
【開催レポ―ト】8.5 国会議員討論会「被爆80年 日本はどのように核軍縮を主導するか」
2025年8月5日、被爆80年の広島原爆の日を前に、国会議員討論会「被爆80年 日本はどのように核軍縮を主導するかー『核兵器のない世界』に向けた転換点を作るためにー」が開催されました。討論会の概要と参加者の発言内容は以下の通りです。アーカイブ動画はこちらから。
【テーマ】
- 2026年NPT再検討会議およびTPNW第1回再検討会議に向けて
- 東アジアにおける核軍縮と安全保障ーいかにして日本は地域の核軍縮を主導するかー
【参加者】(敬称略)
- 中満泉 国連事務次長・軍縮担当上級代表
- アレクサンダー・クメント オーストリア外務省 軍縮・軍備管理・不拡散局長
- メリッサ・パーク 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長
- 田中熙巳 日本被団協代表委員/核兵器をなくす日本キャンペーン・代表理事
- 各党代表
- 寺田 稔(自民党 衆議院議員)
- 本庄 さとし(立憲民主党 衆議院議員)
- 空本 誠喜(日本維新の会 衆議院議員)
- 玉木 雄一郎(国民民主党 衆議院議員)
- 斉藤鉄夫(公明党 衆議院議員)
- 田村 智子(日本共産党 衆議院議員)
- 櫛渕 万里(れいわ新選組 衆議院議員)
- 福島 みずほ(社会民主党 参議院議員)
- 浅野英男 核兵器をなくす日本キャンペーン・コーディネーター
※ 招待状に対して、参政党からは欠席の連絡があり、日本保守党からは無回答でした。
◎登壇者発言
中満泉(国連事務次長・軍縮担当上級代表)

核兵器をめぐる状況は悪化しており、2025年の被爆80年を機に核軍縮の方向へと転換する必要がある。来年の核不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約(TPNW)再検討会議を再び核軍縮の方向へと舵を切るきっかけにしたい。今年の第3回NPT準備委員会においては、議論の進展が見られない大変困難な状況が見られた。核保有国による核兵器の近代化や増強も続けられている。非核保有国の中でも核共有や核抑止に対する意見をめぐって分断が生まれている。TPNW再検討会議では、今後取り組むべき優先課題が議論される。日本がオブザーバーとして前向きに参加することを期待する。
田中熙巳(日本被団協代表委員/核兵器をなくす日本キャンペーン代表理事)

被爆80年という重要な時に、核兵器をめぐって厳しい環境に置かれている。これまでのように、被爆者の証言を通して核兵器廃絶を求めていくことができる最後の大きな年になるかもしれない。核兵器の禁止から廃絶へという被爆者の願いが、新たな段階へと進む年にしたい。
◎各党の基本姿勢の表明
寺田稔(自民党)

核兵器廃絶のためには核保有国が核軍縮を進め、核弾頭を減らさなければならない。NPTのもとで早期に核軍縮を進めていくこと、とりわけ核廃棄プロセスを定例化することには米国をはじめとする核保有国も賛同している。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始を目指すべきだ。
本庄知史(立憲民主党)

核軍縮と逆行しているこの時代に強い危機感を持っている。来年のNPT再検討会議が成功しなければ、NPT体制の存続に関わる。来年2月に失効する新戦略兵器削減条約(新START)の延長に向け、日本が米国や国際社会に働きかけるべきだ。日本のTPNWオブザーバー参加は今すぐできることだが、日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自認しながら、その役割を果たせていない。日本政府の決断を求めたい。また北東アジア非核化について、NPT再検討会議などで議論していきたい。
空本誠喜(日本維新の会)

日本政府は理想論は語るが現実論は語っていない。時期や数字を示しながら核兵器廃絶の具体的な目標を掲げ、核保有国に働きかけていくことが核兵器廃絶の近道だろう。日本のTPNWへのオブザーバー参加は当然であり、将来的な参加も視野に入れるべきだ。戦争・核兵器の使用は外交の失敗によるものであり、正しい外交が必要である。加えて、放射線の人体への影響に関する正しい理解を含めた平和教育の充実・強化も必要だ。
玉木雄一郎(国民民主党)

日本政府が保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うには、双方が加盟するNPT第6条の軍縮履行義務を再認識することが重要で、そこをTPNWで補完することができる。被爆の実相の共有や環境修復、被害者支援など、保有国と非保有国が共通で取り組める分野で日本は成果を出すべきだ。また、次世代のリーダー育成、核なき世界の必要性を伝える教育が重要である。
斉藤鉄夫(公明党)

公明党は核兵器禁止条約を高く評価しており、政府にオブザーバー参加を働きかけ続けている。また人間の安全保障を基軸とし、「北東アジア安全保障対話協力機構」を創設し、核廃絶やAIなどの課題と合わせて信頼醸成を通じた軍縮を目指す。非保有国から保有国に核不使用の誓約を求める首脳外交を展開するべき。北東アジア非核兵器地帯の実現のために全力を尽くしたい。また被爆者の支援、被爆遺構の保存を通じて被爆の実相を伝えることが大切である。
田村智子(日本共産党)

