2023TPNWレポート3ー被害者援助、環境修復及び国際協力・援助(6条、7条)をめぐる議論ー

はじめに 

 核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会合4日目の11月30日には、午前から午後にかけて、同条約の6条と7条に規定される被害者援助、環境修復及び国際協力・援助を議題として議論が行われました。

 会議は、この問題を扱う非公式作業部会の会期間活動や報告書(TPNW/MSP/2023/3)について同部会の共同議長が紹介し、それに対する出席者からの質疑やコメント、最後に共同議長による締めくくりの応答という流れで行われました(他の個別テーマについてもほぼ同じ形式)。

 非公式作業部会の報告書では、この作業部会が扱ってきた3つの分野、つまり国内的実施措置、自発的報告及び国際信託基金についての会期間活動の状況がまとめられており、各分野について今回の締約国会合で採択すべき事項についての勧告が盛り込まれています。

 TPNWの6条と7条は、核兵器の使用・実験の被害者やそれらによって汚染された地域について、これを管轄している締約国に対して、被害者援助や環境修復の措置を取るよう義務付けており、第1回締約国会合で採択されたウィーン行動計画でも、そのための措置を取ることが定められています。同行動計画では、特に、核使用・実験で影響を受けた締約国に対して、第2回締約国会合までにその被害についての初期評価を提出することや、国家計画を策定し進捗状況を報告することが求められていました(行動30と31)。実際、カザフスタン(TPNW/MSP/2023/10)やニュージーランド(TPNW/MSP/2023/11)が報告書を提出しています。

非公式作業部会の報告書 

 報告書の中で作業部会は、影響を受けている締約国に対しては、初期評価を基に、国家計画を完成・発展させ実施すること、援助を提供することのできる締約国に対しては、これらの取り組みへの国際協力と援助を提供することを、今回の締約国会合で奨励するよう勧告しています。

 6条と7条は、締約国にこのような措置を取るよう義務付けてはいるものの、その実施状況について報告する義務は規定していません。そこで、ウィーン行動計画では、締約国による(あくまでも自発的な)報告の指針を策定することを定めました(行動28)。これを受けて作業部会では会期間に検討を進め、この自発的な報告のための指針と報告書の書式を作成しました(報告書付属1)。先のカザフスタンやニュージーランドの報告書もこの書式に基づき作成されています。なお、作業部会は、この指針や書式は暫定的なものだとして、改善のためにこれらを継続的に見直すことも勧告しています。

 国際信託基金は、作業部会でも早くから取り組まれてきたテーマでした。2022年12月には作業部会の共同議長が基金設立に関する一連の質問事項を提示し、締約国や市民社会から意見を聴取しています。これを踏まえて、報告書では、基金の実現可能性と運営の指針について作業部会で集中的な議論を進め、第3回締約国会合までに勧告を行うことを決定するよう求めています。

議論の内容

 この問題については、締約国会合が始まる前の段階で、多くのNGOが作業文書を提出しており、関心の高さが伺えます。ただし、時間の制約もあり、議場で発言したのは11カ国(共同議長を除く)と市民社会からはICRCおよびICANと他の4団体にとどまりました(そのうちの1団体は32団体の共同声明を読み上げ)。

 作業部会の報告書の内容は概ね歓迎されていますが、自発的報告については、報告主体の範囲に関して食い違いが見受けられます。例えば、影響を受けていない締約国にまで報告を求めることは負担が大きく、その報告内容もよりシンプルなものを求める意見があります(キューバ)。他方で、援助を提供できる締約国も報告をするべきだという意見もあります(コスタリカ)。また、報告すべき内容についても、市民社会の一部から、報告書で提案された書式で良いのかという疑義が提起されています(例えば、TPNW/MSP/2023/NGO/11)。

 国際信託基金の設立については、すでにウィーン行動計画で定められており、それに対する異論はなく、締約国を超えて広く貢献を求めることについても異論は提起されていません。その点、一般討論の発言で、ドイツやスイスが、6条7条について協力的な姿勢を見せていることも注目されます。しかし、まだ、基金による助成の対象や資金配分の基準・方法については必ずしも明確ではなく、今後も議論が必要です。

おわりに

 11月29日、この作業部会による勧告も反映した、今回の締約国会合で採択されるべき「決定」の草案が提示されました。その決定3と4は、それぞれ、締約国による自主的報告と国際信託基金に関するもので、それらの採択は最終日に行われる予定です。

 今後の課題の1つは、国際信託基金のあり方です。今後、集中的に議論されることとなります。今回の締約国会合では、これまで以上に非締約国にいる核被害者が参加し、発言をしています。そこには、韓国人被爆者、太平洋地域の米英による核実験被害者、オーストリアのウラン鉱山開発での被害者、米国での核実験の風下住民、仏領ポリネシアでの核実験被害者などが含まれます。また、締約国での核被害者については、例えば、カザフスタンは150万人が被害者援助の対象であると報告しています(TPNW /MSP/2023/10, para. 24)。

 カザフスタンとキリバスは、この問題を国連総会でも提起しており、同国が提出した決議(A/C.1/78/L.52)は、同第1委員会では、10月27日に日本を含め多くの国の賛成を得て採択されています(賛成171、反対4、棄権6)。

 今後、この問題は、核兵器禁止条約の普遍化とも関係しながら、条約の枠を超えて議論されることが予想されます。

山田寿則(明治大学)