【2020年NPT再検討会議・第2回準備委員会③】日本政府主催のサイドイベントが行われました
24日午後、日本政府主催のサイドイベントが、国連ヨーロッパ本部の大会議場で行われました。このサイドイベントでは、今年3月に「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」が日本政府に提出した提言(日本語は概要)をアダム・ブガイスキー議長に提出するとともに、その内容についての議論が行われました。
このイベントには、日本政府から河野太郎外務大臣、高見澤將林軍縮会議日本代表部大使が出席。河野外務大臣は、賢人会議の取りまとめた勧告の趣旨を説明し、ブガイスキー議長に提出しました。同議長は、この勧告は時宜を得たものであり、その内容を議長サマリーに反映出来るよう努力したいと述べました。(外務省ウェブサイト)
引き続き行われたパネルディスカッションには、元国際原子力機関検証安全保障政策課長のタリク・ラウフ博士、ジェームズ・マーティン不拡散研究センター所長のビル・ポッター博士、駐ジュネーブ・オーストラリア代表部のバネッサ・ウッド参事官が登壇。一橋大学の秋山信将教授が司会を務めました。
ラウフ博士は、賢人会議の提言が、①現下の問題に関連させ焦点を絞る、②簡潔である、③既存の提言と重複しないよう努める、④「困難な問題」(hard questions)を扱うという方針でまとめられていると述べた上で、その概要を紹介しました。
ラウフ博士はまず、核軍縮・不拡散体制を維持するための前提として、①73年の不使用の実行に裏打ちされた「核不使用の規範」は,あらゆる手段で維持されなければならない。②NPTは「核兵器のない世界」という共通の目標の前進に向け引き続き中心的な存在である、との2点を指摘。その上で提言が、橋渡しの取り組みとして、①NPT運用検討プロセスの実施の強化、②橋渡しの基盤としての信頼醸成措置、③異なるアプローチを収斂するための基盤作りについて述べていることを紹介しました。
これに対しポッター博士からは、核軍縮を巡り厳しい対立が起きている状況下、議論に礼節を取り戻すという指摘は最も共感できる。今後は、核使用のリスクを減らすための一歩踏み込んだ議論を期待したい。米露が関係が悪化して負のスパイラルが起きている中では、両国の定期的な協議が大切だ。日本が長年訴えてきた軍縮・不拡散教育について、今後の議論では明示的に扱ってほしい等とコメントしました。
ウッド参事官は、この提言が安全保障と軍縮の関係という困難な問題を扱っていることに感謝したい。どうすれば共通項を見つけられるのか。違いがあっても尊重しあって議論できることが重要だと述べつつ、提言が、コンプライアンスや検証、透明性といった点に光を当てていることを評価しました。
引き続いて秋山教授は、①安全保障と軍縮という困難な問題を扱うに適切なフォーラムとはどのようなものか、②安全保障を強化する軍縮は可能か、③現在の国際環境下で、核セキュリティプロセスにおいて各国が自発的に出来ることは何か、という3つの問いをパネリストに投げかけました。
ポッター博士は、異なる立場に立つ個人からなる集まりだが、率直でインフォーマルな環境が重要であると指摘。そうした議論の中から大きなアイディアも生まれてくる。テーマや地域に基づいたグループの役割が重要だと述べました。
ウッド参事官は、女性が軍縮の議論に果たす役割を指摘し、礼節を取り戻すためにも議論する人の多様性が必要であり、その意味でジェンダーの多様性が重要だと述べました。リスクの削減については、まだ十分に議論ができていない。困難な問題をどう扱うかについては、今、何が出来るかに焦点を当てて議論することが大切だ。また様々なフォーラムを活用して議論することの重要性も指摘しました。
ラウフ博士は、困難な問題を議論する場として論理的に最もふさわしいのはNPTの再検討プロセスであるが、先の2回のサイクルではそれがうまく機能していない。核兵器国の技術的専門家も巻き込んだ議論が必要である。今日では国民国家の力が弱まり、安全保障に対する考え方も変化している。人間の安全保障といった考え方が生まれている今日、「すべての人々にとって減弱されない安全保障」といった形で安全保障の概念も考えられるべき等とコメントしました。
フロアとの質疑応答も活発に行われました。筆者にも質問の機会があり、「73年の不使用の実行に裏打ちされた『核不使用の規範』は、あらゆる手段で維持されなければならない」(4項)と提言にあるが、「規範」とは何を意味しているのかについて質問しました。具体的には、国際法のような法規範を指すのか、あるいはそれ以外の規範を指すのかという意味です。
この点に関しては、2014年の軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)による広島宣言には「約69年に及ぶ核兵器不使用の記録が永久に続けられるのはすべての国々にとって利益である」(25項)との一節があり、「核兵器不使用の記録」(record)という表現が使われています。
ラウフ博士は、その点については深い議論は行われていない。ただ賢人会議のメンバーには、不使用は単なる「記録」以上のもので、NPT締約国であるかどうかを問わず、核兵器は使われてはならないという明確な理解があったと思うと述べました。
慣習国際法の成立要件は、国家実行と法的確信ですが、「記録」以上のものということだとすると、国家実行を認めた上で、その様な法規範が存在していること(法的確信)の可能性も排除しないということなのか。今後の議論に手がかりを与えるように思えます。
秋山教授は、私たちの前には2つの現実がある。核に依存しなれければならないという現実と、核兵器禁止条約という現実だ。これら二つの異なる現実をどのように収束させるのかが今、問われていると述べました。さらにまとめとして、賢人会議の提言はすべての問いに答えているものではなく、さらに議論を続けていかなければならないと述べました。
文責:河合公明(創価学会平和委員会事務局長)