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2023年08月21日

2023 NPT インタビュー3 − レバノン政策研究センター クリステル・バラカットさん

 核不拡散条約(NPT)第1回準備委員会に参加している核軍縮の分野で活躍する若者のインタビュー第3回目はレバノン出身のクリステル・バラカット(Christelle Barakat)さんです。

*ここでのインタビューは彼女が所属する団体を代表するものではありません。

倉光(K):本日はよろしくお願いします。まず始めに自己紹介をしていただけますか?

クリステル(C):私はレバノン出身で、レバノンアメリカン大学(Lebanese American University)という学校で学士号を取得した後、2022年5月にフルブライト奨学生としてアメリカのノースカロライナ大学グリーンズボロ校で平和学(国際平和開発専攻)の修士号を取得しました。現在は母国に戻り、レバノン政策研究センター(Lebanese Center for Policy Studies) というシンクタンクでレバノンや中東、北アフリカ地域の公共政策について研究しています。直近では、レバノンでの内戦における戦争被害についての研究や、現在のレバノンの状況と歴史、教育、復興開発といったテーマに関するプロジェクトに携わっています。仕事とは別に広島-ICANアカデミーやストックホルム平和研究所(SIPRI)による軍縮サマースクール、ユース・フュージョン(Youth Fusion)によるホットライン・キャンペーン(Hotline Campaign)など、様々なプログラムに参加することで軍縮に携わってきました。

K:今回はなぜNPT準備委員会に参加しているのですか?

C:今回は#Leaders2Futureという国連軍縮部の軍縮・不拡散教育プログラムに参加するためウィーンに来ました。#Leaders2Futureのプログラム参加者はおよそ50人ほどで、数ヶ月に1回、軍縮と他の様々なトピックとの関係性(ジェンダー、多様性、マルチラテラリズム(多国間主義)、近代技術など)についてオンラインで勉強会とディスカッションを行い、それぞれのトピックについて自分たちの意見勧告をまとめました。それらを今回の準備委員会のサイドイベントで発表するために、代表の10人がウィーンに派遣されることとなりました。また、平和首長会議のサイドイベントや現地の軍縮コミュニティに所属する若者との交流会などにも参加しました。その他には、NPT締約国の政府代表団や準備委員会の議長と面会をしたり、ウィーンにオフィスがある包括的核兵器禁止条約機関準備委員会(CTBTO)や国際原子力機関(IAEA)、国連軍縮部ウィーン事務所、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の見学もしました。

K:軍縮の問題に携わるようになったきっかけは何ですか?

C:国連軍縮部の軍縮ユース・チャンピオンに選ばれたことをきっかけに約2〜3年前から携わるようになりました。この国連軍縮部のプログラムを通してピースボートという団体について初めて知り、そこで被爆者の証言を聞いたことにとても心を動かされ、ピースボートでインターンとして働くことにしました。そこでオンラインで被爆証言を紹介するプロジェクトに関わるなかで、地球上の誰も、被爆者の方が受けた苦しみや悲しい体験をしてほしくない、そのような出来事は二度と起こしてはならないと感じました。また、そのためには高齢になられてきている被爆者の声をもっと多くの人に届けなければならないという強い使命を感じ、核軍縮の分野に対する関心がさらに高まりました。

K:そもそも軍縮という分野に興味を持ったきっかけは何ですか?

C:軍縮の分野に興味を持ったのは、私の出身国であるレバノンにおいて、喜ばしいイベントや悲しいイベントの両方を含め、様々な機会で人々が銃を何発か発砲するという文化があり、その度に、何の罪もない犠牲者が出てしまうということにありました。レバノンでは、自衛のためやコミュニティを維持するためという名目で人々が銃を保持しており、銃を使った事件がしばしば起きています。核軍縮に興味を持ったのは、先ほど述べた通り、ピースボートでのインターンの時に被爆者の証言を聞いたことです。1人1人の被爆証言は特別で、どの方の証言にも私の感情は大きく揺さぶられました。彼ら1人1人の言葉と話は「私は、私のできることを精一杯しなければならない」という情熱と使命感を与えてくれ、「彼らの言葉を多くの人に届けたい、そして決して同じ過ちは繰り返してはならない」という思いが生まれました。

K:核軍縮の活動に関わる中で困難だと感じるのはどんな時でしょうか?

C:広島と長崎の出来事を含め、核兵器の問題や核軍縮について人々があまり知らないことだと思います。国連軍縮ユース・チャンピオンのプログラムには約6000人の応募がありましたが、最近募集されたユース非核リーダー基金の応募人数は2000人ほどだったと聞いています。確かに2000人は大きな数だとは思いますが、ユース・チャンピオンの時と比べると少なく、これは「平和」のために核兵器に頼っている政府の主張を信じている人がまだ多くいるということを示していると思います。
 核兵器や原子力に関する特定の考え方が政府や専門家によって広められ、核兵器ありきでの安全保障や抑止力によって保たれている「平和」が正しいと広く信じられているという点も核軍縮や核廃絶の達成を妨げていると思います。そのような伝統的な考え方を根本から変えるのはとても難しく、時間がかかることでしょう。また、この点と関連して、私たちが心に留めておくべきことは、政府で働いている人たち全員が核兵器のことを深く理解している訳ではないということです。

K:近年、軍縮分野では若者の参加を活発にしようという動きがみられますが、この分野において若者にはどのような役割があると思いますか?

