2023 NPTレポート5 ― 第1回準備委員会 クラスター1
はじめに
開幕3日目となる8月2日午後の会合では、それまで続いていた一般討論を終え、クラスター1の議論が開始された。ここでは、核不拡散条約(NPT)の3本柱の1つである核軍縮にテーマを絞って、各国が見解を表明した。NPTの会合でのステートメントの発表には、複数国がグループとしての見解を表明する場合と、各国が自国の立場を表明する場合とがある。今回のクラスター1では、53のステートメントのうち、グループによる発表が9件であった(演説者名簿はこちら)。以下、この比較的多くの締約国の意見を代表するグループ・ステートメント、ついで核兵器国5カ国のもの、さらに日本のステートメントにつき、その概要を紹介する。
非同盟運動(NAM)諸国
NAMからは、代表してインドネシアが、次のような原則的立場を表明した。NPTの目的は、非核兵器国の核兵器取得を阻止し、核兵器国の核兵器を撤廃することにある。NPTの無期限延長は、核兵器国による核兵器の無期限保有を意味しない。核兵器の使用・威嚇は、人道に対する罪であり、保有だけでも国際人道法に違反する。核廃絶こそ、核兵器の使用・威嚇を防ぐ唯一の保証である。非核兵器国に対する核兵器の使用や威嚇をしない(=消極的安全保証)という法的拘束力のある文書の締結こそ最優先事項である。包括的核実験禁止条約(CTBT)の普遍化達成と同条約が発効するまでの核実験の停止(モラトリアム)および核兵器の研究開発の禁止を求める。核兵器国に対して2000年に約束し2010年にも確認した核廃絶の「明確な約束」を履行することを求める。核兵器国の説明責任として再検討会議で核軍縮に関する報告を行い、非核兵器国が意見を表明できる仕組みの構築が必要である。核兵器国と一部の非核兵器国による拡大核安全保障(拡大核抑止)は核の役割を高めている。核兵器禁止条約(TPNW)の発効とその第1回締約国会合に留意する。軍縮会議に、核兵器に関する包括的条約の交渉・締結のための補助機関を設置することを求める。原子力の平和的利用の奪い得ない権利を重視する。
欧州連合(EU)
EUは、EU加盟国に加えてウクライナなど非加盟9カ国も代表して次のように述べた。NPT6条を含め、NPTの義務と再検討会議での過去の約束の履行が必要である。EUは、国際的な安定や平和・安全を促進する形で条約目標に従って、すべてにとって(for all)より安全な世界を追求する。核使用の非常に深刻な結果を指摘し、それが生じないようにする責任の共有を強調する。ロシアの侵略戦争と核使用の威嚇を非難する。ロシアに対して「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」との約束を尊重することを求める。またロシアによる核実験準備の表明を懸念し、核実験モラトリアムの維持を求める。ロシアは1994年のブタペスト覚書に違反し、ベラルーシも核配備を認めることで同覚書に違反した。その核配備決定の撤回を求める。NPT6条の実施には、世界の核兵器の全体的削減が必要である。ロシアに対して新STARTの遵守に戻り、その義務を果たすことを求める。核兵器を最も保有する2つの核兵器国には核軍縮・軍備管理における特別な責任がある。核兵器国に対して、透明性を高めるとともに、更なる核削減と信頼醸成、核リスク低減、核軍縮検証の議論を進めることを求める。中国には軍備管理対話への応答、透明性の向上、さらなる核開発の停止、核リスクの削減を求める。さらに、核兵器国による戦略的安定、透明性向上および信頼醸成のための対話強化、核リスクの削減、核軍縮検証の多国間協力、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始・早期妥結と核分裂性物質生産モラトリアム、CTBTの発効促進を強調する。加えて、非核兵器国が、核兵器国による拘束力のある安全の保証を受ける正当な利益を認識する。軍縮・不拡散教育を支援する。ジェンダーの視点も重要である。
アラブグループ
