Campaign News

2024年09月03日

【2024NPTレポート】第2回準備委員会の成果:核軍縮分野を中心に

はじめに

 2026年の核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会が、2024年8月2日に閉会した(公開会合は第1回会合から第17回会合まで)。7月22日からスイス・ジュネーブの国連事務局において、118の締約国、10の国際組織及び72のNGOが参加し、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和利用をめぐり議論が展開された[1]

 その議論の要約は、議長による作業文書(Chair’s Summary, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.44)として提出され、これを掲載した文書リストを含む最終報告書(Report of the Preparatory Committee on its second session, NPT/CONF.2026/PC.II/7)がコンセンサスで採択された。昨年は、議長がまとめた事実要約(Draft Factual Summary)に対してロシアなど一部の国から強い反発があり、議長はこれを作業文書として提出することを断念した。また、その草案を委員会の最終報告書の文書リストに掲載することについても反対があり、公式の記録に残すことすら実現しなかった[2]

 今回も、ロシアが議長による事実要約の内容につき異論を唱え、当初は、昨年と同様に最終報告書の文書リストへの掲載にも反対した。最終的に同国は、この事実要約に対して、同文書が議長の責任の下にまとめられたものであり、必ずしも準備委員会におけるコンセンサスを反映しておらず、かつ今後の交渉の基礎ともならない旨の注記を追加することを求め、議長がこれを受け入れたことにより、リスト掲載が実現した。

 だが、この議長による事実要約への注記は、本来不要のものとも言える。ロシアが注文をつける以前に、議長はこの文書についてはコンセンサス採択できないと宣言して、議長による作業文書として提出すると述べていた。作業文書とは議長がその権限ないしは裁量で提出するもので、そもそも会合参加国のコンセンサスがないことを前提としているものだ。ロシアの主張はそれを再確認するものに過ぎず、意味のない注記とも言える(だから、この対応について会場からは賛否両論が提起された)。ロシアの態度は、それほど異議が強いものであることの意思表示だとみることもできる。また、議長による事実要約文書は、形式的にはコンセンサスのない作業文書だが、実際には、参加各国は極めて精力的にその内容を精査し、議論し、異議を申し立ている。この各国の姿勢は、あたかもこの文書が交渉文書であるかの如くだ。ロシアのこだわりは、この点を考慮しているのかもしれない。いずれにせよ、このロシアのこだわりは、議長による作業文書の地位をかえって高めるものとなったとみることもできる。コンセンサスのない作業文書であっても精力的な議論を経て議長がまとめた文書は、ただの作業文書ではないことを示唆するものとなった。なお、今回提出された議長による作業文書は、「議長による要約(Chair’s Summary)」と題されており、従来用いられていた「議長による事実要約(Chair’s factual summary)」とはタイトルが異なる[3]。この点にも、今回の文書の特殊性が表れている。

 閉会に際し、議長はもう一つ別の文書「議長による考察」(Towards 2026: reflections of the Chair of the 2024 session of the Preparatory Committee, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.43)を作業文書として提出した。これは2022年の再検討会議に至る前回の再検討サイクルの中で登場した実行で、議長による「事実要約」とは別に、議長が自らの見解を提出するものである。今回のサイクルでも、第1回準備委員会議長が同様の作業文書を提出していた[4]。この第1回の考察文書では、2026年再検討会議の成功を目指してさらに集中的に議論すべき点が提起されており、ある種の論点整理がなされていた。今回の考察文書では、今回の議論についての一般的な所感(general sentiments)を反映していると議長がみた要素が列挙されており、議論が収斂しつつあると思われる項目につき考察がなされている。これら考察文書による論点整理と意見集約が今後どのように効果をもつかにも注目する必要がある。

