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2023年11月03日

国連総会第1委員会 ー 日本の核廃絶決議案と各国の評価

(写真:国連 UN Web TV

 2023年10月28日(現地時間27日)、国連総会第1委員会に日本が提出した決議案「核兵器のない世界に向けた共通のロードマップ構築のための取組」(A/C.1/78/L.30)が賛成145カ国(イギリス、米国など)、反対7カ国(中国、北朝鮮、ロシアなど)、棄権29カ国(フランス(昨年は賛成)、アイルランド(昨年は賛成)、オーストリア(昨年は賛成)、マレーシアなど)で採択されました(投票結果の詳細はこちら)。本年の決議案は、特に核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に関する取り組みや、透明性向上のための具体的な措置(例えば、核戦力・能力に関するデータ提供や核兵器国と非核兵器国との透明性に関する対話など)を呼びかけるものとなりました。

 日本政府の発表の通り、同決議案が米国とイギリスという核兵器国や核の傘に依存する同盟国を含め、145カ国による幅広い支持を得たこと(昨年は賛成139、反対6、棄権31)には意義があると考えられます。他方で、その内容については、例年と同様に数多くの分割投票がなされ、その評価も一様ではありません。そこで、以下では、日本決議案の核軍縮に関する内容のいくつかを取り上げ、各国政府による投票説明や分割投票の概要を紹介します。

核兵器の削減

 今年の日本決議案は、昨年と同様に、核兵器の完全廃棄の「明確な約束」を含めた過去の核不拡散条約(NPT)再検討会議におけるコミットメント(前文パラ4)や、核軍拡競争を防ぎ、最終的な核兵器廃絶への道筋を用意するための軍備管理対話に関与する核兵器国の特別な責任(前文パラ8)、国際的な安定と平和を促進し、全ての国家にとっての安全が損なわれないという原則に基づく核兵器の完全廃棄に向けた具体的な措置の重要性(前文パラ15)などに言及しました。核兵器数の削減については、ロシアによる新START条約の完全な履行と新STARTの後継条約の誠実な交渉(前文パラ7)や、核兵器数の減少傾向の維持とあらゆる種類の核兵器の削減および究極的な廃絶を呼びかけました(主文パラ4)。

 これらの核兵器削減や他の核軍縮に関連する文言に対して不満が残った非核兵器国もありました。日本決議案を支持しなかったマレーシアは、その理由の1つとして、同決議案に核軍縮の重要性と緊急性が十分に反映されていないことを挙げました。同じく決議案を棄権したオーストリアは、同案が依拠する核軍縮の「ステップ・バイ・ステップ」アプローチが、ほぼ20年の間、進展を見せていないことに懸念を示しました。さらに、メキシコは、決議案には賛成したものの、その内容が核リスク低減に集中し過ぎており、核軍縮の具体的な行動が抜け落ちていると指摘しました。また、NPTにおける核軍縮の義務およびコミットメントの履行について、日本決議案のいくつかのパラグラフがそれらを弱めている(例えばメキシコ)、あるいは条件を付しているように見える(例えばスイスイラン)という批判も挙がりました。

 さらに、今年の決議案では、昨年のものと比べて、「いくつかの核兵器国による核戦力の『非透明で(non-transparent)』急速な量的拡大と『不透明な(opaque)』質的向上に対する非核兵器国の懸念を共有する」と二重括弧内の文言が加わったことを受け、透明な形での核開発であれば問題がないように解釈しうる(スイス)という声が挙がりました。また、関連して、日本決議案では、様々な核保有国における核兵器の質的向上および近代化に対する指摘が足りないという批判(オーストリア)もありました。

核兵器の非人道性

 核兵器の非人道性については、昨年の決議案(A/C.1/77/L.61)と同じ文言が採用され、「核兵器使用の壊滅的な人道上の結末」への深い懸念を繰り返し、政治指導者や若者による広島および長崎の訪問が奨励されました(前文パラ18)。この内容についてオーストリアは、核兵器のリスクと人道上の結末に関するより強い文言や核実験被害者への認識(recognition)を含めるべきだという同国の提案が反映されていないことに遺憾の意を表しました。このパラグラフは分割投票に付され、その結果、賛成156カ国(イギリス、米国、インドなど)、反対4カ国(中国、フランス、ロシア、北朝鮮)、棄権5カ国(イスラエル、パキスタンなど)となり、核兵器禁止条約を推進する主要国にとっては不満が残る内容であったと見受けられるものの、最終的に多くの国が賛成票を投じました。関連して、核兵器の非人道性に関する決議案(A/C.1/78/L.23)に日本は賛成し、全体の投票結果は賛成136カ国(インドなど)、反対13カ国(イギリス、米国、フランス、ロシアなど)、棄権33カ国(中国、北朝鮮、オーストラリア、ドイツなど)となりました。

