国会で核兵器禁止条約に関する討論集会を行いました
1月16日(火)14時から、核兵器廃絶日本NGO連絡会の主催により、衆議院第一議員会館の国際会議室において、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長を招いて討論集会「核兵器禁止条約と日本の役割」が開催されました。この討論集会では、フィン事務局長から日本の政府と国会への要望が出され、政府および各政党の核兵器禁止条約に対する見解が明らかにされました。
参加したのは、政府から佐藤正久外務副大臣、10の政党・会派の代表者、その他の国会議員、外務省関係者、被爆者、NGO関係者。さらに、公募により約20名の一般市民の方々が傍聴しました。また、約60名のマスコミ関係者が取材に訪れ、この問題に対する関心の高さを示していました。
プログラム
プログラムは、以下の通りでした。
◆司会
川崎哲 核兵器廃絶日本NGO連絡会共同世話人。ピースボート共同代表。ICAN国際運営委員
◆報告
ベアトリス・フィンICAN事務局長
佐藤正久 外務副大臣
◆各政党の代表者からの発言
自民党 武見敬三 参議院政策審議会長
公明党 山口那津男 代表
立憲民主党 福山哲郎 幹事長
民進党 岡田克也 常任顧問
自由党 玉城デニー 幹事長
希望の党 玉木雄一郎 代表
共産党 志位和夫 委員長
日本維新の会 浅田均 政務調査会長
沖縄の風 糸数慶子 代表
社民党 福島みずほ 副党首
◆自由討論
フィン事務局長の報告
フィン事務局長は、日本は世界の核軍縮のリーダーとして取り組むべきであるとの期待を寄せ、日本は唯一の戦争被爆国として、核兵器がもっている悲惨さを知っている。広島・長崎は、被爆者の努力により破壊から希望の都市に転換した。そのことに誇りを持ってほしいと述べました。そして、これ以上被爆者を増やさないための道筋として、核兵器禁止条約が採択された、日本に参加してほしいと要請しました。
また、核兵器の安全保障上の側面について、このような無差別の殺戮、しかも何十万人もの無辜の市民を殺戮する核兵器に依存すべきではない。最善の安全保障政策であれば、生命が失われることを防ぎ、紛争を防ぎ、安全性を高められるはずだ。核兵器の歴史は、核兵器が反対のことを行ってきたことを示していると指摘しました。
その一方で、日本は、米国のような核武装国との軍事同盟を維持したまま、この条約に参加することができると述べました。
さらに、現在の日本の安全保障環境にも言及し、核抑止は神話である、北朝鮮の核開発も抑止できなかったと述べ、核抑止が日本の安全保障に資するものでないことを強調しました。
また、核不拡散条約(NPT)との関係についても言及し、核兵器禁止条約は、NPTを強化し補完するものだ。日本が核兵器禁止条約に参加することは、NPT6条の法的義務を履行することになると述べました。
そして、核兵器禁止条約が日本の安全保障政策に及ぼす影響を調査したうえで、この条約に参加することが日本にとって適切だと思うと述べ、日本政府が最初に取り組むべきものとして「調査」の必要性を強調しました。
最後に、核兵器禁止条約は将来への道筋である。議員の皆さんには、様々な懸念があるかもしれないが、そのことについて今日は率直に意見交換をしたいと述べました。
佐藤外務副大臣の報告
次に登壇した佐藤外務副大臣は、核兵器禁止条約の目指す核兵器廃絶というゴールは、共有していると述べる一方で、日本を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しいと言っても過言ではない。こうした厳しい安全保障環境を踏まえれば、日米同盟のもと米国の核抑止力の維持は不可欠であると説明しました。
また、核軍縮に取り組む上では、人道と安全保障の2つの観点の考慮が重要である。核兵器禁止条約は、現実の安全保障観点を踏まえることなく作成された側面もあり、日本政府としてこれに署名することはできないという立場であると述べました。さらに、日本が依存する米国の拡大核抑止(いわゆる「核の傘」)について言及し、核兵器禁止条約が、いかに核兵器廃絶という崇高な目的を掲げるものであっても、同条約に参加すれば米国による核抑止力の正当性を損なうことにも繋がると説明しました。
核兵器廃絶の法的枠組みについては、世界に1万5千発あるとされている核兵器を米国、ロシア、中国といった核兵器国が実際に削減していくことが必要であると指摘。そのような努力を積み上げ、世界全体の核兵器がきわめて低いレベルまで削減された時点で、核兵器廃絶を目的とした法的な枠組みを導入することが現実的である。その場合、核兵器が確実に廃棄されたか、再び生産されていないか等、国際的に検証できるような信頼性の高い検証措置が必要だと述べました。
各政党の代表者からの発言
続いて、各政党からの代表者が発言を行いました。以下、ポイントとなる点を見ていきます。
◆自民党 武見敬三参議院政策審議会長
武見参議院政策審議会長は、日本は唯一の戦争被爆国であると共に、第2次世界大戦では300万余の多くの日本の国民の生命が失われ、それ以上のアジアの人たちの生命が失われるという悲惨な歴史を経験した。その中で戦後、日本の外交を考える上で平和主義が基本となっていることは事実と述べ、日本外交の基本的な立場を説明しました。その一方で、日本を取り巻く極めて厳しい安全保障環境の中で現実的に国民の命と財産を守ることの必要性も強調しました。その上で、ICANとは核兵器廃絶という目標は同じだが、問題はその取り組みのプロセスとアプローチが異なることだと述べました。また、ICANの取り組みは「道義的な外交努力」であり共鳴するが、現実の軍事的脅威にきちんと対応できるような抑止力を含めた防衛体制を整えることの必要性も指摘しました。