核軍縮に関する議論

 以下、議長要約を手掛かりに、核軍縮に関して注目される争点を中心にまとめる[5]。この議長要約は、7月31日の第15回会合後に原案(Draft Factual Summary, NPT/CONF.2026/PC.II/CRP.2)が公開され、翌8月1日の非公式協議を経て、8月2日の第16回会合前に改訂案(Revised Draft Factual Summary, NPT/CONF.2026/PC.II/CRP.2/Rev.1)が提示された。そして、上述したロシアによる異議を経て、作業文書として提出された。最終的な議長要約には、公開会合における各国の発言には登場しない非公式協議における議論も反映されている。

過去のコミットメントの有効性

 過去の再検討会議での合意の有効性について、議長要約は、「過去のコミットメントは依然として有効であり、条約の完全履行と核兵器のない世界の実現に向けてさらに前進するための基礎となることが強調された」とする(パラ7)。確かに非同盟諸国(NAM)など非核兵器国は、繰り返しこの点に言及している(第6回会合NAM発言第16回会合NAM発言)。これに対し、核兵器国はこの点を明言はしていない。米国も2000年の13項目の措置及び2010年の行動計画に沿って自国の取り組みを説明したものの、「過去の軍縮関連のコミットメントが依然として関連性のある場合は、引き続きその実施を追求する」としており、一定の解釈の余地があることを示唆した(第6回会合米国発言)。

安全保障環境の悪化と核軍縮

 悪化する安全保障環境において核軍縮をどう進めるかは大きな課題である。議長要約では「締約国は、国際安全保障環境の悪化について懸念を表明した。多くの締約国は、安全保障環境が核軍縮を延期すべきではないと指摘し、継続的な悪化を逆転させる上での軍縮の役割を提起した」とされている(パラ12)。多くの国が安全保障環境の悪化を口実に核軍縮を停滞させることには否定的である(例えば、第1回会合新アジェンダ連合(NAC)発言第6回会合ストックホルム・イニシアチブ発言第16回会合NAM発言など)。

 しかし、現実に核兵器国間では、温度差はあるものの、安全保障環境の考慮の必要性は共有されている。米国は、「ロシア、中国、北朝鮮が猛烈な勢いで核兵器を拡張し、多様化させている現在の安全保障環境を無視することはできない」(第6回会合米国発言)と明言し、ロシアも「核軍縮を含む軍縮問題はもっぱら国際の安全と安定の包括的な強化という一般的な文脈の中で議論されるべきである」と応じている(第7回会合ロシア発言)。中国も「核軍縮プロセスは世界の戦略的安定を維持するという原則に従わなければならない」と強調した(第16回会合中国発言)。英国も軍縮の進展には「適切な安全保障環境の構築が必要」とし(第7回会合英国発言)、フランスも「すべてにとっての損なわれない安全という原則」に言及している(第7回会合フランス発言)。

核兵器の削減問題

 このような核兵器国による安全保障環境重視の姿勢は、具体的な核軍縮措置の主張をめぐる非難の応酬につながっている。米国は、核兵器の削減問題について、「ロシアと将来の軍備管理枠組みに取り組む用意があり、中国と核リスクの削減に取り組む用意があることを明確にしてきた。しかし、ロシアが既存の義務を遵守せず、軍備管理対話を全面的に拒否していることは、2026 年 2 月以降の新START後継条約の可能性に影を落としている。一方、中国は、二国間協議の停止からもわかるように、リスク削減や軍備管理について二国間で取り組むことに関心を示していない」として、ロシア・中国の対応を批判し、上記の発言を行った(第6回会合米国発言)。これに対して、ロシアは、「圧倒的な軍事的優位性を追求し、同盟国の全面的な支援を得て、米国は既にかなり破壊した国際安全保障体制の残骸を破壊し続けている。ワシントンはブロック政治を選択し、ますます多くの軍事連合を形成し、戦略的安定性を損なうさまざまな行動や技術的軍事計画を実施している」として、米国を非難し、その関連で、NATOの核共有や米韓・日米の拡大核抑止、AUKUSの実践も問題視した。特にNATOによる反ロシア政策の放棄がなければ戦略的対話は無意味だとする(第7回会合ロシア発言)。中国も、米国が過去最大の核保有国であり、通常兵器でも最大の国であることを指摘し、絶対的な戦略的優位性を追求してきた米国を非難し、米国に対し、核警戒レベルの低減、他国にカスタマイズした抑止政策の停止、グローバルなミサイル防衛システムの開発・配備の中止、地上配備型中距離ミサイルの海外配備の中止、核共有と拡大抑止の取極の放棄、海外配備核兵器の撤去を求めた。また、核の傘の下にある非核兵器国に対して、集団安全保障政策における核兵器の役割低減等を求めた(第7回会合中国発言)。