アラブグループを代表してアラブ首長国連邦が、NAMの声明に同調するとした上で、次のように述べた(以下、英語通訳からの要約)。NPT6条の義務と再検討会議での約束を履行するための現実的・達成可能な措置が必要である。この点、冷戦期であっても、他国が核兵器を取得しないという約束と引き換えに、核兵器の完全廃絶を核兵器国に義務付けるという取引に基づいてNPTが成立したことを想起すべきである。5核兵器国による核保有は、NPTにおいて一時的なもので、恒久的な地位ではない。核兵器国による核使用を認める政策やその依存の拡大、核兵器の近代化や新型核の開発は、NPTに反し、NPTの信頼性や存在を脅かすし、非核兵器国への消極的・積極的安全保証にも反する。非核兵器国に核使用・威嚇を行わないとの法的約束を求める。TPNWはNPT6条での核軍縮の約束不履行に対する懸念の結果である。効果的な検証監視メカニズムの下で完全かつ不可逆的な核廃絶の日程を定める条約について軍縮会議で交渉する必要がある。FMCTは普遍的かつ非差別的であるべきで、現存する核分裂性物質の備蓄の撤廃も含めることを求める。核兵器国に対して軍事用余剰核物質をIAEA保障措置下に置くという過去の合意を履行することを求める。CTBTの普遍化と発効を進めることを求める。
新アジェンダ連合(NAC)
NACを代表したメキシコは、核廃絶の「明確な約束」に沿ってNPT6条の完全実施に向けて進むことを核兵器国が明示的に再度約束することが不可欠であり、困難な国際安全保障環境を理由に核兵器国による軍縮義務履行が遅滞することは許されないとして、以下の点を強調した。
① NPTの核軍縮義務と1995年、2000年、2010年の合意を不可逆性・検証可能性・透明性の原則により履行すること。
② 核使用のレトリックの常態化・核使用の威嚇を拒否すべきである。これらは国連憲章に違反している。
③ 核リスク低減を支持するが、これは核軍縮義務に代替はしない暫定措置である。核廃絶こそ核兵器の使用・威嚇を防ぐ唯一の保証である。核兵器の警戒態勢の解除、非戦略核の配備撤回などを求める。
④ 核兵器国による報告と準備委員会・再検討会議における非核兵器国との議論(構造化された対話)などを通じて透明性と説明責任を強化すること。
⑤ 1995年の中東決議の実施。
⑥ 核兵器国と核依存国に核兵器の役割低減措置を求め、その定期報告に非核兵器国における配備核の撤去状況を含めること。
⑦ 核兵器の壊滅的な人道上の影響の理解を深め、その重大な懸念を繰り返し表明する。
⑧ すべての締約国はNPT6条を遅滞なく履行しなければならない。
軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)
NPDIは、2010年9月、日本とオーストラリアが主導し、志を共有する非核兵器国と共に立ち上げた地域横断的グループである(日本外務省による説明はこちら)。この会合ではオーストラリアが、NPDIを代表して次のように簡潔に述べた。透明性の原則が、不可逆性と検証可能性の原則とともに、核軍縮にとって不可欠である。透明性の向上は対話と交渉の共通基盤を確立し、核兵器の完全廃絶に向けた更なる削減を促進できる。非核兵器国はIAEA保障措置に基づくIAEA理事会への報告を通じ、不拡散義務の履行によって透明性を示すが、核兵器国の核軍縮義務履行には特別な透明性メカニズムがない。再検討プロセス強化の作業部会で勧告に合意できなかったのは残念だが、継続した議論が必要である。NPDIは、①詳細かつ標準化された報告書を用いて報告を強化すること、②NPT会合においてこの報告書に関する公開で対話的な議論の時間を確保することの2点を提案する。
アフリカ・グループ
アフリカ・グループを代表してブルキナファソが、NAMの声明に賛同するとした上で、次のように述べた。核兵器の完全廃絶こそ、その使用・威嚇を防ぐ唯一の絶対的保証である。核兵器の完全廃絶と非核兵器国に対して核兵器を使用したり使用の威嚇を行ったりしないという法的保証、そして核兵器の相互削減のための明確な基準と期限への合意を求める。TPNWの採択を歓迎する。TPNWはNPTを基盤とする核不拡散体制を補完・強化するものである。核兵器国には全ての核実験の停止と核兵器の研究開発の禁止を要請し、全ての国にTPNWの早期の署名・批准を求める。核兵器国には前提条件なしに核兵器の廃絶を追求し、NPT6条に基づく義務と約束を履行するよう求める。非核兵器地帯の設置は核軍縮と不拡散には重要であり、非核兵器地帯となったアフリカ同様に、中東などでの地帯の実現を呼びかける。核兵器の人道上の影響への考慮も求める。核兵器は、特定期限内に検証可能かつ不可逆な方法で完全に廃棄することが必要である。それまでは、核兵器国は法的拘束力のある先制不使用を保証すべきである。
オーストリア、英国、ノルウェーおよびメキシコ