◆公明党 山口那津男代表
山口代表は、国際的に核兵器を禁止するという規範が確立されたことには画期的な意義があると評価し、長期的、大局的な視野から条約の趣旨に賛同すると述べました。その一方で、核兵器保有国と一部の非核兵器保有国が賛成しなかったことにも着目する必要があると指摘。NPT体制の重要性に言及しつつ、核兵器禁止条約は拡散を防ぐという点で一定の効果を持つと述べ、核軍縮を進めるための核保有国と非核保有国の橋渡し役としての役割を日本に期待しました。
◆立憲民主党 福山哲郎幹事長
福山幹事長は、北朝鮮の核開発は大変大きな課題であると指摘する一方、フィン事務局長が、日本を取り巻く状況について分析があり、その中でも核兵器禁止条約の有効性があるとしたことは、非常に大きな指摘だったと述べました。その上で、フィン事務局長が提起した、国会における核兵器禁止条約に関する「調査」の必要性に賛同しました。そしてこの問題を国会の中で議論できるように問題提起をしていきたいと述べました。
◆民進党 岡田克也常任顧問
岡田常任顧問は、核兵器禁止条約は、核保有国が賛同しなければ十分には機能し得ないため、一定の限界があることは事実だと述べました。その上で、核兵器禁止条約が数多くの国々の賛同を得て成立したことは、核保有国に対して大きなプレッシャーになると考えられると述べ、核兵器禁止条約に一定の評価を与えました。また、現在米国で進められている「核態勢の見直し(NPR)」について、トランプ大統領が核軍縮政策を後退させる可能性があることに懸念を示しました。そして被爆国である日本は核軍縮に向けて、NPRが間違った方向に進まないよう影響力を行使すべきだと述べました。
◆自由党 玉城デニー幹事長
玉城幹事長は、まず昨年NHKが米国がかつて沖縄に核兵器を配備していたこと、さらに核兵器を搭載したミサイルが誤って発射される事件が起きたことを報道したことに言及しました。また、日米同盟の堅持を主張する自由党であっても過去の検証は必要だと述べました。その上で、日本は、核兵器禁止条約に署名・批准し、核抑止から距離をおいて、非核を目指す国々と協力すべきであると述べました。
◆希望の党 玉木雄一郎代表
玉木代表は、日本が核兵器禁止条約に参加しなかったことは非常に残念であるとする一方で、日本は核開発を行っている北朝鮮などの現実の脅威に直面しており、核抑止力も維持しなければならないと述べました。そして日本には核兵器を廃絶し、核兵器のない世界を実現する責任があり、核兵器を廃絶するという共通のゴールにむけて共に行動したいと述べました。
◆共産党 志位和夫委員長
志位委員長は、核兵器禁止条約を歴史的な条約だと評価しました。そして、日本がこの条約に不参加の理由の一つとして挙げている核抑止について、いざとなれば広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こしても許されるという考え方だとし、唯一の戦争被爆国が、このような核抑止を続けて良いのかが問われていると述べました。そして、日本は核による抑止はやめ、禁止条約をてこに北朝鮮に核兵器開発の中止を働きかけるべきだと述べました。
◆日本維新の会 浅田均政務調査会長
浅田政務調査会長は、日本が核兵器廃絶を主導しながら、核兵器禁止条約の交渉を開始する国連決議に反対したことについては、国内でも評価が分かれたと指摘。核軍縮への取り組みは無意味ではないが、当面は核廃絶も核禁止も不可能であり、現実的にはNPT体制の強化という手段を選択せざるを得ないと述べました。
◆沖縄の風 糸数慶子代表
糸数代表は、核兵器を条約によって禁止するためのICANによる努力は、戦争被爆国である日本が率先すべきことであるとし、日本には非核三原則があるにもかかわらず、沖縄は例外とされており、沖縄への核兵器配備や事故は、県民に一切知らされていないと述べました。核兵器は、人々の体と心に癒えることのない苦しみを与えるものであり、日本は核兵器禁止条約に参加すべきだと述べました。
◆社民党 福島みずほ副党首
福島副党首は、核と人類は共存できないという基本な立場を表明した上で、NPT体制の強化はもちろん大事だが、核兵器の削減も重要であると述べました。さらに、核抑止力は全くの幻想でしかないと指摘。広島や長崎の被爆者は今でも苦しんでおり、日本は核兵器禁止条約に賛成すべきだと述べました。
司会の川崎哲氏は、この討論集会を通じて、核兵器禁止条約が核兵器廃絶という共通のゴールに向けた一定の意義を有することを否定する意見は出なかったことを指摘した上で、浮かび上がった2つの論点を挙げました。第1に核抑止力をどのように評価するのか、第2に核兵器禁止条約は日本にどのような影響を与えるのかです。第2については、この討論集会で複数の人が国会で「調査」すべきであると発言したことも指摘しました。
筆者としては、フィン事務局長が、①日米同盟の下でも核兵器禁止条約に参加できると述べたこと、②まずは核兵器禁止条約について「調査」すべきだと提案したことに注目しました。
まとめと報告:小倉康久(明治大学 [国際法])
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