核共有

 核共有については中ロだけでなく、NAMもNPTの原則・目的ないしは精神・目的に反すると繰り返し非難している(第1回会合NAM発言第6回会合NAM発言及び第16回会合NAM発言)。核共有問題は、答弁権行使においても繰り返し議論されており、NATO諸国が積極的に反論している。

 これらの議論については、議長要約が以下のようにまとめている。

  • 「多くの締約国は、核兵器共有協定と拡大抑止、および非核兵器国の領土への核兵器の配備慣行について懸念を表明した。一部の締約国は、このような協定は、上記協定に参加している国々の非核兵器地帯の構築や安全保障に関する国際法文書の締結に対する政治的意欲を減退させる効果があり、核拡散のリスクを増大させるとの見解を表明した。一部の締約国は、核兵器共有および拡大抑止協定に参加している締約国に対し、国家安全保障および集団安全保障の教義における核兵器の役割を減らすための具体的な措置を講じるよう求めた。ある締約国は、関係する核兵器国締約国に対し、このような協定を放棄し、海外に配備されているすべての核兵器を自国領土に撤退させるよう求めた。」(パラ18)

  • 「一部の締約国は、核兵器負担分担協定は、関係する非核兵器国の核拡散を抑止することで、条約第1条および第2条を支持するものであると指摘した。また、これらの締約国は、このような協定は条約交渉で取り上げられ、条約第1条および第2条に完全に準拠しており、拡大抑止は平和と核不拡散に貢献していると指摘した。他の締約国は、このような協定は条約に反するとの見解を表明した。」(パラ19)

核兵器の使用・威嚇、核のレトリック

 議長要約は以下のようにいう。

「一部の締約国は、無責任な核レトリックの増加に深い懸念を表明し、地域紛争の状況を含め、核兵器使用の威嚇を非難した。また、核兵器が強制手段として使用されることにも懸念を表明した。一部の締約国は、武力による威嚇または武力の使用は国連憲章第2条第4項に反し、そのような威嚇は国際法の一般原則および国際法の規則や規制に反するとも指摘した。多くの締約国は、核兵器国に対し、非核兵器国および非核兵器地帯の締約国に対して核兵器を使用または使用の威嚇を行わないという明確な約束を行うよう求めた。一部の締約国は、そのような約束は国連憲章第51条に何ら影響を及ぼさないと指摘した。一部の締約国は、国際緊張を高め、国際平和と安全に影響を及ぼすような形で核兵器の使用または使用の威嚇に関するレトリックに訴えないよう各国に奨励した。」(パラ15)

 米英仏やEU諸国、日本などはロシアを名指しして非難している。また、ウクライナの立場からロシアを非難する共同声明が出されており(第2回会合ウクライナ発言及び作業文書41)、日本を含む51ヵ国とEUが参加している。また、アラブ・グループはイスラエルによる威嚇を非難している(第1回会合イラン発言)。他方、NAMや新アジェンダ連合(NAC)、核兵器禁止条約(TPNW)諸国、ストックホルム・イニシアチブ、アラブグループなどは、核使用・威嚇等を非難したが、特定国に言及はしていない。

