開催レポート:オンラインシンポジウム「核兵器廃絶国際デー記念イベントー世界を平和にするために、今私たちにできること」
核兵器廃絶日本NGO連絡会(以下、NGO連絡会)は、9月24日、オンラインシンポジウム「核兵器廃絶国際デー記念イベントー世界を平和にするために、今私たちにできること」を開催しました(アーカイブ配信はこちら)。国連が定める9.26「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」を記念する当シンポジウムは、NGO連絡会の主催および国連広報センターの共催により、市民社会・国連・日本政府の3者のパートナーシップによる取り組みとして2015年から毎年開催され、今回で8回目を数えました。
本シンポジウムは、⒈申惠丰教授(青山学院大学法学部)による基調講演、2.パネル討論①「平和のために多国間主義、市民社会が果たす役割」、3.パネル討論②「核なき世界へ ー 市民、政府、国連はどう協力するか」の3部構成で行われました。また、当シンポジウムに際して、国連事務総長、国連広報センター局長、日本政府外務大臣、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長、赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表からメッセージが寄せられました。司会はNGO連絡会事務局の徳田悠希さんが務めました。
冒頭メッセージ
シンポジウムの始めには、上川陽子外務大臣、アントニオ・グテーレス国連事務総長、そして根本かおる国連広報センター所長からメッセージが寄せられました。
上川外務大臣は、唯一の被爆国として日本は、核兵器のない世界の実現に向けて国際社会をリードをする使命を有しており、G7サミットで発表された「広島ビジョン」に沿って、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の即時交渉開始など、現実的で実践的な取り組みを進めると語りました。
グテーレス国連事務局長は、平和な未来のために核のリスクを排除する唯一の方法は核兵器廃絶であり、核兵器禁止条約をはじめとした国際条約、対話、外交といった時代を越境した方法によって、核兵器の廃絶を実現していくと決意を表明しました。
根本国連広報センター所長は、グテーレス国連事務総長が発表した「新たな平和への課題」を紹介しました。軍縮を中心課題とし、すべての国連加盟国へ、核兵器のない世界を追求し、核兵器の使用と拡散に反対する規範を強化するよう要請する、国連の姿勢を強調しました。日本の市民の皆さんと引き続き協力したいと呼びかけました。
基調講演
続いて、青山学院大学法学部の申惠丰教授が「国際平和における国際法と他国間主義の意義」と題して、基調講演を行いました。
申教授は、現在の国際法が制定された背景について、19世紀から続いてきた国家間の勢力均衡が崩れ、第一次世界大戦に突入した反省を踏まえて、戦争を規制する国際連盟ができた。しかし『戦争の規制』では、満州事変のように『戦争』と呼ばずに武力侵攻を正当化する事例が見られるようになっため、第二次世界大戦に組織された国際連合では『武力行使の規制』を国際法で定めたと説明しました。
また、現在の国際法ではアメリカやロシアといった国連安全保障理事会の常任理事国による暴走を止めることができていないという課題を指摘し、歴史的経験から築かれてきた国際組織および国際法という多国間の枠組みを守っていくと共に、それらを改善していくことが重要であると訴えました。
また、核兵器といったより強力な兵器は戦争を残虐にするだけであり、大量破壊兵器によらない、外交をはじめとした平和的手段による紛争解決の取り組みが必要だと話しました。
パネル討論①「平和のために多国間主義、市民社会が果たす役割」
続いて行われたパネル討論①では、映像ジャーナリストの伊藤詩織さんがモデレーターを務め、申教授に加えて、国際協力NGOセンター(JANIC)シニア・アドボカシー・オフィサーおよび市民社会シンクタンク「THINK Lobby」副所長の堀内葵さんをゲストに「平和のために多国間主義、市民社会が果たす役割」と題して議論が行われました。
はじめに、今年5月に行われたG7広島サミットに向けて活動をしてきた市民社会コアリション(C7)の運営を担った堀内さんは、市民社会の役割は政府に行動してもらうこと、そして政府に説明責任を果たさせることにあると語り、C7を含め72カ国、700名以上もの市民社会関係者がG7に関与し、政府に対して政策提言を提出したと強調しました。また、核兵器廃絶に関するC7の提言の中の「2045年までに核兵器廃絶を実現するための速やかな交渉の計画」という要請を強調し、広島・長崎への原爆投下から100年に当たる2045年までに核兵器を廃絶してほしいと述べました。そして、次に日本でG7サミットが開催される2030年に向けて、様々な機会で引き続き市民社会が発信を続ける必要があると今後の展望を語りました。
登壇者の2人に対して、モデレーターの伊藤さんは、核兵器にNOというために一市民としてどのようなアクションが起こせるかという質問を投げかけ、堀内さんは、核兵器の問題は国同士の交渉だと思われがちだが、すでに様々な市民社会団体が声を挙げている。イベントへの参加や寄付などのアクションを起こすことできると語りました。また、申先生は、それぞれの持ち場で声をあげていくべきであると話しました。
ビデオ・メッセージ
パネル①とパネル②の間には、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)メリッサ・パーク事務局長と赤十字国際委員会(ICRC)榛澤祥子駐日代表から寄せられたビデオ・メッセージを視聴しました。
