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2022年08月18日

NPTレポート④:第2週のまとめ

8月1日から米国ニューヨークの国連本部にて4週間の予定で開催中の第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議も今週で第3週に入りました。本記事では第2週の会場の様子と状況についてご報告します。

先週から開始した核軍縮に関する主要委員会Ⅰに続き、第2週には核不拡散に関する主要委員会Ⅱ及び原子力の平和利用に関する主要委員会Ⅲが開始されました。また各テーマごとに今後の行動計画について討議する補助組織も第2週から開始されました。(ただし補助組織の会議は、そのほとんどが加盟国政府代表以外立ち入り禁止となっていました。)このブログでは、主に核軍縮と原子力の平和利用についての主要委員会(Ⅰ・Ⅲ)についてご報告します。

主要委員会Ⅰ(核軍縮)

核軍縮に関する主要委員会Ⅰは、マレーシアのサイード・モハマド・ハスリン国連大使が議長を務めています。アフリカ・グループ、アラブ連合、ドイツ、ニュージーランド、タイなどの非核兵器国は、遅々として進まない核兵器国の軍縮に懸念を示し、関係諸国の軍縮に対する姿勢を問う声が多く上がりました。国際社会において、依然として核兵器が抑止の大きな役割を担い続けていることへの懸念も表明されました。また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期制定を求める声もありました。

それら対して核兵器国は、核軍縮に対する自らの変わらぬコミットメントとそれぞれの国際原子力機関(IAEA)への資金拠出などを繰り返し表明するとともに、軍縮が進まない理由として国際情勢が相変わらず不安定なことを挙げました。また核保有の有無に関わらず、多くの国が、現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻について、ほぼ全ての国際法に違反しており、世界を核の脅威にさらす行為であると強く非難しました。ウクライナは、ロシアはNPTの主要公約を全て違反し、ブダペスト覚書を弱体化させていると批判しました。それに対してロシア代表は、侵略以前から続く北大西洋条約機構(NATO)の拡大を非難し、責められるべきはロシアではないと反駁。核兵器による威嚇もウクライナに対してではなくNATOの軍事介入に備えたものであり、NPTに違反するものではないという主張を繰り返しました。

非核兵器国は、ロシアだけに限らず、全ての核兵器国が核軍縮に誠意を持って取り組んでおらず、核弾頭の近代化などによって核の脅威は依然として強く存在するとの非難を繰り返しました。また、AUKUSを通じた豪英米3カ国による原子力潜水艦建設に関する取り組みについて批判が表明されたのに対して、オーストラリア代表は自らの継続した核廃絶へのコミットメントを強調し、AUKUSでの取り決めはラロトンガ条約に反するものではないと述べました。AUKUSを通じた豪州原子力潜水艦建設に関する独立した監督機関の設立を中国が提案しましたが、米国はその任務を安全に遂行する技術と権威があると述べ、その必要性を一蹴しました。

ロシアがウクライナ侵攻を通じて消極的安全保証(NSA)に違反したという批判と関連して、NSAを法的効力のある形で導入する案がアフリカ・グループ、アルゼンチン、ドミニカ共和国、ペルーなどの数カ国によって提案されました。アルゼンチンは、このようなNSAの供与は核兵器国による核軍縮を約束した第6条履行の代替には当たらないと明言し、引き続き、核兵器国による核軍縮の必要性を強調しました。

中東非大量破壊兵器地帯の設立に関しても数カ国が言及しました(アフリカ・グループ、トルコ、スペイン)。1995年に採択された中東決議に則った同地帯の設立に関して具体的な取り組みが以前として見られず、停滞状況を打開する必要性を再確認する声があがりました。

興味深かったのは、ここ10年における新たな取り組みについての言及をする国(主に非核兵器国)の存在です。多くの国が核兵器の非人道性について言及し、核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならないことも繰り返し述べられました。また、核兵器禁止条約について触れる国もあり(アフリカグループ、タイ、エルサルバドル、ニュージーランドなど)、それら全てが、同条約がNPTを補完することを指摘しました。また、核軍縮・不拡散分野におけるジェンダー・バランスの改善を指摘する声も多くあがりました。

主要委員会Ⅲ(原子力の平和利用)