核抑止の役割

 核兵器ないし核抑止の役割について、議長要約は以下のようにまとめている。

  • 「国家および地域の軍事ドクトリンにおける核兵器の役割の増大と核に関するレトリックの増加に関する懸念が提起される中、一部の締約国は、核抑止に関する議論において、認識されている安全保障上の利益よりも、新たな破壊的技術の未知の影響を含む核兵器のリスクに重点を置くというパラダイムシフトが必要であると示唆した。ある締約国は、核抑止は平和、安全、安定の目的に役立つと指摘した。別の締約国は、核兵器は侵略を抑止し戦争を防ぐという防衛目的のみに役立つべきであると指摘した。」(パラ16)

  • 「核兵器国は、過去数十年間にわたり自国の安全保障ドクトリンで核兵器に課されてきた役割を縮小する努力を概説するとともに、それらのドクトリンにおける核抑止力の継続的な役割を想起した。一部の核兵器国は、2000年の再検討会議で合意された13のステップ、および2010年の再検討会議で合意された行動計画に加えて、この点に関する取り組みの最新情報を提供した。一部の核兵器国は、抑止力に対する進化する要求と国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小する措置を講じるという目標とのバランスをとる核政策の重要性に言及した一方、他の締約国諸国は、非核兵器国の正当な安全保障上の利益に焦点を当てる必要があることを強調した。」(パラ17)

 上記のうちパラ16における「一部の締約国」による示唆は、TPNW諸国の最近の主張を反映している(第7回会合オーストリア発言)。NACも核抑止の問題を指摘している(第6回会合NAC発言)。他方、「ある締約国」「別の締約国」による見解は、核傘下国の見解を反映していると思われる。パラ17では米ロ等の見解が反映されている。

核リスクの低減

 核軍縮の具体的措置についての進展が見通せない中で、多くの国により言及されたのが核リスクの低減である。議長要約でも以下のように扱いが比較的大きい。

  • 「国際安全保障環境と核兵器使用の深刻なリスクに鑑み、一部の締約国は、強靭な核危機コミュニケーションチャンネル、ドクトリンと配備の透明性と抑制、消極的安全保証及び核軍備管理と軍縮に関する交渉の分野において、エスカレーションや不注意による誤算、誤ったコミュニケーション、誤認または事故を回避するのに役立つ措置を含む、具体的で信頼性が高く実践的な措置を求めた。同諸国は、核兵器使用に関連するリスクを緊急に緩和する手段として、核リスクの削減を求めた。多くの締約国は、配備と運用状況の削減を含むリスク削減措置は軍縮に代わるものではなく、進行中の軍縮努力と提唱を補完するものであると指摘した。」(パラ20)

  • 「核兵器国の中には、近年、核戦争防止と軍備競争回避に関する2022年の5核兵器国首脳共同声明に見られるように、この問題に関するリスク削減措置と実質的な二国間・多国間対話を追求する必要性を強調している国もある。同国らは、すべての締約国に対し、核軍縮の推進と核兵器使用のリスク削減への貢献に積極的な役割を果たすよう求めた。」(パラ21)

  • 「ある締約国は、核兵器国に対し、国家安全保障政策における核兵器の役割を縮小し、核兵器の先行使用に基づく核抑止政策を放棄し、他国に合わせた核抑止政策を控え、いかなる国も核攻撃の標的としないこと、警戒レベルを低下させること、そしていかなる国も核兵器で攻撃対象としないことを奨励した。」(パラ22)

  • 「この点に関して、一部の締約国は、国連総会決議70/33で任務を与えられた多国間核軍縮交渉を進める2016年のオープンエンド作業部会がまとめたリスク削減に関する詳細な議論と勧告を想起した。また、一部の締約国は、人工知能や攻撃的なサイバー能力などの新興技術が核リスクを増大させる可能性を軽減することを含め、リスク削減措置に関する核兵器国によるさらなる取り組みへの支持を表明した。」(パラ23)

 パラ20では、危機におけるコミュニケーションを確保することで核使用を回避するという、異なる立場の諸国に共通する見解を記述している(例えば、第17回会合での19ヵ国による核紛争リスク低減共同声明)。パラ21は米国を中心とする見解であり(前述)、パラ22は、中国による核兵器の先行不使用の提案である(後述)。パラ23は、TPNW諸国を中心とする立場(オーストリア等11カ国による作業文書16第2回会合でのカザフスタン発言)を反映している。

