ジュネーブより③:オバマ大統領広島訪問と国連作業部会の「禁止条約」議論
5月10日にオバマ米大統領が、G7サミットの機会に広島を訪問することを発表しました。この発表を受け、ジュネーブで国連作業部会の第二週の傍聴をしている長崎の核兵器廃絶地球市民集会代表の朝長万左男・長崎原爆病院名誉院長から、以下のようなコメントが寄せられましたので紹介します。
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昨日、オバマ大統領の広島訪問という歴史的な決定が報道された。核兵器のない世界を目指す勇気ある決断として歓迎したい。また核保有国であるアメリカを被爆地広島に招聘した日本政府の努力を評価したい。そしてこの広島への訪問を、核兵器のない世界に向けた具体的な取り組みと成果に結びつける機会としなければならない。日本政府はそのための最大の努力をすべきだ。
今ジュネーブでは、全ての国連加盟国に門戸が開かれた、核軍縮のための多国間交渉に関する公開作業部会が開かれている。そこでは連日、核兵器廃絶を実現するための具体的な法的措置についての議論が繰り広げられ、その内容について合意を形成するための懸命の努力がなされている。
焦点は、核兵器の使用や保有、生産や移転等を禁止する新たな条約を作ることができるかの一点にある。そうした動きを前に進めようとする国々は、そのような取り組みこそが、既存の核兵器不拡散条約(NPT)体制を強化することにつながると指摘している。核兵器の非人道性の議論は安全保障の問題そのものであり、全ての人々の安全保障に役立つものであると述べている。私もそうだと思う。
ジュネーブにおける懸命の努力と広島への訪問が結びつき、核保有国、核の傘への依存国と非核保有国が力を合わせて前進することができれば、共通する目的である核兵器のない世界により近づくことができる。これらのすべての国々にとって、核兵器のない世界という目的は一緒である。目的が一緒であれば、協力が出来ないはずがない。
しかしキム・ウォンス国連軍縮担当上級代表が今朝のスピーチで指摘したように、いくつかの重要な国、すなわち核保有国がこの場に参加していない。保有国なかんずく民主主義の中核的価値である対話を大切にしているはずのアメリカが、ジュネーブにおける対話の場に加わっていないことは、本当に残念なことだ。アプローチが違うからといって対話が不可能なわけではない。アプローチが違うからこそ対話が必要なのだ。
岸田外相は次のように発言している。「今国際社会においては,核兵器のない世界を作っていこうという機運がしぼみつつあるこう言われている中にあって,今年に入りG7の外相がそろって広島訪問を行った,広島宣言が発出された,そうして,このたびオバマ大統領の広島訪問が決定した,このことはしぼみつつあった国際的な核兵器のない世界を目指そうという機運を再び盛り返す,反転攻勢に転ずるこうしたきっかけになることを期待したいと思っています。」
私はこの発言に期待をしたい。NPTの第6条に鑑みる時、核兵器国と非核兵器国には核なき世界に向けてお互いに協力する責任がある。全ての締約国は、核軍縮交渉を誠実に追求することを約束している。
日本が、核保有国と非核保有国の架け橋を自認するのであれば、しぼみつつあった機運を再び盛り返すべく反転攻勢に転じるのであるならば、何よりもアメリカの真の友人であるなら、ジュネーブでの合意をまとめ上げるために要となる役割を果たさなければならない。異なる立場をまとめ上げるための更なる努力が必要なはずだ。
ジュネーブでの議論に参加して目につくのは、プログレッシブアプローチが唯一という、日本をはじめ核依存国による他のアプローチに耳を傾けない排他的ともいえる姿勢だ。非核保有国は、核兵器禁止を先行させる条約が最善の策という主張をしつつも、全てのアプローチが相互補完的だという柔軟な姿勢を示している。
ジュネーブから生まれる流れが広島から生まれる流れと重なり合うことにより、さらにうねりを強めていくことが大切だ。今こそ歴史の扉を開く時である。オバマ大統領は広島を訪問するにあたり、そのような重要な立ち位置にいることを自覚する必要がある。そして日本は、唯一の戦争被爆国として果たさなければならない特別の責任がある。長崎を最後の被爆地にするためにも。
2016年5月11日
ジュネーブにて
核兵器廃絶地球市民集会長崎代表
核兵器廃絶日本NGO市民連絡会共同世話人
朝長万左男