NGO News

2021年10月03日

「核軍縮政策に関する外務省とNGO・市民との意見交換会」レポート

10月の国連総会第1委員会を前に核軍縮政策をめぐり、核兵器廃絶日本NGO連絡会は9月27日に外務省とオンライン意見交換会をもち、その後記者会見を行いました。午後4時から1時間にわたり行われた意見交換会には、外務省から海部篤軍縮不拡散・科学部長、石井良実軍備管理軍縮課長、市民社会側から19団体24名が参加しました(参加者リストはこちら)。以下、概要をレポートします。【文責:河合公明(核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事)】

意見交換に先立つ冒頭発言で海部部長は、核兵器のない世界を目指す上でNGOをはじめとする市民社会との交流は不可欠であり、9月26日のオンラインシンポジウムも有意義な機会であったとの認識を示しました。そして、日本は唯一の戦争被爆国であり、自らも被爆地を何度か訪問してアメリカの政府関係者を案内する機会があったことに言及。被爆者の高齢化により被爆の実相を伝えることは重要であり、世界の現実を踏まえて、これまでの取り組み、これからの取り組みについて、改めて説明を行いたいとし、政府は「橋渡し役」としての努力を続けたいと述べました。

冒頭発言をする海部軍縮不拡散・科学部長

続いて、ピースボート/ICAN国際運営委員の川崎哲さん(核兵器廃絶日本NGO連絡会共同代表)が、NGO連絡会を代表して挨拶。8月5日に広島でNGO連絡会が開催した国会議員による討論会に言及し、与野党のハイレベルの代表が集まった同討論会では、核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加について、全参加者が賛意を示したと述べました。そして、そこでの議論も踏まえ、①核兵器禁止条約の締約国会議への日本のオブザーバー参加、②米国の核態勢見直し(NPR)と日本の政策、③核不拡散条約(NPT)再検討会議に関する日本の政策、という3点について、議論を深めたいと述べました(質問書はこちら)。

挨拶をするピースボート/ICAN国際運営委員の川崎さん

これに対し外務省の海部部長からは、概要、以下の回答がありました。

①について

核兵器廃絶というゴールは共有している。国際社会の中で、それをリードしていくのが日本の役割。しかし、核兵器禁止条約は核兵器国からの支持が得られていない。日本の周辺には北朝鮮のミサイル開発など、不透明で不確実な現実がある。周辺諸国の軍事活動の活発化という現実の中で、日本の安全保障、言い換えれば、国民の命と暮らしを守ることを重視する。そのためにはアメリカの核抑止力が不可欠である。日本政府の役割は、核軍縮を前進させることである。オブザーバー参加に関しては、国際情勢を考慮する必要があるため、慎重に見極める必要がある。

②について

ペリー元国防長官等による書簡、また同国防長官が執筆した『核のボタン』読んだ。バイデン政権下の安全保障の議論の中で、先制不使用は議論の対象となっている。アメリカでも、さまざまな議論が行われていると承知している。一つ一つの意見を評価するのはいかがなものか。お答えは控えるべきだと考える。安全保障環境は、ますます厳しさを増している。抑止力を含めて適切に対処すべきだと考える。

③について

NPT第6条は、国際的な核軍縮・不拡散体制の中核をなす条文である。しかし、現実には意見の相違が大きい。機運を高め、意義ある成果を出すべきである。日本が重視し、取り組んでいるのは3点である。まず、核廃絶決議であるが、来年1月、良い内容を作成するために、例年以上に内容を深め、支持の広がりを目指す。次に軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)であるが、メンバーであるドイツの外交当局、シンクタンクでも高い評価を得ている。詳しく申し上げるのは時期尚早だが、ストックホルム・イニシアティブの枠組みにも重点をおく。賢人会議において、専門的、本質的な問題を再検討会議の前に議論するかについて検討中である。最後に核兵器国との協議であるが、米露の戦略的安定をめぐる対話がどのような議論になるのか注目している。新STARTの状況については、単に喜ぶという状況ではないかもしれないが、評価すべきだ。外務省としても下支えしていく。以上は欠かすことのできない努力だ。いろいろな取り組みを通じて、NPTにもとづく核軍縮に貢献したい。

石井軍備管理軍縮課長

その後、共同代表の川崎さんの進行で、3点をめぐり非公開の意見交換が行われました。以下の認識が外務省から示されたというのが、NGO連絡会の受け止めです。

①について

オブザーバー参加であっても、会議の形式、運営の仕方などの要素がどうなるか不透明なので、慎重に見極める必要がある。日本の安全保障の要である「核の傘」を否定している条約の会議に、オブザーバー参加する意味について考える必要がある。アメリカの核抑止力に依存しないと、日本の安全保障環境は守られない状況にある。

②について

日米安保協力については、日米間で日常的に意見交換し、密に連携している。先制不使用宣言は、核の役割低減に関わるものとされている。全ての核保有国が同時に検証可能な形で減らさなくてはならないと考えるが、それが確保できる状況ではない。ジュネーヴ諸条約第1追加議定書と核兵器の使用の関係については、核軍縮というよりはアメリカの核政策の話であり、答えを持ち合わせていない。

③について

包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進会議に参加し、発効に向けたモメンタムを促進するなどの取り組みをしている。核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の実現にも力を注いでいる。より良い核廃絶決議のために努力したい。

意見交換の様子

核兵器廃絶日本NGO連絡会は、定期的に市民社会との対話にのぞむ外務省に対し敬意を表します。設定された3点をめぐる議論では、従来と同じ説明が繰り返されたというのがNGO連絡会の受け止めです。

外務省の報道発表はこちらです。
外務省と核兵器廃絶日本NGO連絡会との意見交換会の開催

意見交換会の様子は、以下のメディアで取り上げられました。

朝日新聞「外務省、核兵器禁止条約に否定的な見解 意見交換会で被爆者ら落胆」(2021年9月27日)

中国新聞「締約国会議、なおも慎重 外務省がNGO連絡会と意見交換」(2021年9月27日)

長崎新聞「外務省が被爆者らと意見交換 「核の先制不使用」米政策に疑問示す」(2021年9月28日)

山陰中央新報「核禁止条約会議に消極姿勢」(2021年9月28日)

CATEGORY

ARCHIVE