核兵器の先行不使用

 核兵器の先行不使用につき議長要約は以下のようにまとめている。

「中国は、核兵器の先行不使用政策へのコミットメントを再確認した。多くの締約国は、核兵器国に対し、核兵器の完全廃絶までは、先行不使用政策の形態を含むドクトリン上の制約を遵守するよう求めた。一部の締約国は、相互の核兵器先行不使用に関する条約の交渉と締結、またはこの点に関する政治的声明の発出を求めた。多くの締約国は、そのような約束は具体的な核軍縮措置に代わるものではなく、それを補完するものであると指摘した。一部の締約国は、先行不使用政策が重要な信頼醸成措置として価値があると指摘した。他の締約国は、そのような政策の検証可能性の欠如を指摘した。」(パラ26)

 今回、中国が核兵器国による核兵器先行不使用条約の交渉開始ないしは政治宣言の発出を提案する作業文書33を提出した。核兵器の先行不使用については、NAMやASEAN諸国、アラブ・グループ諸国も要求している(第1回会合NAM発言同会合ASEAN発言第2回会合アフリカ・グループ発言など)。但し、中国提案は、NPT締約国に支持を求めつつも、この議論をP5の枠組みで行うとした(同作業文書パラ8)。これに対して米国は、中国の「急速かつ不透明な核兵器増強」を指摘し、中国のとる先行不使用政策を疑問視した上で、提案された先行不使用条約について、検証を含めて実際にどのように機能するかについても懸念があるとした(第8回会合米国発言)。

核兵器の非人道性、被害者援助・環境修復

 核兵器の非人道性および被害者援助・環境修復につき議長要約は以下のようにいう。

  • 「多くの締約国は、核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の帰結に対する懸念を表明した。一部の締約国は、これを裏付ける科学的証拠が増えていることを指摘した。他の締約国は、そのような事態の発生を防ぐ責任が共有されていることを指摘した。多くの締約国は、すべての国が国際人道法を含む適用可能な国際法を常に遵守する必要があることを再確認した。多くの締約国は、核兵器の使用と実験によって引き起こされる被害者の援助と環境汚染への対処の重要性を強調し、他の締約国に『核兵器の負の遺産への対処:核兵器の使用と実験の影響を受けた加盟国への被害者援助と環境修復の提供』と題する総会決議78/240に留意するよう求めた。一部の締約国は、この問題は条約の再検討とは関係ないと考えていることを示した。」(パラ31)

  • 「一部の締約国は、人道上、環境上、経済上の帰結に関する国際会議及びこれらに関する科学的研究の増加、並びにとりわけ大量の放射線にさらされた人々の健康への影響に関する科学的研究に言及した。この文脈で、これらの締約国は、核の正義に関する議論が、2026年の再検討会議に向けた被害者援助と環境修復に関する勧告の策定にもつながるべきであると提案し、援助を提供することのできる締約国に対し、影響を受けている締約国を支援するために財政的、技術的、科学的資源を提供するよう求めた。締約国は、第二世代、第三世代、第四世代の被害者に補償を提供するための国家政策に留意した。一部の締約国は、この問題が条約の再検討に関連するとは考えていないことを示した。」(パラ32)

 核使用がもたらす壊滅的な帰結の認識については(「人道上(humanitarian)」という用語の使用の有無は別として)、TPNW諸国以外を含め多くの国に共有されていることがわかる(第1回会合でのEU発言軍縮不拡散イニシアティブ(NPDI)発言NAC発言ASEAN発言ラロトンガ条約諸国発言、第6回会合でのアフリカグループ発言ストックホルム・イニシアチブ発言及び第8回会合日本発言など)。

