禁止
中国やイランは、平和的な原子力施設への攻撃は国際法違反であると主張している。国連総会やIAEAにおいても同様の原則が繰り返し確認されており、この原則自体に異論は生じにくい。ただし、これらの決議の法的拘束力や、慣習国際法としての地位、さらには事実に当てはめた場合の、武力紛争時における「平和目的」の認定可能性など、議論の深化が必要だろう。
11. 被害者援助および環境修復
カザフスタンやキリバス、マーシャル諸島は、核実験や使用による「核の負の遺産」に対する対応をNPTで議論することを主張してきた。核兵器国に対しては、過去の実験・使用に関するデータ公開を求め、関係国に資金・技術支援の提供などを求めている。NAMなど、この問題に注目する諸国も存在するが、他方で、米国はこれらの措置とNPTとの関連性を否定する立場をとり、英国、フランスおよびロシアも関連する国連総会決議には反対している現状にある。
おわりに
以上のように、現在のNPT体制をめぐる議論は、規範の再確認から具体的措置の設計、安全保障観の対立に至るまで、多層的かつ複雑な論点によって構成されている。また、前述した核軍縮・不拡散をめぐる現状と照らし合わせると、実質合意に到達することは困難なようにも思われる。
従来の再検討会議では、どの国も反対しないコンセンサス方式での採択が目指されてきた。だが、手続的観点からみれば、再検討会議の手続規則(NPT/CONF.2026/1, Annex III)は、必ずしもコンセンサスによる意思決定のみを要求しているわけではない。同規則によれば、手続事項については過半数、実質事項については3分の2多数による採択が可能とされている。したがって、政治的にはコンセンサスが重視されてきたものの、制度的には多数決による決定も排除されていない。
また、歴史的には、必ずしも単一の包括的合意文書のみが成果として採択されてきたわけではない。例えば、1995年のNPT運用検討・延長会議においては、条約の無期限延長の決定に加え、「原則と目標」および「中東決議」など、複数の決定および決議が無投票で採択されるという形がとられた。このような先例は、包括的最終文書に代えて、個別の決定や決議を積み重ねる方式の可能性を示唆している。
この点で付言すると、多くの国が認める核軍縮・不拡散・原子力平和利用という3本柱のバランスの取れた実施という観点からは、断片化した複数文書の採択は、3本柱の根底にあるグランド・バーゲンを損なうという見方もできるかもしれない。もっとも、そもそもNPTのグランド・バーゲンの内容と意義こそが再確認ないしは再検討されるべき時にきているのだとすれば、どのような形式での最終文書に至るのかという点も注目される。
山田寿則(公益財団法人政治経済研究所主任研究員/明治大学兼任講師)