核兵器禁止条約

 今回の日本決議案は、昨年と同様に、核兵器禁止条約の採択を認識(acknowledging)し、条約の発効および第1回締約国会議の開催に留意(noting)しました(前文パラ19)。これは、2022年NPT再検討会議における最終文書案の文言を踏襲したものであり、核兵器禁止条約を是認する意味合いはなく、事実確認に過ぎません(この点については、こちらを参照)。また、核兵器禁止条約の第1回締約国会合にて採択された政治宣言と行動計画や、同条約とNPTを含む他の条約との補完性などに関する言及はありませんでした。核兵器禁止条約に関するこのパラグラフも分割投票に付され、その結果は賛成147カ国(米国など)、反対3カ国(北朝鮮、フランス、ロシア)、棄権11カ国(中国、イギリス、インド、イスラエルなど)となりました。他方で、核兵器禁止条約を推進する決議案(A/C.1/78/L.24)について日本は、昨年と同様、核保有国やNATO諸国と同じく反対しました(全体の投票結果は賛成124、反対43、棄権14)。なお、核兵器禁止条約を推進する同決議案にオーストラリアやスイスは、反対はせず、棄権しています。(核兵器禁止条約に関連する決議の昨年の投票結果とその分析についてはこちらを参照。)

 核兵器禁止条約との関連で言うと、同条約の被害者援助に関する作業グループ共同議長を務めているキリバスとカザフスタンが提出した、核兵器の使用および実験の被害者援助と環境修復に関する決議案(A/C.1/78/L.52)に日本を含めた米国の同盟国は賛成し(全体の投票結果は賛成171、反対4(フランス、ロシア、イギリス、北朝鮮)、棄権6(中国、米国、インド、イスラエル、パキスタンなど))、同決議案内において核兵器禁止条約の枠組みにおける被害者援助および環境修復の規定に言及したパラグラフ(主文パラ16)の分割投票にも日本は賛成票を投じました(賛成133(ドイツ、スイス、スウェーデンなど)、反対4(フランス、イギリス、米国、ポーランド)、棄権29(中国、インド、パキスタンなど)。

核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

 日本決議案における核兵器用核分裂性物質に関する内容については、FMCT交渉を求める国連総会決議から30周年を想起した前文パラ10(賛成137、反対3(中国、パキスタン、ロシア)、棄権24)、ジュネーブ軍縮会議におけるFMCTの交渉および締結や同物質の生産モラトリアムなどを求める主文パラ5(賛成137、反対3(中国、ロシア、パキスタン)、棄権23)、民生用プルトニウム管理の透明性を求める主文パラ6(賛成148、反対1(中国)、棄権13)が分割投票に付されました。また、FMCTに関する決議案(A/C.1/78/L.12)も提出され、賛成155カ国、反対5カ国(中国、ロシア、パキスタン、イランなど)、棄権24カ国となりました。

透明性の向上

 今回の日本決議案は、透明性の向上や報告措置を念頭に、2022年NPT再検討会議に先立って行われた「NPT再検討プロセスのさらなる強化に関する作業部会」に言及し(前文パラ22など)、透明性向上措置として、例えば、主文パラ3が(特に核兵器国による)核戦力・能力や核軍縮に関連する措置に関するデータの提供、NPTにおける条約義務の履行に関する報告、それらに関する非核兵器国との対話などを求めました。主文パラ3の分割投票の結果は、賛成139カ国、反対2カ国(中国、ロシア)、棄権22カ国となりました。

非核兵器地帯

 昨年の決議から新たに加わった項目の1つが非核兵器地帯です。前文パラ12では、地域の関係国家間で任意に達成される取り決めに基づき、適切なところ(where appropriate)に、さらなる非核兵器地帯を設置することを奨励し、前文パラ13では、非核兵器地帯の核軍縮および核不拡散への貢献を認識しました。米国は、ステートメントの中で、前文パラ12を強調したうえで、他の政府代表に日本決議案を支持するよう呼びかけました。この方向性自体は歓迎しうる一方、例えば、エジプトは、新たな非核兵器地帯の創設は「適切なところ(where appropriate)」ではなく、「それが存在していないところ(where they do not exist)」において奨励されるべきであると指摘しました。なお、前文パラ12は分割投票の結果、賛成127カ国、反対0カ国、棄権33カ国となりました。

 その他にも、日本決議案の中では、核リスクの低減、安全保証(security assurances)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、北朝鮮の非核化、軍縮・不拡散教育などが扱われ、テーマによっては分割投票や各国政府による投票行動の説明が行われました。

 決議案は今後、12月の国連総会本会議において採択にかけられる運びとなっています。

核兵器廃絶日本NGO連絡会 事務局
浅野英男

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