 他方、被害者援助・環境修復については、カザフスタン、キリバス及びマーシャル諸島等が主張し(作業文書15及び第2回会合キリバスら8カ国共同声明)、TPNW諸国も援助する道義的責任や信託基金の促進を主張したほか(第2回会合TPNW諸国共同声明)、中央アジア非核兵器地帯条約諸国(第2回会合発言)、ドイツ(第7回会合での発言原稿)が言及するにとどまっている。また、議長要約からは、このテーマについてNPT締約国間に異論が存在することが示唆される。

TPNW 

 核兵器禁止条約(TPNW)について議長要約は以下のように述べる。

  • 「多くの締約国は、核兵器禁止条約が2021年1月22日に発効し、第1回および第2回締約国会議が2022年6月21日から23日までウィーンで、また2023年11月27日から12月1日にニューヨークまで開催されたことに留意した。締約国は、第3回締約国会議が2025年3月3日から7日までニューヨークで開催されることに留意した。核兵器禁止条約の締約国または署名国でもある締約国は、核兵器の全面的廃絶における同条約の重要性を強調し、同条約が核兵器不拡散条約を補完するものであることを強調した。」(パラ33)

  • 「一部の締約国は、現在の地政学的状況では核軍縮を達成するための唯一の実行可能な手段はこの条約〔NPT〕であると指摘した。彼らは、核兵器禁止条約は核兵器廃絶に向けた極めて複雑な軍事的、政治的、技術的要請に対応していないため、この条約の軍縮目標に貢献する『効果的な措置』ではないと述べた。」(パラ34)

 TPNWへの支持はTPNW諸国を中心に言及されているが、反対論が明示されることは少なかった。公開会合の場において、核兵器国の中で明示的にTPNWへの異論を述べたのは、ロシア(第7回会合発言)とフランス(第17回会合発言)のみであった。

FMCT

 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始は、日本を含む多くの国が主張しているが、「一部の締約国は、〔FMCT〕の交渉の範囲についてさまざまな見解を表明した」(議長要約パラ35)。例えば、NAMは、新規の生産のみならず、「過去の生産と既存の備蓄をすべて除去」することを主張している(作業文書22)。米国は、CDにおける交渉を主張しつつも、非核兵器国に対する消極的安全保証に関する協定交渉と併せて行われることに言及した(第8回会合米国発言)。

 生産禁止モラトリアムも多くの国が主張し、核兵器国の中で唯一モラトリアムを宣言していない中国に対して、モラトリアムの宣言が要求されている(例えば、第6回会合EU発言)。これに対する中国の主張は、「ある締約国は、このようなモラトリアムは定義も検証も不可能であり、そのような条約を交渉する政治的意志を弱めるものであると指摘した」として議長要約に記載された(パラ36)。

CTBT

 包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進については、議長要約では5パラグラフにわたりまとめられ(パラ37〜41)、「多くの締約国は、まだ包括的核実験禁止条約を批准していない核兵器国に対し、遅滞なく批准するよう求めた」ことなどが記載された(パラ38)。

 欧州諸国を中心にロシアによるCTBT批准撤回問題を指摘する声があった(例えば、第1回会合EU発言など)。ロシアは、米国による長期にわたる未批准状況がある、CTBTの国際モニタリングシステムには参加する、米国が批准すればロシアも復帰する準備がある、と応答した(第3回会合ロシア発言)が、この問題は議長要約には反映されていない。

再検討プロセスの強化と透明性・説明責任

 昨年から開始された再検討プロセス強化の議論については、多くの国が継続を求めている。議長要約では、核軍縮に関する透明性と説明責任に関する部分(パラ45〜50)及び再検討プロセスの強化に関する部分(パラ144〜152)にわたり記載されている。

 注目されるのは、核兵器国に対して定期的に報告を求める提案である(議長要約パラ45と46)。この報告については、再検討プロセスにおいて双方向の議論を行うことも提案されている(パラ48)。また、これに市民社会が参加することも主張されている(パラ152)。実際に、来年の第3回準備委員会でこれを試行することも提案されている(パラ150)。

