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2023年08月16日

2023 NPT インタビュー2 − ​フェミニスト外交政策センター アイゲリム・シチェノヴァさん

 核不拡散条約(NPT)第1回準備委員会に参加している核軍縮の分野で活躍する若者のインタビュー第2回目はカザフスタン出身のアイゲリム・シチェノヴァ(Aigerim Seitenova)さんです。アイゲリムさんは現在ドイツのベルリンにあるフェミニスト外交政策センター(Center for Feminist Foreign Policy)において平和・安全保障プログラムのプロジェクトマネージャーとして働いています。

*ここでのインタビューは彼女が所属する団体を代表するものではありません。

倉光(K):ご自身の自己紹介となぜこの分野に興味を持ったのかについてお話していただけますか?

アイゲリム(A):私は旧ソビエト連邦の元核実験場からおよそ100kmの距離にある場所で生まれ育ちました。核実験被害者の3世です。しかし私は、核実験場が閉鎖された後に生まれたため、書類上では核被害者として見なされておらず、核実験被害者の手帳も持っていません。2018年にセミパラチンスク核実験場を訪れたことをきっかけに、若者の反核活動家としてこの分野に関わるようになりました。2021年にはユース・フュージョン(Youth Fusion)という団体でボランティアを始め、そこでユース・フュージョンの母体団体であるアボリション2000(Abolition 2000)という団体を設立したマルジャン・ヌルジャン(Marzhan Nurzhan)という女性と出会い、この分野での活動を本格化し始めした。

K:今回はなぜNPTに参加しているのですか?

A:現在、所属しているフェミニスト外交政策センターの仕事としてきています。NPTにおいて人間の安全保障やフェミニスト外交といったテーマがどのように各国の発言、サイドイベントなどに反映されているか、ということを中心に会議を傍聴し、レポートを執筆しています。このインタビューでは、私が個人的にNPTで注目している点を共有させてください。

 まず、NPTと核兵器禁止条約(TPNW)の締約国会議では雰囲気が全く違うことに驚きました。NPTの会議の場では、核兵器の抑止力についての話が大きな存在感を持っているように思います。5つの核兵器国を中心に、いくつかのNPT締約国の核抑止、拡大抑止そして核共有に関する考え方がTPNWの締約国とは全く違うことに驚きました。私はTPNWの成立時、まだ核軍縮・不拡散という分野のことをあまり知らなかったですし、今回が初のNPTへの参加なので、核兵器国や核の傘の下にいる国々とそれ以外の非核兵器国との溝がこんなにも深く、核抑止というコンセプトの捉え方が根本的に違うことを初めて目の当たりにしました。

 次に、市民社会とNPT締約国の政府代表団との交流がほとんどなく、会議全体を通して市民社会の存在感が小さいことにも驚きました。サイドイベントはたくさんありますが、もっと多くの市民社会やNGOが会議に関われるようにする必要があると思います。毎日お昼には3〜4つのサイドイベントがあったり、会議中にもサイドイベントがあったり、同時進行で様々なことが行われています。しかし、そのサイドイベントや限られた市民社会との交流の中から、具体的に軍縮につながるような流れがどれほど作られているのか、正直あまり想像がつきませんでした。実際に、政府代表者は代表同士で話し、メインの会議が終われば彼ら/彼女らの間で交渉をしています。それは「仕方がないこと」、「当たり前のこと」と言われてしまえばそれまでですが、市民社会と締約国との関わりが少なすぎると思います。振り返ると、各国の代表はステートメントを読んで、それぞれ国益を守るために他国を名指しして批判し合い、答弁権(Right of reply)を使って意見を交わす場面はたくさん見られましたが、NGOは一方的にステートメントを発表しただけでした。NGOのステートメントに答弁権はないし、政府からのコメントも何もなく、NGOと締約国は大きな壁で隔てられていると感じました。市民社会が主張したいトピック(核兵器の人道的被害、フェミニスト政策、TPNWとNPTの補完性など)についてのサイドイベントはありましたが、それに賛同や興味を示す締約国、その関係者以外がイベントに姿を見せることはほぼありません。こうしたNGOの参加の仕方が本当に効果的なのか少し違和感を感じました。

 実際、核兵器使用や核実験の被害、その恐ろしさについて、NGO は長い間ずっと主張してきたにもかかわらず、現在、核廃絶というゴールからは離れていってしまっています。現状は良くなるどころか、悪くなる一方です。ロシアを批難することや国際法に基づいた秩序の維持は大切だと思います。しかし、核軍縮が全く進んでいない原因はロシアのウクライナ侵攻以外にもたくさんあると思います。NPTでの会議を傍聴して、各国がお互いを指差し続け、軍縮が全く進まない場面を見て、核をめぐる情勢はこれからも複雑になっていくのだろうなと思い、核兵器廃絶を願う市民社会とのギャップを感じました。

K:NPTに参加した若者として、何か気づいた点はありますか?

