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2023年08月16日

2023 NPTレポート6 ― 第1回準備委員会の「成果」

 2023年8月11日、第11回核不拡散条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会は、同委員会の報告書案(NPT/CONF.2026/PC.I/CRP.2)を一部修正のうえ、コンセンサスで採択し、閉会した(191の締約国のうち113カ国が出席したとされる)。

 この報告書は後述するように形式的・手続的性格のものであり、第1回準備委員会の成果として、実質事項についての文書はコンセンサスで採択されなかった。もっとも、これは過去のNPT準備委員会では常態化しており、これまでは、コンセンサス文書に代えて、議長がその責任において討議内容をまとめた作業文書を作成し、次回準備委員会に送ってきた。

 今回も、同様のことが試みられた。会議閉会の前日10日午前、ヴィーナネン議長は、前記報告書案と並んで、議論の概要をまとめた事実要約案(draft factual summary)(NPT/CONF.2026/PC.I/CRP.3)を締約国に提示した。事実要約案の討議は、10日午後の会合から開始された。議長は、同日夜、新たに、第2回準備委員会に向けた議長による勧告(NPT/CONF.2026/PC.I/6)を提出し締約国に回章している。

 事実要約案の討議は、最終日11日午前まで続けられたが、締約国から極めて多様な見解が提起され、コンセンサスによる採択が困難となったため、議長はこれを議長の責任のもとで議長の作業文書として提出することを表明し、事実要約案の討議を終えた。報告書案(CRP.2)の採択に移る時点において、イラン、ロシア及びシリアが公式文書として報告書案(CRP.2)の文書リストに議長の事実要約案(CRP.3)を残すことに反対し、さらにロシアは議長による前記「勧告」文書についても同様の姿勢を示した(これらは報告書の採択それ自体への反対を示唆していた)。同日昼食時間を費やしての協議の結果、11日午後の会合(閉会会合)で、議長は、この事実要約案を作業文書として提出しないこと、「勧告」(recommendations)については「考察」(reflections)と名称を変更し作業文書として残すことを表明した。これにより議長の事実要約案(CRP.3)は、報告書の文書リストから除外されることとなった(この詳細については、さしあたりこちらこちら及びこちらを参照されたい)。なお、議長は、第1回準備委員会に先立ち開催された「再検討プロセスのさらなる強化に関する作業部会」についても8月3日付で作業文書を提出している(NPT/CONF.2026/PC.I/WP.34)。

委員会の報告書

 採択された同報告書は、委員会の開催状況等の事実をまとめた手続的性格の文書である。同報告書では、第1回準備委員会による決定事項として、第2回準備委員会が2024年7月22日から8月2日までジュネーブで開催されること、及びその議長にカザフスタンのアカン・ラクメトゥリン(Akan Rakhmetullin)大使が指名されたことが記載されている(パラ14)。カザフスタンは核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会合(3MSP)の議長国でもある。3MSPの開催時期は未定だが、条約規定によればTPNWの締約国会議は2年ごとの開催であるから、2025年ごろが予想される。同国は2026年までのNPT再検討サイクルの中でNPTとTPNWの双方で重要な役割を担うこととなった。

除外された議長による「事実要約」案

 議長による「事実要約」案は、全122パラグラフからなり、NPTの3本柱と関連分野に及ぶ網羅的文書であった。多くは、「締約国」(states parties)を主語とする文章で構成され、コンセンサスを想起させる記述の仕方となっていたが、異なる見解が存在する場合には、これに対する言及もなされており、基本的にはいわゆる両論併記の文書である。

 同文書をめぐる討論では、各国ともに個別のパラグラフにおける個別の表現を取り上げ、見解を表明している。この文書に関する参加国の見解については、さしあたりこちらを参照されたい。

 ヴィーナネン議長によると、前回の第10回再検討会議に向けての準備委員会でも、同様の議長による事実要約は作成されたが、コンセンサスで採択されることはなく、議長による作業文書として次回準備委員会に送られてきており、これは確立した慣行であるという。この文書の文言をめぐり締約国間で上記のようなやり取りが行われることを通じて、争点が収斂していくとみることができるから、議長による事実要約の提示とこれをめぐる締約国間での議論には一定の役割がある。

 今回、この文書が公式文書として文書リストからは削除されたが、削除を主張した諸国も、事後に作成される抄録(summary records)からの削除までは主張していないから、この議論の事実と内容は残るだろう。

議長による「考察」作業文書

 議長による「勧告」も「考察」とタイトルを変更されることとなった。同文書は、上記の事実要約案と比べると全20パラグラフと短いものだが、今回の準備委員会における議論を踏まえて、議長が考える、次回準備委員会で集中的に討議すべき具体的項目が列挙されている。以下、分野ごとにその項目を示す。

軍縮コミットメントの実施に対する説明責任とそれに関連して講じられた措置の透明性

  • 核兵器国による強化された標準報告とその報告内容について
  • 核兵器国による国別報告書の提示と報告についての双方向の議論を含め、強化された再検討プロセスにおいて報告をさらに制度化する方法について