 核兵器国の中では、英仏がその準備があることを表明した(第7回会合英国発言及び同会合フランス発言)。もっともこれらの提案に対しては反対意見があることも事実である(議長要約パラ50)。

おわりに

 次回の第3回準備委員会は、2025年4月28日から5月9日までニューヨークにおいて開催されることとなった。議長はガーナのハロルド・アジェマン(Harold Agyeman)大使である。

 前回と同様に、今回の準備委員会もウクライナ戦争が大きな影を落としている。これにつき米欧はロシアを非難し、ロシアは強く反発している。同戦争の推移は予断を許さないが、当面はこの事実を背景に議論を進めざるを得ない。ロシアは、今回提示された議長による事実要約の改訂版(Revised Draft Factual Summary, NPT/CONF.2026/PC.II/CRP.2/Rev.1)について、「国家の国境、特定の領土や特定の物体の所有権、および国家の権限である核の物理的な安全の確保に関連する問題に関するすべての規定を本文から削除する必要がある」と反発していた(第16回会合ロシア発言)。このような主張にどう対応するかを含め、2026年にコンセンサスによる成果を生み出す努力を継続する必要がある。

 核兵器による威嚇が現実のものとなっていることを背景に、核使用のリスクをどのように低減させるかについては、立場を超えて懸念が共有されてきている。それを背景に、2022年1月の核兵器国指導者による共同声明の遵守を核兵器国に求める声がある。議長要約では次のようにいう。

「締約国は、2022年1月3日の核兵器国の指導者による共同声明を想起した。その中で、指導者らは、とりわけ、核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならないことを確認し、条約第6条を含む条約に基づく義務へのコミットメントを表明した。締約国は、核兵器国に対し、共同声明で確認された原則と核兵器の不使用の長い歴史を堅持するよう求めた。一部の締約国は、共同声明が、署名した核兵器国の一部の行動と一致しなかったことを遺憾に思うと表明した。」(パラ25)

 今回の準備委員会で核兵器国はそれぞれこの声明に言及している(例えば、第6回会合米国発言第7回会合ロシア発言及び同会合フランス発言)。だが、NPTにおいて5カ国が共同してこれを再確認する動きはない。これに関連して、9月に国連において予定されている未来サミット(Summit of the Future)では、この声明を含んだ「未来のための協定」(Pact for the Future)が起草されている。この未来サミットはこの原則を再確認する場となる可能性がある[6]

 前述のように、英仏は、次回の第3回準備委員会で報告書を提出し、対話を進める姿勢を示している。市民社会がこの機会の窓をどのように広げることができるかも課題である。

山田寿則(明治大学法学部兼任講師/公益財団法人政治経済研究所主任研究員)


[1] Report of the Preparatory Committee on its second session, NPT/CONF.2026/PC.II/7.

[2] 詳しくは、「2023 NPTレポート6 ― 第1回準備委員会の『成果』」を参照。

[3] 例えば、今回の議長要約の原案は “Draft Factual Summary”(NPT/CONF.2026/PC.II/CRP.2) 及び“Revised Draft Factual Summary”(NPT/CONF.2026/PC.II/CRP.2/Rev.1)とされている。

[4] Reflections by the Chair of the first session of the Preparatory Committee on potential areas for focused discussion at the second session of the Preparatory Committee for the 2026 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons, NPT/CONF.2026/PC.I/WP.38.

[5] ここで取り上げていない核軍縮に関係する事項としては、非核兵器国に対する消極的安全保証、非核兵器地帯、核軍縮の検証、軍縮不拡散教育、ジェンダーなどがある。なおジェンダーに関しては、徳田悠希「【2024NPTレポート】NPT第2回準備委員会におけるジェンダーに関する議論の動向と課題」を参照されたい。

[6] 未来サミットについては、国連公式サイトを参照されたい。未来のための協定の最新草案(Revision 3)ではAction 26において核兵器のない世界を達成する努力を前進させることが盛り込まれている。

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