【2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会④】核政策法律家委員会(LCNP)主催のサイドイベントが行われました
5月1日の午後も多くのサイドイベントが開催されましたが、その一つに「人権、民主主義そして核兵器」と題するサイドイベントがあります。主催した核政策法律家委員会(LCNP)は法律家から構成される国際反核法律家協会(IALANA)の米国加盟団体であり、これまでも国際法の視点から核兵器の廃絶に繋がる法的提言活動を積極的に行っています。
このサイドイベントでは、LCNPのジョン・バロース氏がモデレーターとなり、ローザンヌ大学のリエティカー講師やハーバード・ロースクールのドカティ講師ら法律専門家がスピーカーとなって最近の国際人権法の発展が核軍縮に及ぼす影響が議論されました。その一つは国際人権規約(自由権規約)により設置された自由権規約委員会が昨年10月に採択した生命に対する権利の解釈に関する「一般的意見」に関するものです。
この意見の中で、同委員会は「大量破壊兵器(特に核兵器)であって、無差別の効果を持ちかつ壊滅的規模の生命の破壊をもたらすものによる威嚇またはその使用は、生命に対する権利の尊重と両立せず、かつ国際法上の犯罪に相当し得る」との解釈を示しました(パラ66)。自由権規約は172カ国が締約国となっており人権条約の中でも主要なものです。このなかで同規約第6条において「何人も、 恣意的にその生命を奪われない」と規定される生命に対する権利は、戦時等の公の緊急事態においてもその尊重が締約国に義務付けられており、生命に対する権利は数ある人権の中でも王座を占めるとされています。
自由権規約の締約国にはNPTの核兵器国も含まれており(中国は署名のみ)、同規約の第6条がこの一般的意見のいうように解釈されるとするなら、これら核兵器国及びその同盟国がとっている核兵器に依存する政策は生命に対する権利の侵害に該当し、国際法上の犯罪ともなりうることになります。
もう一つは、核兵器禁止条約(暫定的な仮訳)が国際人権法の発展に基づく規定を有していることです。つまり、同条約の前文では国際人権法の遵守の必要が再確認されたうえで、核使用・実験の被害者に対して援助を提供することが管轄権をもつ締約国に義務づけられ(第6条)、すべての締約国にこれに協力することが義務づけられています(第7条)。
このように核軍縮の分野でも人権尊重を義務づける規範が受け入れられつつあります。これまで軍縮と人権の関係は認識されてはいましたが、実際の軍縮の取組みの中で人権の尊重がそれほど重視されてはきませんでした。自由権規約の締約国で核兵器に依存する国はこのような議論に向き合う必要がありますし、核廃絶を求める国やNGOもこの議論をどのように核廃絶への前進に活用するかを考えることが必要となってきています。
このような問題提起が今後のNPT再検討サイクルの中でどのように共有されていくのか注目したいと思います。
この問題に関するリエティカー氏の論稿(日本語訳)はこちら
文責:山田寿則(明治大学)