安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の低減

  • 核兵器国の軍事ドクトリンにおける核兵器の役割と、その役割を低減し排除するための措置について
  • 軍縮と軍備管理のプロセスにあらゆるカテゴリーの核兵器と運搬システムを含めることについて

非核兵器地帯の関連を含む、消極的安全保証

  • 核兵器国による非核兵器国に対する、法的拘束力を有し、効果的、普遍的、無条件、無差別、かつ撤回不可能な消極的安全保証の提供に向けてどのように前進するかについて
  • 非核兵器地帯を確立する条約の議定書および核兵器国による安全保証の提供に関連するその他の取極の地位について

核兵器の使用を防ぐための措置

  • 新興かつ破壊的な科学技術の影響を含む、核兵器使用のリスクに影響を与える要因について
  • 非核兵器国との協力を含む、核兵器国による核兵器の使用を防止するための措置について
  • 核兵器使用の防止と核軍縮の達成との関連性について

被害者援助や環境修復を目的とした措置を含む核兵器の人道上の帰結

  • 電離放射線への被ばくによる男女別の影響を含む、核兵器の爆発の人道上の帰結に関する新しい研究から得られた洞察について
  • 被害者の利益と環境修復のため、核兵器の爆発により被害を受けている国への援助の提供について

保障措置

  • まだ締結していない締約国に包括的保障措置協定の締結と発効を奨励する方法について
  • 包括的保障措置協定、追加議定書の遵守および少量議定書の改正または廃止の促進並びにこれらの義務を履行するための締約国の能力構築を通じた、IAEA保障措置の強化に対する支援の最適化について
  • 小型モジュール式原子炉技術、可搬型原子力発電所、浮体式原子力発電所など、重要な技術開発が IAEA 保障措置に及ぼす影響を評価することについて

輸出管理

  • 条約第3条第2項に基づく各国の義務を履行するための具体的な措置、および核関連貿易が核兵器や核爆発装置の開発に寄与しないことを確保するための措置について
  • 前記(a)で言及されている措置が条約第4条で認められた権利を不当に妨げないようにする方法について
  • 締約国が条約の関連規定に従ってすべての国への核関連品目および汎用性品目の移譲に関するコミットメントを確実に実行できるようにするための健全な国内法および規制の整備について

非核兵器地帯

  • 非核兵器地帯の関係議定書に関連して、核兵器国による留保および解釈宣言の見直しおよび/または撤回を促進する方法について
  • 非核兵器地帯間の協力を強化する方法について

持続可能な開発目標と気候変動に関する2015年パリ協定の達成における原子力科学技術の平和利用

  • 地球規模の課題と社会経済的発展のニーズに対応した原子力科学技術の可能性を最大限に実現するための経験、成功、課題、優れた実践の共有について
  • SDGsおよび気候変動に関する2015年パリ協定の達成における原子力科学技術の役割について、政府および国際開発機関、非政府組織、医療および研究コミュニティ、大学、原子力規制当局および運営者、原子力産業並びに民間部門を含む幅広い利害関係者の間で認識をさらに促進する方法について
  • 意識向上、能力構築、設備の提供、地域ネットワークと地域協力枠組みの強化、南と北および南と南ならびに三者間協力を通じて、原子力の平和利用の利益への持続可能なアクセスをさらに拡大することを目的とした締約国のイニシアチブの実施について
  • がん対策の強化に関する旗艦的イニシアチブ(希望の光)、人獣共通感染症の発生に対する準備と対応能力の強化(総合的人畜共通感染症行動イニシアチブ:ZODIAC)、プラスチック海洋汚染への対処(プラスチック汚染管理のための原子力技術:NUTEC Plastics)、小型モジュール型原子炉(原子力調和・標準化イニシアチブ:NHSI and SMR Platform)および原子力分野における女性の参画(マリー・スクウォドフスカ・キュリー・フェローシップ・プログラムおよびリーゼ・マイトナー・プログラム)など、IAEAのプロジェクトをさらに支援する方法について

武力紛争中の原子力安全と核セキュリティ

  • 武力紛争中の原子力安全と核セキュリティを確保するためのIAEAの不可欠な7つの柱と、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)における原子力安全と核セキュリティの確保を支援する5つの具体的な原則の順守を強化する方法について
  • この点でIAEAの活動をさらに支援する方法について

再検討プロセスのさらなる強化

  • 第2回準備委員会では、クラスター3の特定問題の下で、2026年の再検討会議に勧告を提出することを目的として、議長提出の作業文書(WP.34)その他の提案に基づき、再検討プロセスの有効性、効率、調整および継続性を向上させるための対策について集中的な議論を行うこと。

 この文書は、次回の準備委員会に送られることになる。閉会に際して、第2回準備委員会の議長国となるカザフスタンは、この「考察」に含まれる価値を認め、そこでの勧告その他を含む重要事項をカバーするバランスの取れたアプローチを取るとした。

 第2回準備委員会は、来年の夏の予定だが、その間に国連総会第1委員会やTPNWの2MSPが開催される。核軍縮の議論がどのように進むか、注目していきたい。

明治大学 山田寿則

(PDFはこちら

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