
【2025NPTレポート】核兵器国の対立の先にあるもの:一般討論を終えて
2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会は、会議4日目の5月1日午前(現地時間)に一般討論を終えた。日本の岩屋外相から始まり、127名がステートメントを読み上げた。今回も前回に続き、核兵器国間の対立が顕著だ。
以下、核兵器国の主張の骨子を発言順に見てみよう。
核兵器国の発言
フランス(4月28日)
- 戦略環境が悪化し、欧州の安全が脅威にさらされている。
- ロシアの無責任な核のレトリックと戦略的威嚇の姿勢を非難する。これはNPTの目的に反する。
- 透明性・説明責任での現実的・具体的措置でNPT強化を求める。
- すべてにとって損なわれない安全の原則を尊重する。
- 前向きで現実的なアジェンダとして、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核軍縮検証作業の追求、戦略リスク低減策の開発、既存の約束を通じた消極的安全保証の再確認を求める。
- 米露は新START後継条約の枠内で削減を求める。
- 核拡散危機に積極的に対処する。
- イランの核兵器取得を阻止する。
- 朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)はNPTとIAEAの義務に戻るべき。
- ロシアのウクライナ侵略におけるDPRKによる支援を非難する。
- 気候変動・エネルギー供給課題への対応として原子力発電は不可欠である。
- ザポリージャ原発の状況を懸念する。
- ジェンダー平等を尊重する。
英国(4月29日)
- NPTの目的に直接挑戦する深刻な国際安全保障上の課題がある。違法なウクライナ侵においてロシアは、無責任なレトリックと威圧的な核のシグナルを用いており、DPRKから軍事支援を受け、DPRKの核の冒険主義を正常化している。イランは保障措置義務を無視し、ウランを濃縮している。中国の急速な核の拡大には高い透明性を求める。
- 英国の核抑止は、安全保障環境に応じた、最小限で信頼性の高いもの。NATOの核共有協定はNPTに適合している。
- 核紛争につながる誤算のリスク低減に取り組む。
- FMCT交渉開始、中東非大量破壊兵器地帯の設置を支持する。
- トランプ大統領のロシア・中国との非核化交渉提案を歓迎する。
- P5プロセスを通じて対話と透明性を構築するべき。
- 民生用原子力発電所の安全とセキュリティ、そして強固で堅牢な保障措置システムの実施を最優先に考え、IAEAの健全性と有効性を支持する。
- NPT締約国が開発ニーズのために原子力技術にアクセスする権利を引き続き擁護する。
米国(4月29日)
- 核戦争・核拡散リスクが増大している。
- トランプ大統領は、「勝利した戦いだけでなく、終わらせた戦争によっても、そしておそらく最も重要なこととして、私たちが決して参加しない戦争によっても、我が国の成功を測る」と述べている。
- 中国は急速かつ不透明に核兵器を増強している。
- ロシアの新型核開発、汎用運搬システムの改良、新START条約の不法な停止、無責任な核レトリック、ウクライナへの安全の保障を反故にしていることを非難する。
- DPRKは、安保理決議に違反し、大量破壊兵器と弾頭ミサイル開発計画を進めている。
- イランは、高濃縮ウランの生産・備蓄を増加させ、包括的保障措置協定を無視している。
- 米国の核の透明性に比して、中国・ロシアはこれに対応していない。
- イラン問題は交渉による解決を追求する。
- 原子力の平和利用協力は強化する。安全性、セキュリティ、不拡散の最高水準を維持しながら、原子力技術と応用における革新的な進歩を推進する。核拡散を防止しながら平和利用へのアクセスを拡大する上でのIAEAの重要な役割を再確認する。
- 再検討プロセスの強化について議論する機会を歓迎する。他の核兵器国が同一行動をとれば、米国はこれを支持する。
- 軍備管理、核リスク低減、効果的検証に取り組む。
ロシア(4月29日)
- 国際安全保障環境は複雑化している。西側諸国が他国の核心的利益を冒すことで、深刻な戦略的リスクが浮上している。
- 軍縮の取り組みには各国の戦略的状況等の客観的違いを考慮すべきで、政治・軍事・戦略的文脈と一致すべき。当事者の平等と利益のバランスが重要である。
- 核兵器のない、すべてにとってより安全な世界の達成を支持するが、核共有と共同核計画の参加諸国(NATOを指す)は政治的現実を考慮していない。
- IAEA保障措置実施の政治化は有害である。
- IAEA追加議定書締結は自発的措置である。
- 非核兵器地帯は重要であり、中東非大量破壊兵器地帯の設置を支援する。
- 原子力の平和利用は不可欠であり、NPT義務遵守国は平和利用の権利がある。その制限はNPT4条に違反する。
中国(4月29日)
- 米国は国際システム・国際規範を深刻に揺るがしている。
- 一部の国々は、冷戦思考のまま軍事的優位を追求しており、核軍備競争と核紛争リスクを高め、国際的な戦略安全保障環境を悪化させ、世界の戦略的な均衡と安定を損なっている。
- 核軍縮は、「世界の戦略的安定の維持」と「全てにとっての安全保障の揺るぎない確保」という原則に基づき、段階的に推進されるべき。