主要委員会Ⅲでは、NPT三本柱のうち、原子力の平和利用に関して各国代表が議論を行いました。NPTは、非核兵器国が核兵器を保持することを禁止する代わりに原子力の平和利用の権利を認め、そのための技術提供などに関する国際協力を定めています。この取引きについて多くの非核兵器国が自らの原子力平和利用の権利を主張し、その円滑かつ早期の実現を要求する発言がなされました(欧州連合、エジプト、イラン、イラク、日本、モロッコ、フィリピン、その他)。中国などの核兵器国からも原子力の平和利用の権利を支持する意見が述べられました。また、いくつかの非核兵器国は、平等かつ無条件な原子力の平和的利用に関する技術の分配を強く求める発言を繰り返し、技術共有が遅々として進んでいないこと、一部の国にのみ優先的に行われていることなどを問題点として指摘し、その改善を求めました。

◆原子力の平和利用

また、IAEAによる様々な原子力技術の平和利用の事例として、原子力発電を通じた環境保護や気候変動への貢献が言及されたほか、非発電分野(保健・医療、食糧・農業、水資源管理、環境、産業応用等)での取り組みも、これらを共同で進めている非核兵器国らによって紹介され、これらの取り組みが持つ重要性の再確認と今後も継続するというコミットメントを示しました(フランス、ニカラグア、コスタリカなど)。

◆原子力平和利用の安全・核セキュリティ

原子力平和利用の安全・核セキュリティについて、多くの国がロシアのウクライナ侵攻に言及しました。特に、欧州最大規模であり、3月からロシアの支配下にあるザポリージャ原子力発電所を取り巻く状況の急激な悪化が危惧され、ロシアに対して、ただちに侵略戦争を止め、原発地域から撤廃することを強く求める声が多くあがりました。それに対して、ロシア代表は「ザポリージャ原子力発電所を攻撃しているのはウクライナである」と主張。ウクライナ代表は「どちらの側が侵略戦争を行っているのかは誰が見ても明白である」とロシアを非難しました。

また原子力平和利用の安全性について、福島第一原子力発電所が言及されました。その多くは、2011年3月11日に起きた事故を念頭に「あのような事故を繰り返さぬよう、さらに徹底した安全管理が必要」という主張でしたが、中国代表は3度にわたり放射性汚染水の海洋廃棄に関する透明性の問題を指摘し、日本の現在の行動が周辺諸国を危険に晒しており、許されるべきものではないと発言しました。これに対し日本およびイギリスは、日本はIAEAと共に汚染水問題に対処しており、その行動はNPTの原則に反するものではないと述べました。また、日本は、原子力の平和利用に関する教育制度とコミュニケーションの継続した強化の重要性について言及しました。

全体の雰囲気として委員会Ⅲでは、非核兵器国がNPTに参加する大きな理由の1つが原子力の平和利用に関する技術共有にあることがとても明確に示されているように感じ、ほぼ全ての非核兵器国が“我が国の発展に原子力の平和利用は不可欠であり、そもそもの加盟条件であった技術協力がなされるべきだ”と主張していたことが印象的でした。それについて核兵器国側は、非核兵器国の主張への同意と技術協力に関する自らの高いコミットメントを繰り返し述べるだけで、具体的な実施期限や行動計画などを提示することはありませんでした。

第2週が終わって

各主要委員会と補助組織における議論が始まった今週は、各種サイドイベントなども目白押しで、会場全体が活気に溢れていました。実質的な討議が行われた会場の多くは外部入室禁止で傍聴できなかったのが残念でしたが、各種報告書案において、核兵器禁止条約、ジェンダー、核の非人道性など、これまでにはなかった新たな動きが言及されていることは(これらのうち最終報告書にどれだけのものが残るのかは別として)評価されるべき点であると思います。また、戦争中の国同士が同じ会議室に同席し議論を交わす様子は、まさに国連会議ならではであると感じました。

第2週までに議論された内容を基に起草された各種報告書案は、以下のリンクからご覧になれます(英語)。

各主要委員会の報告書案を含む関連文書集

https://reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/npt/2022/documents

Reaching Critical WillによるNPT再検討会議期間中の報告書「News In Review」

https://reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/npt/2022/nir

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によるMC1&SB1各報告書に対する分析・評価

https://www.icanw.org/first_drafts_of_npt_review_conference_outcome_documents_are_released

ロバートソン石井りこ(ピースボート国際コーディネーター)

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