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2019年05月04日

【特別寄稿】 混迷の今こそ「被爆の実相」に思いをはせて:第3回NPT準備委員会の前半を終えて

会場となっている信託統治理事会会議場


2020年NPT再検討会議・第3回準備委員会は3日(現地時間)、1週(前半)の議論を終えました。2週(後半)では、さらに不拡散(クラスターII)、原子力の平和利用(クラスターIII)、そして来年の再検討会議の運営事項、3日の夕方に配布された来年の再検討会議に向けた勧告の草案の検討が行われます。

ここで、同準備委員会に参加している、広島市立大学広島平和研究所の福井康人准教授からの寄稿を掲載します。


5月3日(金)に第3回準備委員会の前半が終了した。一般討論演説とクラスターI(核軍縮)が終了し、中東問題や第一追加議定書の普遍化をはじめとする難問を抱えるクラスターII(核不拡散)が始まったばかりである。

核軍縮の関係では、核兵器禁止条約が成立したこともその遠因にあるのか定かではないが、米国が昨年あたりから、「核軍縮のための環境づくり(CEND)」イニシアティブを本格的に推進し始めた。その詳細については、4月30日に行われた米国政府主催のサイドイベントにおける、クリス・フォード国務次官補による演説を参照願いたいが、要は核軍縮のための環境を整えるべしとするものである。即ち、軍縮に関連する決定が行われるに際しては、自国を取り巻く安全保障環境を考慮する必要がある。その一例として、前世紀の戦間期に一連の軍縮会議が成功したのも、使用しうる兵器を管理することよりも、安全保障環境を整えることが重要である。ワシントン軍縮会議等が成功を収めたのも、こうした安全保障環境の整備が進められたからである、とする。

こうした米国の動きと対照的なのはフランスであり、核兵器禁止条約に反対する姿勢を一層鮮明にした。フランスも、核軍縮の問題を安全保障の文脈から切り離すことは危険であるとする。即ち、それが大量破壊兵器及び運搬手段の拡散に繋がり、そうした拡散は全世界的及び地域的な緊張に特徴づけられているとする。故にフランスは、核兵器禁止条約に反対するという。また、同条約の発効は別途の矛盾する規範の形成につながり、国際不拡散体制の要であるNPTを弱体化させかねないものであり、フランスは(発効後も)同条約には加入しないことを強調している。更に、念を押すが如く、同条約に参加する国は、特にアジアや欧州において、核抑止力がない中で、大規模な通常兵器戦争のリスクを抱えずに、再軍備や脅威の発生に対して、どのように安全保障と安定を確保するのか説明する必要があるとする。このように、今回のNPT準備委員会での核兵器国側の発言は、概ねこれまでの立場を維持しているものの、そのなかでも米国とフランスの発言が注目される。

筆者はちょうど30年前に外務省の軍備管理軍縮課に配属されたこともあり、その時のことを思い起こすことがままある。当時、担当の包括的核実験禁止条約(CTBT)で初めて国会答弁案を書いた時、「被爆の実相」という表現に出会い、随分と不思議な表現だと感じたのを覚えている。今回の出張の際に広島で利用したタクシーの運転手さんから聞いた話なのだが、その方が子供だった頃は、広島市内で道路工事があると大量の人骨が発見されることがよくあったという。つまり、通常であれば弔って火葬するのであろうが、それが出来ない程の短期間での膨大な数の死者で、そのまま埋葬せざるを得なかったのであろう。そんな想像を絶する状況が市内で数多く生じたものと思われ、それが「被爆の実相」の一つの事例ではなかったかと、思いを馳せてしまった。

米国やフランスの発言からは、人間の生存する(或いは生存できなくなる)姿が十分に伝わってこないのが正直なところである。しかし、恐らく今後も神学論争じみた議論が続けられるであろう。会議のためにニューヨークに出張するという話をしたら、何故かタクシーの運転手さんはこの話を私にした。使い古された表現ではあるが、今一度「被爆の実相」とは何かを考えつつ、2020年NPT運用検討会議に向けて研究を行いたい。

広島市立大学広島平和研究所 福井康人

国連本部事務局ビルとイースト・リバー

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