C:若者には、4つの役割があると思っています。1つ目は、被爆証言などのオーラル・ヒストリーを受け継いでいくことです。特に被爆者の高齢化がどんどん進み、被爆体験を直接聞くことができる最後の世代と言われている私たちは、オーラル・ヒストリーを聞くだけではなくて、次の世代に継承していくという責任があります。核兵器の使用によりどのような悲劇が引き起こされたのかということ、そして核兵器は廃絶すべきものであるということを決して忘れてはいけないし、忘れさせてもいけません。
 2つ目は、若者たちが共鳴し合い、活気を生み出し、それをクリエイティブなアイディアや行動に移していくという役割です。最近の若者たちはSNS等を通じて繋がり、お互いにどんな活動をしているかを共有しており、それを元に協力の輪が広がりやすい環境にいます。
 3つ目は、あまり語られることはないですが、希望を与え続けるという役割があると思います。私たち人間の多くは、若い時には未来への希望を持ち、優しく平和な世界を創っていくことができると信じています。変化を起こす自信を持ち、リスクや失敗を恐れず、たくさんの情熱を持っています。しかし、年月と経験を重ねるとともに、現実に触れるなかで、気がつけば少しずつ大人しくなってしまう。私たち若者の大きな希望とエネルギーを大人にぶつけることによって「現実的」を求めて小さくなった大人の希望を再燃させるという重要な役割があると思うのです。
 4つ目は、国の大使や代表団に会って、彼らの意思決定や仕事に対してフィードバックをしたり、新たな視点を加えたりするという役割です。大使や政府代表部の方は、国レベルでの決定の先にある結果を目の当たりにすることが少ないのではないかと思います。なぜなら、国により様々ですが、軍縮を担当している政府代表の方は、核兵器だけではなく他の大量破壊兵器やAI、サイバー、宇宙、そして通常兵器など、幅広い兵器の軍縮に関わっており、日々の業務がとても忙しそうだからです。業務内容や扱うトピックは多岐にわたっているため、条約や決議などに関する決定をしても、結果としてそれらがどう市民社会や個人に影響したかという側面を見ることがあまりないと思います。もちろん、大使や代表の方が一生懸命取り組まれている国益の最大化やそのための合意文章の文言調整といった国目線での視点重要性はわかっています。若者は若者の視点から、国という枠を超えた「人間」や「地球」という規模での安全保障の考え方や人道的な視点での意見を国の代表者に伝え、マクロレベルでのフィードバックをすることで、国の決定が個人にもたらす結果や影響を可視化することができると思っています。

K:日本の若者に向けてメッセージをいただけますか?

C:今回の準備委員会の平和首長会議によるサイドイベントで、修道高校の学生がオーストリアの若者に「核軍縮を進めるために自分は何ができるか?」という質問をしていて、とても感動しました。私はその若者に「今している活動を継続して、核廃絶という目標を信じ、希望を持ち続けてほしい」というメッセージを送りたいなと思いました。そして、インターネットを使いながら、クリエイティブかつイノベイティブな方法で日本の視点や日本での取り組みについて発信してほしいと思います。平和首長会議に参加していた高校生は思ったことがないかもしれませんが、日本の平和教育はとてもユニークで価値のあるものだと思います。多くの国では、平和教育は行われていないと思います。日本の教育で学んだことをぜひ広げてほしいと思います。
 もう1つ日本の若者に伝えたいことは、あなたたちはすでに私や世界の人々に刺激を与えている存在だということを自覚することが大切であるということです。私を含めた海外の若者は、日本ですでに行われている平和教育や日本の若者が今まで実践してきたプロジェクトとその成果をお手本のように感じているし、それらの取り組みに尊敬と感謝の気持ちを抱いています。私も自分のコミュニティのなかでできることを引き続き頑張ろうという刺激や勇気、希望をもらえていますし、なぜ核軍縮が重要なのか、なぜ私たちが頑張必要があるのかということをいつも再確認させてもらっています。
 日本の若者の皆さん、これからも核廃絶という希望を絶やさず、それぞれができることを、それぞれの場所で行動に移し、お互い頑張りましょう!

 NPTでの若者インタビュー・シリーズは以上です。活躍しているヴァンダさん、アイゲリムさん、クリステルさんのインタビューを通して、NPTという会議の雰囲気や彼女達の活動や考え、原点などをお伝えし、それが皆様に少しでも希望をお届けすることになっていれば幸いです。

インタビューアー 倉光静都香

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