A:国は若者の声を聞いていないと感じ、悲しくなりました。形や口だけで若者の参加を促していた少し前の時代と比べると、国連やNGO、国による主導で、若者の声に耳を傾けよう、若者をもう少しこの分野に増やそうというプログラムが増えていることは素晴らしいことだと思います。ただし、若者やNGOが1人1人の人権を守る観点から環境や多様性の問題、核兵器の人道的影響について声を大にし、核廃絶を訴えているにもかかわらず、人間の安全保障という観点を主眼を置いて発言している国は本当にごく一部しかないということを目の当たりにし、残念な気持ちになりました。ロシア、アメリカ、イギリス、フランス、中国の5カ国が核兵器国であること、そしてどの国も軍縮義務を負っていることは変わりません。その点で良い・悪い核兵器国などないと思います。必要最低限の核抑止の必要性を主張する限り、核軍縮は全く進まないと思います。冷戦以降、核の使用リスクが一番高まっていると最近さまざまな人が言っていますが、環境やその他の社会問題、人類全体の存続を核兵器が脅かしているという点については、限られた国の代表しか語っておらず、驚きました。

 若者がたくさんこの場にいることは良いことだと思いますが、その若者の声を真剣に聞いてくれる専門家や政府代表団はいないという印象です。その理由の一つに、この分野に関わっている人は恵まれた、特権的な階級の人で、エリート層が多いことが挙げられるのではないかと思っています。また年功序列のような文化も感じるため、若者の活動やイベントなどは主要なものとして扱われないことが多いです。その結果、この会議に参加している若者が若者同士だけで会話を完結させてしまっているという印象を受けました。

K:軍縮・不拡散分野の「とっつきにくさ」やエリート層が多いなと感じるのはどんな時でしょうか?

A:この分野で活動を初めてまだ日の浅い私が日々感じていて、NPTの場でも感じたことは、話す内容の専門性の高さから、分野が排他的になりがちという文化があることです。アジア人かつ若者で、そして市民社会のメンバーとして参加するにあたっては、とりわけ各国の代表団との壁を感じています。ハイレベルなイベントなので、隣の席に座った人に声をかけて良いのだろうかと少しためうこともあります。長年、軍縮・不拡散分野に関わっている人も多いので、旧知の仲の知り合い同士が話し合う閉鎖的なコミュニティだなとも思っています。この分野において、もう少し多様性を高めたり、包摂的にしようという話は出ていますが、まだまだ遠い未来の話だと感じます。この分野は、長年関わりのある白人男性が多く、彼らが発言力を持っている世界です。核軍縮をめぐる問題も、それに関わっているコミュニティにも、どこに問題があって、どう現状を変えていけるかということを考慮しながら変化を求めていくべきだと思います。

K:アジアの参加者として壁を感じることがあると仰っていましたが、カザフスタンからの参加者はいますか?

A:地理的にもアジアはヨーロッパから遠いですし、アジア人の参加者は少なくなりやすいと思います。日本政府はお金やリソースを使って若者をNPTの場に積極的に参加させていて素晴らしいと思います。私はカザフスタン出身ですが、今、所属している研究所はドイツの団体ですし、この会議に参加しているカザフスタンの人は政府の代表団を含め片手で数えられるほどではないかと思います。カザフスタンは核実験を経験し、核軍縮・不拡散に関してもっと声を上げるべき国だと思いますが、核問題に興味のある若者をNPTに派遣できるようなリソースがありません。また、日本人の派遣と比べると、ヨーロッパを訪れるのはビザの手続きも大変です。

K:もっと多くの若者を巻き込んでいくにはどうすればいいと思いますか?

A:自分の出身国の内政、経済状況および社会状況が良くなく、社会問題が山積している場所の出身の若者は、核兵器の問題に関心が向きにくいと思います。貧困、不平等、差別、格差など、理由は例を挙げるときりがありません。また、関心があったとしても、行動を起こすことに更に高いハードルがあります。核軍縮の活動が無償のボランティアである場合が多く、多くの時間と労力を割いて勉強しなければならず、モチベーションの維持が難しいからです。現在も続くロシアによるウクライナ侵攻は決して許されることではありませんし、悲しいことに緊迫した状態がまだまだ続いていますが、それが、核兵器というものの存在についてより多くの人の関心を集めたという側面もあります。多くの国が軍事や核兵器による力を求めるようになってしまいましたが、市民社会が、核兵器はいらないと真っ向から否定し、核抑止力に頼る安全保障は間違っていると各政府に訴える時だと思います。今こそ、市民社会から、ヒロシマ、ナガサキ、世界各地での核兵器開発および核実験の人道的被害を声を大にして発信するべきだと思います。そして各国は、核兵器の増強にお金を費やすのではなく、(例えば日本やカザフスタンの間などで)若者の交流を活発にしたり、若者への軍縮教育に投資しなければならないと思います。

インタビュアー 倉光静都香

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