2023TPNWレポート2ー普遍性をめぐる議論についてー

はじめに

 ニューヨーク国連本部で開催されている核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会合では、11月29日(水)午後3時(現地時間)から全体会6が行われ、全体会5から引き続き一般討論が行 われたのち、TPNWの第12条に規定される普遍性(Universality)に関する(議題11(b))議論が始まりました。

 第12条は、締約国に対して、すべての国による条約への普遍的参加を目標として非締約国に働きかけることを義務づけています。第1回締約国会合では、この取り組みのためにマレーシアと南アフリカが共同議長を務める非公式作業部会が設置されました。作業部会は第2回締約国会合に向けて報告書(TPNW/MSP/2023/2)をまとめ、会期間の活動および新たな署名国と締約国の増加を報告しました。そして、ウィーン行動計画の行動1-14の継続的な実施、特に各締約国の活動報告とその公表を奨励するよう勧告するとともに、作業部会の共同議長の任務の更新を求めています。

 本稿では、第2回締約国会合における普遍性をめぐる議論を概観して若干の考察を加え、おわりに今後の課題について述べたいと思います。

議論の概要

 議題11(b)の冒頭、共同議長が報告書の概要を報告しました。それを受けて、締約国会合参加国(オブザーバーを含む)、赤十字国際委員会(ICRC)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、市民社会の代表が意見を述べました。11月30日(木)(現地時間)には核兵器廃絶日本NGO連絡会によるステートメントも発表されました。

 意見表明では、第一に、普遍性は締約国数の増加とともにTPNWの根拠となる考え方の普及という2つの側面からなるとの指摘がありました(ICRC)。ウィーン行動計画には、普遍化の努力には、署名と批准の数を増やすこととともに、「条約の規範、価値、基本的な主張の促進に積極的に関与する」とあります(行動1)。ICRCの発言は、この点を踏まえたものです。TPNWの根拠となる考え方の普及という点で、ニュージーランドが、オーストリアによる作業文書「核兵器禁止条約のもとにある国家の安全保障上の懸念の普遍化」(TPNW/MSP/2023/WP.9)(以下、WP.9と略)で示された「安全保障を損なう核」(nuclear insecurity)というコンセプトの普及の必要性を指摘しました。

 第二に、多国間で多様な関係者が協力して原則的な一つの声(the principled united voice)を上げることの重要性が指摘されました(ナミビア)。第三に、オブザーバーの参加自体が重要で建設的な外交対話であるとの指摘がありました(メキシコ)。第四に、まだ条約に参加していない国の理由は様々なので、核兵器に安全保障を依存する北大西洋条約機構(NATO)参加国など、そうした国のTPNW参加を妨げる理由を理解した上で関与することの必要性が指摘されました(コスタリカ)。第五に、安全保障に関する考え方のパラダイムシフトの必要性が指摘されました(コスタリカ、エルサルバドル)。第六に、普遍化には、ICANをはじめ市民社会が極めて重要な役割を果たしているとの指摘がありました(ウルグアイ、オーストリア、チリ、赤道ギニア、カーボベルデ、グアテマラ)。第七に、普遍化における教育の重要性に関する指摘がありました(チリ、キリバス)。

若干の考察

 普遍化に関する議論の中で注目されるのは、安全保障に関する考え方のパラダイムシフトの必要性について複数の国が言及したことです。パラダイムシフトには、例えば、かつて太陽が地球の周りを回るとする天動説が、地球が太陽の周りを回るとする地動説に転換した時のように、既存のパラダイムと全く異なるパラダイムの提示が必要となります。そうした観点からすると、オーストリアによる作業文書WP.9で示された「安全保障を損なう核」(nuclear insecurity)というコンセプトには、これまで流布されてきた安全保障のための核という言説に対抗するパラダイムを構築する基礎となる潜在力が込められているように思えます。

 そこでWP.9の内容を少し見てみましょう。WP.9は、TPNWの基本的な考え方を以下のように要約しています。

「この条約の理論的根拠は、核抑止が失敗した場合の人道的影響や核兵器のリスクに関する科学的証拠とともに、証明することが難しく、その多くが仮定に基づいている核抑止を支持する安全保障上の議論に挑戦するものである。その結果、核兵器はすべての国家と人類の安全保障を低下させるという結論が導き出される」(パラ2)。

