2023TPNWユースブログ②ー核廃絶は『いつか』では遅い。被爆者が生きているうちに、どうか達成してほしい 被爆者とともに会議に参加してー
わたしは、ABC for Peace、長野反核医療者の会の河野絵理子です。ABC for Peaceは、反核医師の会に参加する若手医師を中心に今年9月に始めたプロジェクトで、医師に限らず、全国の医療介護従事者とともに核兵器廃絶を目指す活動をしています。今回の第2回締約国会議には、日本原水協の派遣団として参加しました。
わたしからは、11月29日に実施した日本原水協とオーストリア政府が主催したサイドイベント「人類と核兵器は共存できない-ヒバクシャは核兵器禁止条約を支持する(Humans and Nuclear Weapons Cannot Coexist -Hibakusya Support TPNW)」と、国連日本大使との面会の2つについて報告します。
サイドイベントでは、まず、オーストリア外務省のゲオルゲ―・ヴィルヘルム・ガルホーファー(George-Wilheim Gallhofer)さんが発言し、核兵器は使用されたら、被害者の9割以上は一般市民であることは免れない。核兵器禁止条約の発効には核被害者の尽力が大きかったと語りました。その後、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市さん、韓国原爆被害者協会のイ・ギヨルさん、マーシャル教育イニシアチブのベネティック・カブア・マディソン(Benetick Kabua Maddison)さん、先住民世界協会のペチューチェ・ギルバート(Petuuche Gilbert)さんが発言しました。
木戸さんは、長崎において5歳で被爆した経験を鮮明に証言しました。また、日本政府は、被害者援助への支援を一貫して拒んでおり、被爆者運動により一定の進歩はあったが、未だ不十分であることや、核兵器禁止条約に参加せず、圧倒的多数の国民の願いに反していることを述べました。そして「この会議に参加して、核廃絶への道は大きく開かれていると実感しました」という言葉に、会場から大きな拍手が起こりました。
イさんは、日本による戦時中の強制連行によって、当時、日本にいた朝鮮半島の方々およそ7万人が原爆の被害を受けたことを語り、78年たった今も、わたしの身体は全て覚えています。いまだに悪夢に悩まされて飛び起きることがある。生存者として、核のない世界を目指して、未来の世代のために行動したいと話しました。
ベネティックさんは、アメリカが行ってきた67回もの核実験によって、マーシャル諸島の人々は、多大な放射能を浴びてきた。これは、広島に落とされた原爆の1.7倍の核兵器が毎日使用されているのに匹敵する。何十年もの間、マーシャルの人々の声は消されてきた。自分たちと同じ経験を世界の誰にもさせたくないと述べました。
ペチューチェ・ギルバートさんは、アメリカのニューメキシコでは、50年もの間ウラン採掘によって放射能による汚染が進んでいる。私たちは動物実験のように扱われている。本当に『核兵器なき世界』を実現するというなら、ウラン採掘は一切しないでほしいと訴えました。
サイドイベントが終わってから、夕方には国連日本代表部に向かい、志野光子大使と面会しました。日本原水協派遣団のうち原水協事務局の安井正和さん、新婦人の会の平野恵美子さん、全国労働組合総連合の石川敏明さん、神奈川県原水協の三井靖広さん、愛友会の金本弘さんのそれぞれが、会議に参加しての実感やそれぞれの団体の活動を話しました。
わたしは、反核医師の会が、放射能による被害は医学で治療できないからこそ、それを予防するために核廃絶をしなければならないという被爆者医療に携わった大先輩の医師たちの思いで運動を始めたことを紹介しました。そして、今回の会議に参加して、条約の議論に被爆者の証言は大きな影響を与えているが、一方で、核兵器の非人道性に関する研究はやっと始められたばかりで、情報が足りないと何度も言われていたことを伝えました。そして、日本の医療機関や研究機関は被爆の影響に関する知見を世界のどの国よりも蓄えているはずで、日本政府が条約に参加しワーキンググループの一員となることで、日本の専門家の条約への関与をもっと高めることができるのではないかと提起しました。
また、被爆者である金本さんは、15歳で被爆した姉がつい先日亡くなった。0歳だったわたしをおぶって惨禍の中を逃げ、その後78年間親代わりとして育ててくれた。わたしは、ニューヨークの締約国会合には参加しないつもりだったが、姉はきっと「行ってきんさい(行ってきなさい)』と言うだろうと思い、参加を決めた。会議の中で、核兵器禁止条約は必ず広がっていく。核廃絶がいつか達成されると述べられていたが、「いつか」では遅い。わたしたち被爆者が生きているうちに、どうか核廃絶の道筋だけでもはっきりと示してほしいと涙ながらに語りました。
志野大使からは、安全保障に関する脅威が深刻化している中で、日本政府がいつになったらオブザーバー参加できるのか、明確には述べられないとの返答があり、大変残念なものでした。しかし、他方で、政府だけでは動かないことが多い。ぜひ(市民から)力を与えてほしいと、わたしたち市民の取り組みの意義を認める一幕もありました。
1日を通して、被爆者の方とともに、被爆の実相を世界に伝える、そして日本政府の条約参加を求める活動をさせていただきました。これほどまでに核被害者の証言に基づいた議論がなされているにも関わらず、日本政府が参加していないというもどかしさを痛感しています。1日も早く核廃絶を実現するために、日本政府の条約参加を目指して医療者として行動を続けたいと思いを新たにすることができました。
長野反核医療者の会/ABC for Peace 河野絵理子