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2025年05月13日

【2025NPTレポート】漂流するNPT―来年にむけて希望はあるか

 2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議(2026年4月27日から5月22日、ニューヨーク国連本部にて開催することが決定)に向けての最後の第3回準備委員会が本日(現地時間5月9日)終了した。予想されていたとはいえ、再検討会議に向けての「勧告」並びに「再検討プロセスの強化」文書は、ともに採択されないまま終わった。

 「勧告」については、多様な意見が出されたが、「戦略的安定」という言葉に非核兵器国が反対したり、「先制不使用」に核依存国が反対したり、合意はおそらく困難と見られていた。一方、最終的には簡略化された「再検討プロセスの強化」への合意が期待されたが、「透明性と説明責任」に対して主に核保有国(特にロシア・中国)の反対が強く、採択には至らなかった。

 その結果のみならず、準備委員会における議論は、おおむね低調で、参加国間の対立はより深刻化し、厳しい国際安全保障情勢がそのまま反映されたまま、再検討会議への前向きな議論が見えないまま終わってしまった。一言でいえば、将来に見通しが見えない「漂流するNPT」という表現がぴったりの会合となってしまった。

核保有国間の対立、核の傘国への批判 

 何よりも深刻な点は、参加国間の対立が解消されないどころか、悪化しているという事実である。特に5核兵器国(N5)はNPT再検討会議にむけて、通常は協調行動をとることが多いが、今回はその様子も見えなかった。閉会間際まで、米国・ロシア・中国が非難合戦を続ける有様だった。さらに、非核保有国でありながら、核の傘国は核兵器への依存度を高めているとの批判が他の非核保有国から相次いだ。具体的には「拡大核抑止」と「核共有」が非核保有国や一部の核兵器国から批判の対象になるなど、対立がさらに複雑・多層化してしまった。この対立構造を解消することができない限り、NPTにおける建設的な議論の見通しは暗い。

見えてこない危機感:合意を目指す努力の欠如

 2022年の再検討会議においては、2回連続の最終文書採択失敗を避けるべく、現地の外交官による真剣な努力が続けられ、ほぼ合意に達した最終文書案が回覧されていた。残念ながら最後に採択ができなかったものの、真摯な外交努力が印象的であった。その背景には、NPTはこのままでは危ない、という強い危機感が存在していた。しかし、今回の準備会合では、そのような強い危機感が見えてこない。準備会合においても合意を達成することは「ほぼ無理」との観測が会場を占めていたことや、それを回避しようとする外交努力の欠如が今回の特徴ともいえた。このような現実が、来年の再検討会議への不安をさらに高めている。

かすかな希望:決定プロセスの改善を目指した議長

 一方で、かすかな希望として注目されているのが、議論の過程をすべて公開とすることで透明性を高めようとする議長の努力である。非公開の会合をなくすことで、よりオープンで、多様なステークホルダーが参加できるような意思決定プロセスを目指していることは、来年にむけてのかすかな希望といえる。ただ、最終日の議論が非公開となったことで、NGO参加者には失望の声があがり、このままだと、この希望も消えてしまいかねない。来年の再検討会議の議長候補者がベトナムから選出されることが決まったが、この点での議長の采配が期待される。

安全保障を改善させる契機となりうるか

 本来なら、核保有国と非核保有国が一同に会するNPT会議が、安全保障を改善させることができる重要な機会となりうるはずであった。しかし、現実はむしろ逆で、厳しい安全保障環境がNPTでの合意を困難にしているという現実が明らかになった。トランプ政権の誕生が国際社会に大きな不安を投げかけている今、現状ではNPT再検討会議が安全保障を改善できるようなエネルギーに欠けているとしか思えない。このままでは、来年の再検討会議も、単に国際情勢を後追いこそすれ、改善にむけた契機とする可能性は低いといわざるを得ない。この危機感を参加国が共有できるかどうかが重要だ。

被爆国日本の役割

 そこで、改めて期待されるのが、唯一の戦争被爆国である日本の役割である。今回の準備会合では、岸田前首相の肝いりで設置された「核兵器のない世界にむけた賢人会議」の提言を紹介するサイド・イベントが開催され、多くの専門家が高い評価を与えていた。日本政府はさらに、核軍縮・不拡散教育のサイド・イベントもキリバス政府と共催で行うなど、存在感をみせていた。しかし、今のままでは、上記に述べたように、拡大核抑止に依存する国として、非核保有国から批判され続けることになる。NPTは日本の核軍縮・不拡散外交の重要な礎石であることを考えれば、危機感をばねにして、リーダーシップをとることができるはずである。来年の再検討会議を実りあるものとするための真剣な外交努力が求められる。

NPO法人ピースデポ代表
鈴木達治郎

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