日本が果たすべき役割は、核兵器禁止条約の批准に向けて動くことだ。核抑止論を打ち破るには、被爆者の証言に基づく核兵器の非人道性の告発が重要だ。TPNW第3回締約国会議の報告書で「核兵器はすべての国家の安全に対する深刻かつ根本的な脅威である」と明記されたことは重要である。共産党は軍事ではなく対話、排除ではなく包摂の立場から、ASEANと協力して東アジアの平和構想も提唱している。東アジアサミットのような既存の枠組みも活用していくべきである。
櫛淵万里(れいわ新選組)

核保有国による武力行使が頻発している状況は、核抑止論の破綻を明らかにしている。核廃絶するしかない。それにもかかわらず、日本国内で国会議員が核保有の主張をするといった状況さえ生まれている。被爆80年の今年、日本政府による核の非人道性に関する国際会議を開催してはどうか。核兵器に頼らない安全保障政策に関する議論を進めるべきだ。北東アジアの非核化に関しては超党派による国際議員連盟もある。TPNWオブザーバー参加を求める国会決議も提出したい。
福島みずほ(社会民主党)

来年のTPNW再検討会議までに、日本が条約を批准することを社民党は求めていきたい。国会内において超党派での核軍縮・核廃絶の議論の場作りを進めたい。また、北東アジアにおける非核安全保障構想について引き続き周辺諸国と議論をしていきたい。国会議員が核保有を主張する、また台湾有事における机上訓練で日本が米国に核使用を迫るといった日本の状況には強い危機感を持っている。
◎有識者・NGOによる発言
アレクサンダー・クメント(オーストリア外務省 軍縮・軍備管理・不拡散局長)

TPNWの安全保障上の懸念に関する報告書は、核兵器の人道的影響とリスクに関する科学的証拠に基づいて核抑止論に反論している。核兵器は紛争に直接関与していない国、ひいては人類の存続に影響を及ぼすが、核使用のリスクは深刻に高まっている。核抑止は非論理的な心理的構築物であり、単なる幸運で危機を回避してきたに過ぎない。抑止の失敗は決して許されない。核兵器をめぐる政策によって人類全体が巻き添えになる懸念がある。日本はTPNW加盟国と建設的に関わり、安全保障に関する重要な懸念事項を検討するために、まずオブザーバー参加することを期待している。
メリッサ・パーク(ICAN事務局長)

世界の半数近くの国は法と人間性に基づく集団安全保障を選択し、TPNWに参加している。唯一の戦争被爆国である日本政府がTPNWの会議にオブザーバーとして出席することさえ拒否していることに深く失望している。核の傘への依存は持続可能でも倫理的でもない戦略である。被爆者の声から生まれたTPNWに参加すれば、日本が真剣に軍縮に取り組んでいることを示す場となる。日本の国会議員には、TPNW再検討会議への参加、政府に対してTPNW参加を求めること、超党派の作業部会を設置すること、被爆者やNGOと協働し道義的責任を果たすことを求めたい。
浅野英男(核兵器をなくす日本キャンペーン・コーディネーター)

現在の東アジア情勢には「核使用リスクの高まり」、「核軍拡競争の加速」、「継続的な軍縮対話の欠如」という3つの課題がある。それらを乗り越えるため、核兵器をなくす日本キャンペーンは、日本が東アジアの核軍縮を主導するための3つの柱ー「核兵器の非人道性の発信と核兵器不使用の規範の強化」、「軍縮外交を通じた核の脅威の削減」、「核兵器禁止条約の活用」ーを掲げた核兵器禁止条約マニフェストを発表した。被爆80年を新たな出発点と捉え、「核兵器のない世界」に向けた時代の転換点を政治と市民の連携で作っていきたい。(発言全文はこちら)
◎登壇者発言ーまとめ
中満泉
日本の国会でもTPNWに関する取り組みがさらに議論されるようになってきており、今回の討論会でも日本国内での核廃絶議論の進展を見ることができた。「ユース非核リーダー基金」参加申し込み者数から、核の問題に対して世界中で若い世代の関心が大きく高まっていることを感じる。日本の国会議員には、具体的な行動として、核軍縮へと舵を切るための政策を打ち出してほしい。
田中熙巳
素晴らしい議論だったが、日本のTPNW批准に関する具体的な提案はなかったように思う。各党そして超党派でTPNWを認め、日本が署名・批准し、日本が核廃絶の世界のリーダーになってほしい。若い人たちは被団協ノーベル平和賞受賞を喜び、活動を広げている。国会が国民や若者たちとの対話を深めて、議論を大きくしていくことが重要である。
核兵器をなくす日本キャンペーン学生スタッフ
倉本芽美