オーストリア、英国、ノルウェーおよびメキシコを代表して、ノルウェーが、比較的簡潔に、次のように述べた。透明性と検証可能性、不可逆性という合意された原則をあらゆる核軍縮努力とNPTのすべての柱の持続可能性に適用することが最も重要である。核兵器の使用から生じるであろう壊滅的な結果を懸念するゆえに、核軍縮は不可逆的なものであるべきだ。
TPNW締約国諸国
TPNW締約国諸国を代表してメキシコが、次のように述べた。我々は、NPTとCTBT・非核兵器地帯諸条約・TPNWなど補完的条約とにおける責任と合意を遵守する。
TPNWによる核兵器の拒否と国際人道法への支持はNPT6条の効果的実施の議論に資する。核兵器の完全禁止こそ核拡散防止の最も効果的な法的手段である。抑止の原理に内在する核使用の威嚇、使用可能性の言及の常態化、核のレトリックの増加など、あらゆる核の脅威を非難する。核兵器の使用・使用の威嚇は国連憲章を含む国際法に違反する。緊張を高めるための手段としての核兵器の使用を拒否し、使用の威嚇と抑止力を価値あるものとする理論の正当性を否定する。NPTの大多数の締約国は、核兵器の使用・使用の威嚇に対抗する唯一の保証こそ核廃絶であるという点に合意している。核兵器国は、いかなる状況でも核兵器を使用しない、あるいは使用すると威嚇しないことを約束しなければならない。核のリスクは核保有国のみならず全人類の安全に影響する。核兵器の壊滅的影響に対処することはできない。全ての国にTPNWへの遅滞なき参加と第2回締約国会合への参加を求める。
アイルランド・ニュージーランド・スイス
アイルランドは、ニュージーランド、スイスと自国を代表して、NPT6条の実施に関する透明性と説明責任の問題について発言した。これら3カ国は共同で作業文書(NPT/CONF.2026/PC.1/WP.6)を提出しており、今回の準備委員会に先立ち開催されたNPTさ検討プロセス強化の作業部会の議論も踏まえて、以下3点の提案を行なった。
- 各国は国別報告書を通じて、核兵器国の軍縮への取り組みを評価できるプロセスが必要だと認識しており、報告書の審査や非核兵器国との対話に時間を割く必要がある。
- 核兵器国による国別報告書には標準化された枠組みを用いて、データを比較できるようにすることが必要である。
- この国別報告を再検討会議に反映させる手段として、準備委員会の議長による共同報告書による勧告を行うことが考えられる。
核兵器国の発言
多くの非核兵器国による上記の主張に対して、核兵器国は以下のように応じた(発言順)。
米国
米国は、核軍縮に関する効果的な措置について誠実に交渉を進めるというNPTの義務を支持する。これは国家安全保障上の利益と、核兵器使用の人道的影響についての理解に基づいた取り組みである。例えば、米国は、保有核兵器数を(冷戦期のピークから)88%以上削減し、現在の安全保障環境を十分に認識しながら、国防戦略における核兵器の役割を低減する機会を模索している。核分裂性物質の生産モラトリアムを維持し、FMCTの交渉も求めている。軍事用余剰核物質については公表しIAEAが検証している。民生用プルトニウムの保有量もIAEAに報告している。また不拡散義務を遵守する非核兵器国には消極的安全保証を提供し、米国の核兵器は(平時において)他国を標的としていない。CTBTO準備委員会の国際監視システムも支援し、核爆発実験のモラトリアムも維持している。核軍縮のための環境醸成(CEND)イニシアチブと核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)を支援する。NPTにおいて国別報告の議論の準備はできている。挑発なしに隣国を攻撃したのは米国ではないし、核兵器の透明性が最小限なのも米国ではない。核分裂性物質生産能力を増強しているのも米国ではない。だが、米国は前提条件なしにロ中と2国間軍備管理協議に参加する用意がある。P5は軍備管理とリスク削減の取り組みを継続する。ロシアは新STARTに戻り、核リスクを管理し、2026年以降の核軍備管理枠組みを議論すべき時である。中国は戦略的核問題につき米国と関与する時である。FMCT交渉の時も来た。全ての国が核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言する時も来た。CTBT発効までの間、核爆発実験のモラトリアムを維持しなければならない。米国は、粘り強く現実的かつ進歩的な行動をとる。
英国