メリッサ・パークICAN事務局長は、核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならないと訴え、日本政府に核兵器禁止条約第2回締約国会合にオブザーバー参加するよう求めました。
榛澤ICRC駐日代表は、原爆投下当時、核兵器がもたらす結末を目にしたマルセル・ジュノー元駐日代表の「今日の世界が、存続か消滅かの選択を迫られていることに疑いの余地はない」という言葉を紹介し、核戦争という対策・対応ができないものは未然に防ぐしかない、すなわち核兵器を廃絶するしかないと呼びかけました。
パネル討論②「核なき世界へ―市民、政府、国連はどう協力するか」
パネル討論②では、哲学研究者の永井玲衣さんがモデレーターを務め、外務省軍備管理軍縮課の石井良実課長、日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳さん、NGO連絡会事務局の遠藤あかりさんの3名のパネリストによって「核なき世界へ―市民、政府、国連はどう協力するか」について議論が交わされました。
石井課長は、2022年に行われた核不拡散条約(NPT)運用再検討会議で岸田首相が打ち出した広島アクションプランや核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)のハイレベル記念行事の実施など、日本政府の核兵器廃絶に向けた取り組みを強調しながら、厳しい安全保障環境という現実と核兵器のない世界という理想とを結びつけ、核軍縮の着実な歩みを進めていきたいと語りました。
田中さんは、自身が目撃した、一発で何万人をも傷つけ殺すという核兵器の残忍さを強調し、核兵器は抑止力に役に立つという考えを許してはいけないと述べました。また、そのためには自国での被害でありながら、それを深くは知らない日本の市民に対して核兵器の加害性を十分に知らせていく必要があると強調しました。
遠藤さんは、市民社会の取り組みとして、NPT準備委員会に先駆けて行われた外務省意見交換会と8月に行われた国会議員討論会を紹介しました。そして核兵器禁止条約は出口ではなく入口として重要であり、核兵器を禁止する国際的な規範ができている中、そこに日本政府が批准して貢献したということを歴史の教科書にいち早く載せたいと呼びかけました。
3名の冒頭発言を受けてモデレーターの永井さんは、市民と政府の間での対話を通じて、核兵器廃絶に向けてどのような協力ができると思うかと投げかけました。
石井課長は、核兵器廃絶という最終的な目標は共有しているが、日本政府には国民の安全を守ることと核兵器の廃絶という二つの責任を同時に果たす必要があり、NGOとはアプローチが異なっていると述べました。そして、冷戦後、約70,000発から約12,000発にまで減った核兵器の数が、現在また増加しようとしている現実があり、核兵器の質については包括的核実験禁止条約(CTBT)、量については核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)で歯止めをかけることが重要であると語りました。
石井課長の発言を受けて、田中さんは、日本政府の姿勢はえらくのんびりしている。核兵器数が12,000発にまで減ったのは事実だが、たった一発の破壊力を知っている。FMCTやCTBTなど随分前から言われていることをいま持ち出しているところを見ても悠長だと思うと語りました。遠藤さんは、CTBTやFMCTなどを進めることはもちろん重要だが、実際に核軍縮が進んでいないという現実に目を向けるべきであると指摘しました。また、日本が軍事費を増加させることによって、日本自身が周辺国の脅威になりうる可能性を指摘し、日本が変わることの重要性を主張しました。石井課長は、中国などが日本を射程に入れた核兵器搭載可能なミサイルを開発しているなどという現実があり、決して日本が原因となって脅威が高まっているわけではないと語りました。そして、平和国家である日本が厳しい安全保障環境に対応しなければならないまでに追い込まれているのが現実だと説明しました。田中さんは、戦争をすれば犠牲になるのは国民であることを戦争経験から学んだ。戦争は権力のある人を除いて誰も救わない。核兵器は誰の安全を守るためのものなのかと語り、軍事によらない安全保障のあり方を模索すべきであると訴えました。
パネルのまとめとして永井さんは、この問題を漠然と考えるのではなく、今回の討論でも言及された「軍事的ではない方法でどう平和を目指すのか」「安全保障とは、現実的とは、一体何を指すのか」「日本政府の主張は誰の立場を代表しているのか」など、具体的な問いを立て、議論を深めることが大切であると呼びかけました。
最後にパネル討論②へのコメントととして、パネル①のモデレーターを務めた伊藤さんは、核のボタンを持っている人とどう対話を深めていくのかさらに考えていきたいと語り、続いて永井さんは、平和運動を冷笑し理想論だと片付けるのではなく、被爆者の言葉を叫びであると受け止め、市民同士および政府との対話を深める一員になりたいと語りました。
シンポジウムを視聴し、私自身、今この時も「国を守るため」として争いが繰り広げられ、多くの命が奪われるなか、田中さんの「誰のための安全保障なのか」という問いかけを重く受け止めました。今後、核兵器や武力に頼らない安全保障のアイデアについて学び、その実現をより具体的に描いていきたいと思いました。そして、そのためにも日本政府の核兵器禁止条約への参加に向けた働きかけを続けていきたいと思います。
(文責: 核のち晴れ 玉木友貴)
参考:
FMCTハイレベル記念行事
核兵器をなくすための「日本キャンペーン」
なお、本イベントの様子は、以下のメディアで取り上げられました。
NHK「核廃絶国際デー前に平和などテーマにオンラインでシンポジウム」(2023年9月24日)
朝日新聞「「核廃絶は叫び」国際デーでオンラインイベント CFは1千万円達成」(2023年9月24日)