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2023年08月05日

2023 NPTレポート4 ― NGOステートメント

 現地時間8月2日10時(日本時間8月2日17時)過ぎ、2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議第1回準備委員会の会場であるウィーン国際センターにて、世界各国のNGO団体を代表した16名が意見表明を行った。ここでは日本の3団体と筆者の印象に残った4団体のステートメントを紹介する。

 初めに意見を表明した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の家島昌志さんは、3歳の時に広島で被爆し、一緒にいた母親が飛び散った窓ガラスの破片で大けがをしたことなど、自らと家族の体験を語った。そのうえで、唯一の戦争被爆国である日本は、核兵器廃絶に向けて積極的な役割を果たすことが期待されており、日本政府は「核兵器禁止に向けて世界の世論をリードする」というリップサービスだけではなく、核兵器禁止条約に参加し、核兵器廃絶に向けて世界に大きなインパクトを与えるよう、真摯に努力すべきであると訴えた。

 続いて発言した原水爆禁止日本協議会(原水協)の土田弥生さんは、ウクライナ侵攻後のロシアによる核の威嚇を非難する一方で、核抑止に依存するNATOの核戦略も批判した。同様にG7広島サミットで発表された「広島ビジョン」も「核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべき」であると、核抑止を認めている点を強く批判した。最後に、核なき世界の実現に向けて、とりわけ核兵器国と「核の傘」依存国の市民社会に対して、それぞれの国で核廃絶の世論を盛り上げるよう呼びかけた。

 平和首長会議からは、松井一実広島市長と鈴木史朗長崎市長が意見を述べた。松井市長は「ロシアが繰り返し核の脅しを行なう時代にあって、多くの政治指導者が核抑止に理解を示すようになっているが、これは被爆者の平和への訴えと逆行する」と述べ、今回の準備委員会で「核軍縮・不拡散の具体的な措置を前進させるための、重要かつ揺るぎない一歩を踏み出してほしい」と各国に呼びかけた。続いて、鈴木市長は「被爆の実相を知ることは、核なき世界への出発点であり、世界に変革をもたらす原動力となる」として、各国代表に被爆地を訪れ、自らの目で被爆の実相を学ぶよう呼びかけた。また、「長崎を最後の戦争被爆地に」と訴え、核廃絶の実現に全力を尽くす決意を示した。

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を代表して発言したエリザベス・サー(Elisabeth Saar)さんは、ロシアによるベラルーシへの核配備の動きとともに、米国がNATOの同盟5か国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)に核兵器を配備している問題を取り上げ、双方に対して核共有を即時停止するよう求めた。さらに、NPT締約国に対して、次の再検討会議において「核共有は許されない」ことを決議するよう要求した。最後に南アフリカのデズモンド・ツツ司教の言葉を引用し、「一部の国が核兵器を保有することは正当であるが、他の国が核兵器を保有しようとすることは明らかに容認できないという『核のアパルトヘイト』体制を容認してはならない。このような二重基準は、世界の平和と安全の基盤とはならない。すべての国に同じ基準、すなわち核兵器をゼロにするという基準を適用しなければならない」と訴えた。

 アボリション2000を代表して意見を述べたジャッキー・カバッソ(Jackey Cabasso)さんは、ベトナム戦争下、米ソ対立が深刻化していた時代にNPTが発効したことに触れ、ウクライナ戦争を機に世界の分断が深刻化している今こそ、核廃絶に向けた動きを活発化させるべきであると訴えた。具体的には、最初の原爆使用から100年の節目までに、NPT第6条の義務を果たし、核兵器廃絶を達成するため、それに向けた枠組み、諸合意、あるいは包括的核兵器禁止条約を2030年までに採択し、それを2045年までに完全に履行するという時間軸について約束するよう各国に求めた。

 バーゼル・ピース・オフィスおよびノー・ファースト・ユース・グローバルなどを代表したジョン・ハラム(John Hallam)さんは、ロシアのウクライナ侵攻、インド・パキスタンの対立、南北朝鮮の緊張の激化といった核保有国が関係する対立が未解決であることに触れ、今ほど、核使用リスクの低減が必要とされている時はないとの認識を示した。そのうえで、2022年1月に5核兵器国が「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」ことを改めて確認したこと、および同年11月にG20バリ・サミットが「核兵器の使用と使用の威嚇は許されない」との一節を首脳宣言に入れたことを高く評価し、この立場をNPT準備委員会、国連総会、G20などの場で再確認するよう求めた。

中国軍備管理・軍縮協会からは李馳江(Li Chijiang)さんが意見を述べた。同協会は、中国外務省所管の団体であるためか、彼らの訴えは中国政府の立場そのものだった。李さんは、名指しは慎重に避けながらも、国家が冷戦思考の大国間競争に取りつかれていることが世界の安全保障環境を悪化させているとの認識を示したうえで、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」ことを強調した。また、他の4つの核兵器国に対して、核兵器の先行不使用政策の採用を求めるとともに、先行不使用条約の締結に向けて交渉を始めることを呼びかけた。さらに、米英によるオーストラリアへの原子力潜水艦技術の供与が深刻な核拡散のリスクをもたらしていると非難するとともに、米国が韓国や日本と核共有をしないよう強く求めた。

 NGOによる意見表明は、予定より30分ほど早い12時30分過ぎに終了した。会場にはNGOステートメントの発表者、傍聴者、報道陣、政府関係者らが入り混じっており、昨年ニューヨーク国連本部で行われたNGOプレゼンテーションより自由で開放的な雰囲気が感じられた。

ピースデポ 渡辺洋介

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