英国は、すべての人々の安全が損なわれない核兵器のない世界という長期的目標に取り組んでいる。この目標達成の信頼できる唯一の方法は、NPTを通じて交渉される段階的な多国間軍縮である。困難な安全保障環境において直面する課題を見極める必要がある。核兵器の大幅増加と多様化を進める国もある。新たな核兵器技術に投資し、新たな戦闘用核システムを開発し、それらを軍事戦略やドクトリン、そして他者を威圧する政治的レトリックに使う国もある。責任ある核兵器国として、英国は核兵器のない世界に向けた環境づくりに取り組む。英国は冷戦終結以来、世界の核削減に大きく貢献した。備蓄量を約半分に減らし、核兵器国の間で最小の備蓄量を維持している。核兵器の照準を外し、警戒態勢を解除し、抑止力を単一の運搬システムに縮小し、国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小した。消極的安全保証と非核兵器地帯への支持を再確認した。ロシアには、直ちに新STARTの完全遵守に戻り、この問題に関して米国と建設的に取り組むよう求めるが、軍縮の進展は兵器備蓄の削減だけに反映されるものではない。集団的な信頼を築き、最終的な目標を達成するためにより良い安全保障環境を構築する必要がある。そこで、軍縮に代替しないことを認識したうえで、戦略的リスク削減に一層努力する。安定性に関する透明化を図り、より良い相互理解を構築し、核使用の可能性を低減する戦略的リスク削減のための効果的な措置を特定し、実行するために、英国の利益と安全を脅かす可能性のある国を含め、すべての国と協力する用意がある。検証の不可逆性と透明性に関する進歩を図る。国内の研究プログラムと、(英米ノルウェー・スウェーデン4カ国による)Quad核軍縮検証パートナーシップや核軍縮検証のための国際パートナーシップを含む国際活動を継続する。科学的および技術的専門家からなる国連グループの設立を含め、この作業を継続できることを願う。不可逆性の原則に関する集団的思考をさらに発展させる。透明性は、核兵器国間の信頼醸成と交渉を支えるとともに、NPTの履行における議会や国民、他の締約国に対する説明責任の両方を支える。NPT再検討プロセスのさらなる強化に関する作業部会ではこの問題に関する提案に合意はできなかったが、準備委員会でこれらの提案に取り組み続ける。CTBTの発効と、軍縮会議における核分裂性物質の生産を禁止する効果的で検証可能な国際条約に関する即時交渉の開始を引き続き求める。
フランス
フランス(以下英語通訳からの要約)は、ロシアによる攻撃的で無責任な核攻撃のレトリックを非難し、これらはNPTと2022年1月のP5首脳宣言に矛盾する。フランス自身は核兵器国としてNPT6条の義務を完全に履行する不断の努力を示してきており、核兵器の削減や解体、核分裂性物質生産施設の解体、核実験場の閉鎖などを実施した。フランスは核兵器の完全廃絶という長期的目標を共有しており、これには漸進的アプローチが必要である。核弾頭数を300未満に削減し透明性を持って約束を履行してきた。中国等にも同様の措置を求める。非核兵器国への消極的安全保証は重要であり、1995年国連安保理決議984に添付された同国の宣言におけるそれには法的拘束力があるとみなしている。非核兵器地帯の創設も支持し、バンコク条約署名のためアジア諸国と対話を進める。中東非大量破壊兵器地帯の設立も支持する。軍縮の課題として、まず国際安全保障構造におけるNPTの優位性と中心性を再確認すること、次にCTBTの発効を促進し、核爆発実験モラトリアムの維持を求めること、最後にCTBTの交渉開始と核分裂性物質生産モラトリアムの維持を求めることが挙げられる。ロシアに対しては核実験モラトリアムの維持を求める。戦略的リスク削減は核軍縮に代替しないが、核兵器のない世界の達成には重要であり、引き続きP5プロセスにおいてこの問題に関与する。核軍縮の検証問題にも取り組む。
ロシア