 ところが、こうした考え方と核抑止に基づく安全保障の考え方との間では、議論が噛み合っていません。その理由について、WP.9は以下のように分析しています。

「核保有国とその同盟国が主張する安全保障(security)、人道上の影響、核のリスクに関する議論と、安全保障を損なう核(nuclear insecurity)、そして条約が基礎とする核兵器の人道上の影響とリスクに関する説得力ある科学的証拠に基づく議論との間に、根本的な断絶がある」(パラ3)。

 そこでWP.9は、条約の普遍化のための重要な政治的課題として、2つの問いを設定して議論を深めることを提案しています。

「条約に示されている、核兵器や核抑止から生じる正当な安全保障上の懸念、また脅威やリスク認識を、いかにしてよりよく普及し、明確に表現するか(強調筆者)」(パラ5(a))

「核兵器の人道上の影響とリスクに関する新たな科学的根拠に焦点を当て、これを核抑止に内在するリスクや仮定と並置することで、核抑止に基づく安全保障パラダイムに挑戦する議論をさらに発展させるためにどうするか(強調筆者)」(パラ5(b))

 TPNWの普遍化を考えるために、その障害は何かを考える。そこでWP.9は、普遍化の障害は「核抑止に基づく安全保障パラダイム」であるとの認識に立ち、TPNWコミュニティがそれと真正面から取り組み、より説得力ある言説を提示する必要性を指摘しているのです。

同様の問題意識は、核兵器廃絶日本NGO連絡会の作業文書「核兵器禁止条約を普遍化する」(TPNW/MSP/2023/NGO/23)からも伺えます。近年の日本国内における活動から得た知見を踏まえて、作業文書は以下のように述べています。

「安全保障を核兵器に依存する国々の立場を前向きに転換させるには、各国の政府、政治家、一般市民との包括的かつ持続的な関与が不可欠である。TPNWに対する認識と支持は、これらの国の中で着実に高まっているように見えるが、国民は依然として核抑止を支持している。それゆえ、核兵器が不道徳で違法であるばかりでなく、核抑止政策の不安定な性質のために、安全保障にとって非現実的で不必要であることを強調するための、さらなる努力が必要である(強調筆者)」(パラ8)。

 そこで核兵器廃絶日本NGO連絡会は、条約の普遍化に関して以下の提案をしています。

科学諮問グループと協力して、第12条に関する非公式作業部会に、特に政治的、法的、社会的問題を含め、核抑止政策に関連する問題を包括的に検討することを課し、TPNWの基本的な主張をさらに強化し、促進することを目的とすること(強調筆者)」(パラ9(b))。

「第12条に関する非公式作業部会に、市民社会やその他の関係者と協力して、安全保障を核兵器に依存する国と締約国が関与するための実際的な方法を検討することを課すこと」(パラ9(c))。

「普遍化の努力を拡大、加速するために、安全保障を核兵器に依存している国の政府、政治家、市民社会の代表が第12条に関する会期間中の作業に参加できる枠組みを作ること」(パラ9(d))。

おわりに

 TPNWは、核兵器禁止を「入り口」にその廃絶を目指す条約です。その普遍化のために、TPNWコミュニティは、そこに参加している専門家や市民社会のさらなる協力を得て「核抑止に基づく安全保障パラダイムに挑戦する議論」を開始し、より説得力ある言説を提示する段階に入ったと考えます。科学的および技術的助言を行う科学諮問グループには、こうした言説の基礎となる専門的知見も期待したいと思います。そうした知見は、第12条に関する非公式作業部会の活動にとっても有益でありましょう。その意味で、核兵器廃絶日本NGO連絡会による提案は、普遍化に向けた今後の課題に取り組む上で実践的意義を持つものと言えます。

追記(12月1日)

本稿執筆後、第2回締約会合最終日に、科学諮問グループ、赤十字国際委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン、その他の利害関係者や専門家の関与のもと、包括的な論点と勧告を含む報告書を第3回締約国会議に提出する会期間協議プロセスを設置することが決定されました(現在 TPNW/MSP/2023/CRP.3/Rev.1でその内容を見ることができます(Draft decision 5))。報告書には、核兵器の人道上の影響とリスクに関する新たな科学的証拠を、核抑止に内在するリスクや仮定と並置することで、核抑止に基づく安全保障パラダイムに挑戦する論点と勧告が含まれます。オーストリアが、その協議プロセスのコーディネーターに任命されました。

長崎大学核兵器廃絶研究センター教授 河合公明