- 最大の核兵器保有国2カ国(米露)は、核軍縮における特別かつ主要な責任を果たし、新STARTの履行を再開し、後継協議に取り組むべき。(核兵器数を)更に大幅に削減し、他の核兵器国が核軍縮プロセスに参加するための条件を整えるべき。
- 共通の安全保障を堅持し、戦略リスクを具体的に低減する。核の役割の縮小、核共有・拡大抑止協定の廃止、海外配備核の撤去、グローバルミサイル防衛の停止、中距離ミサイルの前方展開の停止を求める。宇宙兵器配備に懸念している。2022年P5首脳の共同声明に基づき、核先行使用の放棄を求める。軍縮会議での非核兵器国への法的な消極的安全保証供与の交渉を求める。
- AUKUSは核拡散のリスクをもたらす。NPT/IAEA枠組での政府間協議を促進すべき。
- 非核兵器国の原子力の平和利用は効果的に保護すべき。一方的な輸出制限の濫用に反対する。
- 原子力施設への武力攻撃に反対する。この点でIAEAの建設的役割を支持する。
- 中国は、核の先行不使用を約束しており、非核兵器国・非核兵器地帯に核を使用せず威嚇しない。核戦力は安全保障に必要な最低限の水準を維持している。軍備競争には与しない。
象徴的だったのは、3日目(4月30日)午後の市民社会によるプレゼンテーションと、これに続く同日最後の答弁権行使の場面である。ここでは、核廃絶を訴える市民社会の声を聞いた直後に、 NPTの核兵器国5カ国がそれぞれ発言し、相互に非難を展開していた。
この場面を含む今回の準備委員会での答弁権行使における中心的な論点は、一つは核共有問題であり、もう一つは透明性の問題だ。今回も、ロシアは、NATOによる核共有をNPTに違反するものとして批判し、対して、米国をはじめとするNATO諸国は、主に3つの点からこれを擁護している。①核共有はNPT以前から行われており、NPT成立過程でもソ連を含めた交渉国は承知しており、NPTに違反しないものとして理解されていた。②そもそも米国の核は米国が管理しており、NPT1条、2条で禁止される「管理の移譲」には該当しない。③核共有によってNATO諸国の核保有は回避されているのであって、核共有は核不拡散というNPTの目的に適っている、と。NATO諸国は、返す刀でロシアとベラルーシの核協力を問題視し、また、ロシアによるウクライナ侵略を非難する。
透明性の非難は、中国に向けられている。これに対して、中国は、先行不使用政策などの自国の宣言政策の自制的な点を強調し反論する。また、そのような批判そのものが戦略的安定を損なうものとも述べ、反発を強めている。
背景には、米国やNATOによる核戦略・核配備が、自国の安全保障環境を脅かし、戦略的安定を損なっているというロシア、中国側の認識がある(上記発言骨子参照)。
しかし、これに対して米英仏は直接対処しようとはしない。ロシアによるウクライナ侵略を問題としているし、中国の核の不透明さを根拠に、中国の宣言政策に対する不信感を露わにしている(4月30日答弁権行使での米国発言)。
これらを目の当たりにすると、来年の再検討会議に向けて、具体的な軍縮措置について合意できる雰囲気にはなっていないことが分かる。
新START後継条約を含めた核削減交渉についても、米国は、中国を含めた交渉を念頭に、呼びかけているが、中国は、米露による核削減が先だとして、取り合わない姿勢だ。ロシアは、英仏を含めた交渉を条件として提示してきているが(4月30日の答弁権行使におけるロシア発言)、フランスは新START後継条約枠内での米露の交渉を望んでいる(上記骨子参照)。
おわりにかえて:合意に向けたいくつかの工夫
このような状況の中、来年の合意に向けた様々な工夫がなされている。一つは、再検討プロセス強化の問題である。議長によりこの議論を支援するための会議室文書が提示されている(NPT/CONF.2026/PC.III/CRP.1)。この文書では2026年再検討会議での採択に向けた具体的な決定を下すために考慮すべき要素が勧告されている。今後の再検討プロセスの実効性や効率性を高めたり、透明性や説明責任を確保するための提案である。米英仏は積極的姿勢を見せているし、ロシアも今回の準備委員会では「2026 年再検討会議のやり方と手順の問題に焦点を当てるべき」(4月28日のベラルーシとの共同ステートメント)と述べて、この問題には関心があることを示唆している。だが、中国については、不透明性の指摘への反発姿勢からすれば、受け入れるかどうかは不明である。
もう一つは、核リスクの低減措置だ。会議2日目の4月29日付で作業文書(NPT/CONF.2026/PC.III/WP.41)が公開された。米英仏を含む核兵器国や核傘下国と並んで、TPNW締約国の一部も提出国に名を連ねている。これらの諸国が核リスクの低減措置について合意した文書ではなく、いわば論点整理の文書としての性格だ。
TPNW諸国の立場からすれば、核リスクを管理すること自体が困難なのであって、危機に強い通信回線の設置といったコミュニケーション手段の確保措置だけでは不十分だということになるはずである。実際、この文書では、そのような核リスク管理措置を越えた核軍縮措置も列挙されている。今後の議論のための共通の基盤を構築しようという工夫の表れとして注目したい。
再検討会議における合意はゴールであると同時に次のサイクルに向けたスタートでもある。どのようなスタートを切ろうとしているのか、クラスター1以降の議論が注目される。
山田寿則(明治大学兼任講師)