ロシアは、核軍縮の議論において地政学的・戦略的現実が考慮されていないと指摘して、以下のように述べた。NPT前文に見られるように、その起草者にとって核軍縮の進展と国際安全保障情勢との関連性は明らかだった。また、再検討会議においても、全ての人々にとっての安全が低減しないとの原則は確認されてきた。核兵器を非合法化し、核ゼロへの近道の計画は実行不可能で、TPNWのような取り組みは逆効果だ。NPT締約国間の分断を深め、NPTの存続可能性を弱める。現実的・段階的なアプローチこそ核廃絶を可能にし、時間枠を設定するのではなく、全ての当事者の安全保障の利益を考慮して、軍縮環境をつくるために、国際社会のすべてのメンバーの取り組みが必要だ。核軍縮はNPT6条にある通り、全面完全軍縮の一部である。ロシアはNPTの義務を履行しており、核兵器の役割低減を進めている。ロシアの核抑止政策は専守防衛であり、ロシアとその同盟国への侵略を防ぐための最小限の核戦力の維持を目的とする。現時点では核兵器の継続的保有が、特定の外部からの脅威への対応策となっている。ウクライナ危機は西欧諸国が引き起こしたものであり、NATO拡大はロシアの弱体化を目的としており、悪意がある。ロシアの核削減はその安全保障を低下させ、通常兵器で優位するNATOによる対ロシア侵略が現実味を帯びる。核軍縮を進めるには、西側諸国がロシアの安全を損なう政策を放棄する必要がある。米露間の対話は米側によって中断され、新STARTの停止は、米国の破壊的行動によるものである。欧州配備の米国の核は、ロシアの領土内を即時に攻撃できるもので、対応策を講じる必要がある。米韓の共同核計画は緊張を高め軍拡を進める。この動きが日本にも及ぶことを懸念する。「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」との前提を維持する。核リスク削減は相互の関係を考慮した包括的アプローチが基礎となる。核軍縮検証の問題は、過大評価すべきではなく、核軍縮協定交渉から切り離して検証手順を早期発見することの妥当性について合意はない。
中国
中国は、世界の安全保障情勢は冷戦以来最も深刻な変化を迎えており、一部の国は「大国の戦略的競争」に執着し、絶対的な戦略的優位性を追求し、軍事同盟を強化し、ブロック対立を引き起こし、相互関係を著しく損なう核兵器やミサイルなどの戦略戦力の前方配備を促進していると指摘した。同国は、NPTの普遍性、権威、有効性を強化し、国際的な核軍縮プロセスを共同で推進するとして以下4点の見解を述べた。
第1に、核軍縮に関する国際的合意を維持し、核兵器国は「世界の戦略的安定性の維持」と「すべての人々のための低減することのない安全」の原則に従うべきである。核軍縮は段階的かつバランスの取れた削減の公正かつ合理的なプロセスであるべきである。最大の核兵器を保有する国は、核軍縮に対する特別かつ主要な責任を引き続き果たし、新STARTを効果的に履行し、検証可能、不可逆的そして法的拘束力のある方法で核兵器をさらに大幅かつ実質的に削減しなければならない。第2に、戦略的リスクの削減である。核兵器は決して使用されてはならず、核戦争は決して戦われるべきではなく、国際社会は共同して核兵器の使用や使用の威嚇に反対すべきである。P5に対し、戦略的リスクを低減するためのさらなる努力を求める。第3に安全保障政策における核兵器の役割の低減である。中国はすべての核兵器国に対し、中国と同様に先制不使用政策を追求し、核兵器の相互先制不使用に関する条約を締結し、どの国も標的にしないことを求める。中国は、軍縮会議における、非核兵器国に消極的安全保証を与える国際法的文書の早期交渉を主張し、非核兵器地帯確立の努力を支持する。特定国については、「拡大抑止」の強化をやめ、海外に配備されている核兵器を自国から撤退すべきである。そして、アジア太平洋地域で「核共有」協定を再現することを控えることを求める。第4に、NPTを基軸とした国際的な核軍縮・不拡散体制を維持・強化することである。国際社会は、核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用の三本柱をバランスよく推進し、二重基準と現実主義に反対し、条約の有効性と権威をしっかりと守り、11回目の再検討プロセスを成功裡に開始すべきだ。
日本の発言
日本は、まず、昨年のNPT再検討会議における最終文書は採択にいたらなったものの、締約国がNPT体制の維持・強化に向けたコミットメントを示したことの意義は大きいとした上で、ロシアによる核兵器使用の威嚇を非難した。ついで、昨年のNPTにおいて岸田首相が提案した「広島アクション・プラン」から4点を取り上げて、主張した。
第1に、核兵器の不使用の記録の延長と、昨年1月のP5共同声明で述べられた「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」という約束を行動で尊重すること、特に、核リスク低減についての議論を進めることを求める。
第2に、透明性の向上を求める。その点NPDIの作業文書に言及した。
第3に、核兵器数の減少傾向を逆転させないことを強調し、新STARTの完全実施の重要性を強調するとともに、全ての核兵器国が核軍縮・不拡散対話に参加するよう求める。また、FMCTの交渉開始と核分裂性物質生産モラトリアムの維持、CTBTの発効と核実験モラトリアムの維持を要請する。
第4に、核兵器使用の実相に対する認識を高める努力を強調し、核兵器の影響を受けた地域社会への訪問を重視している。
クラスター1の「特定問題:核軍縮と安全の保証」をめぐる議論
クラスター1では、さらに特定問題(specific issue)として「核軍縮と安全の保証」にテーマを限定して議論する時間が設けられており、4日目(8月3日)の午後と5日目(8月4日)の午前の会合において、各国が見解を表明した。この時間は事前に演説者名簿は作成されず、発言を希望する国が会場でネームプレートを掲げ、議長が指名する形式で議事が進行した。全体的に議論は活発ではなく、発言する国は14カ国にとどまった。
この問題の中心は、NPTにおいて核兵器の取得が禁じられている非核兵器国に対して核兵器国が核兵器の使用・威嚇を行わないという消極的安全保証をどのように約束するかという点にある。
冒頭NAMを代表してインドネシアが、すべての非核兵器国にとって、NPTの締約国になることによって核兵器の使用という選択肢を放棄する代わりに、核兵器の使用または使用の威嚇に対して有効で、普遍的、無条件および非差別的で取り消され得ない法的拘束力のある消極的安全保証を受けることは、正当な権利であると述べた。その上で、核兵器を保有しない国が核兵器の使用や使用の威嚇の対象とならないことを確保する普遍的、無条件かつ法的拘束力のある文書について早期に合意する緊急の必要性があることを強調した。
これに対して、中国(以下英語通訳からの要約)は、自国は先制不使用政策を維持しており、非核兵器国や非核兵器地帯に対しても無条件で核兵器を使用したり威嚇したりしない約束をしていると述べた。また、1994年1月には他の核兵器国に対して相互先制不使用条約草案を提示していることに言及し、消極的安全保証に関する国際的な法的文書の締結に向けて、軍縮会議における実質的な作業をできるだけ早く開始することを支持しているとした。米国は、①不拡散義務を遵守するNPT締約国である非核兵器国には消極的安全保証を自国の核態勢見直し(NPR)で約束している、②非核兵器地帯の消極的安全保証に関する議定書を通じて、この約束を法的拘束力のあるものとすることが適切である、③安保理決議984での積極的安全保証を想起する、とした。加えて、昨年の再検討会議で表明した安全の保証に関する米英仏によるP3共同声明にも言及した。ロシア(以下英語通訳からの要約)は、非核兵器国に対する核兵器の使用または使用の威嚇を排除する法的拘束力のある保証を得ようという非核兵器国の姿勢を一貫して支持する。非核兵器地帯の設立は、非核兵器国が法的拘束力のある消極的安全保証を得る可能性の一つであると信じる。非核兵器国の安全保証に関する協定をNPT会合で詳しく検討することに反対はしないが、すべてロシアの軍事ドクトリンとの合致を考慮すべきであると、条件を付した。
非核兵器国への消極的安全保証の問題は、非核兵器地帯と関連づけて議論されており、この問題は、クラスター2でも言及される可能性がある。
おわりに
クラスター1での議論は、各国がそれぞれの立場を主張するに止まり、合意形成に向けて歩み寄りを見せる気配はまだない。またそもそも発言国が少なく、当初予定されていた(4日目(8月3日)と5日目(8月4日)のそれぞれ午前と午後の4回分の会合)よりも日程を早めに消化し、5日目の午後からはクラスターⅡの議論が始まっている。
これと対照的なのは、毎日の終わりに設定された答弁権(right of reply)の時間である。日本のALPS処理水や豪英米のAUKUSなどにも言及があったが、現時点で主たる焦点となっているのはロシアである。ウクライナ戦争でのザポリージャ原発問題などでロシアとウクライナが激しくやり合う場面もあるが、NPTの条文との関係で核共有問題に注目が集まっている。核共有についてはNATO諸国とロシアの応酬にとどまらず、エジプトなども答弁権を行使して見解を表明した。今後の展開に注目しておきたい。なお、これについては長崎大学核兵器廃絶研究センターによるRECNA NPT Blog 2023「第2号 「核共有」をめぐる議論(2023年8月4日)」が詳しい。
明治大学 山田寿則
(PDFはこちら)