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2025年03月01日

【2025TPNWレポート】核兵器禁止条約第3回締約国会議の展望

はじめに

 2025年3月3日から7日まで核兵器禁止条約(TPNW)の第3回締約国会議(3MSP)がニューヨークの国連本部で開催される。

 TPNWは2021年に発効し、第1回締約国会議(1MSP)では、宣言、行動計画及び関連する決定が採択され、条約運用の基本的な方向が明確となった。第2回会議(2MSP)では宣言と関連決定が採択され、1MSPで採択された行動計画のさらなる推進が図られている。

 TPNW実施の一つの特徴は、会議と会議の間(会期間)において非公式の作業部会(WG)やファシリテーター等が設置・任命され、作業が継続している点である。MSPでの議論は、この非公式な作業の成果をもとに行われ、次の会期間での取り組みが決定される。

 なお、TPNWでは、発効5年後(2026年)に「検討会議」が開催されることとなっている(その後は6年ごとの開催)。この検討会議は「この条約の運用及びこの条約の目的の達成についての進展を検討するため」に開催される(条約8条4)。今回の3MSPではこの最初の検討会議に向けて、どのような取り組みを進めるかを決める場でもある。

何が議論されるのか?

 すでに公表されている暫定アジェンダ(TPNW/MSP/2025/1)とタイムテーブル(TPNW/MSP/2025/INF/3)に沿って、手続事項以外の予定されているおもな議題をみておこう。

ハイレベルセッションとテーマ別討論(3月3日〜4日)

 まず、初日(3月3日)は、国連高官ならびに各国首脳級の参加者による演説(ハイレベルセッション)ののち、午後と2日目(3月4日)の午前にかけてテーマ別討論が行われる。今回は「核紛争が人類にもたらすリスクとその壊滅的な人道上の帰結」と題されており、核兵器使用のリスクに焦点をあてた2つのパネルディスカッションが行われる。それぞれにつき締約国・オブザーバーとの双方向の議論が予定されている。

 核使用リスクの問題は、TPNWのみならず、核不拡散条約(NPT)の会合を含め様々な場で議論されているが、3MSPにおけるこのテーマ設定は、後述する「安全保障上の懸念」に関する協議プロセスの存在を背景にしたものと考えられ、このプロセスで得られた知見をめぐる議論が予想される。また、TPNWの会期間構造として設置されている科学諮問グループも「核兵器、核兵器のリスク、核兵器の人道上の帰結、核軍縮および関連問題に関する現状と展開に関する科学諮問グループの2023年報告書のアップデート」と題する作業文書(TPNW/MSP/2025/WP.5)を提出している。

一般討論、申告、普遍化(3月4日〜5日)

 2日目の午後から3日目(3月5日)の午後までは、一般討論となる。MSPでは、一般討論に限らず、締約国だけでなくオブザーバ国やNGOも発言する機会が与えられる。特に核兵器に依存する国が、どれだけオブザーバー参加するか、また、どのような発言を行うかが注目される。

 これに続き、条約第2条の申告問題を審議したのちに、普遍化(第12条)の問題につき議論することとなる。これについては非公式WGの報告書が提出されている(TPNW/MSP/2025/3)。同報告書では、会期間における同WGによる取り組みが報告されるとともに、同WGの共同議長(南アとウルグアイ)が、普遍化に関する取り組みについて自発的な報告を促しており、そのための書式を公表している。

4条問題、被害者援助・環境修復、条約の国内的実施、会期間構造(3月6日)

 4日目(3月6日)には、まず、核兵器の廃絶に向けた措置を規定した4条の実施に関する問題が議論される。これに関する非公式WGの報告書(TPNW/MSP/2025/2)では、4条の実施については、「権限のある国際的な当局」の指定ないし設置や同条実施の手順の開発が課題となるが、これは複数年にわたる作業、つまり長期的作業となるとの見通しを示唆している。しかしながら、不可逆的な核軍縮の検証は可能であり、TPNW締約国代表者が核兵器の機微な情報にアクセスすることも不要であると結論づけた。また、効果的な核軍縮の検証に重要となる基準につき述べた上で、これはTPNWだけでなく、すべての核軍備管理、不拡散、軍縮に適用されてきた基準であり、それゆえ、TPNW締約国は、核軍縮の検証に向けて進行中のさまざまな国際プロセスに積極的に参加・関与すべきことを奨励している。

 ついで、被害者援助・環境修復に関する問題(第6条と第7条の問題)が議論される。これに関する非公式WGからも報告書(TPNW/MSP/2025/4)が提出されているが、3MSPにおける注目議題でもある。

 同報告書は、国際信託基金の設置に焦点を絞っている。まず、核使用・実験により影響を受けている多くの地域社会はその被害に苦しんでいることを指摘し、基金設置の必要性を説いた上で、基金に期待される役割として、調査を含めた被害者に対する人道的援助の提供、環境汚染の評価・対処についての支援、締約国による6条・7条義務の履行の支援、TPNW普遍化の促進を挙げている。次いで、基金の実現可能性を論じ、会期間での議論を踏まえ、基金の基本的な側面について、見解の相違があることを指摘する。例えば、被害地域社会等の関与のあり方や非締約国や他のアクターからの拠出を認めるかという点である。報告書は、これらの点を指摘し、次の会期間でのさらなる議論の必要性を指摘する。そのうえで、次のような基金に関する指導原則を提示している。すなわち(a)被害者のニーズと優先順位に応じるべきこと(需要主導性)、(b)拠出の任意性、(c)包摂性とパートナーシップ、(d)基金の活動は締約国に対して説明責任を負い、透明であること、(e)条約目標への誠実性、(f)持続可能性、である。この他、ジェンダーの視点などへの言及がある。最後に、次回の検討会議までに議論を進め、可能であれば国際信託基金を設置することを目的とした報告書を同会議に提出すること等を定める決定案を勧告している。

 3MSPでは、この報告書で提示された指針と基金設置をめぐる相違点について、どのような議論が行われるかが注目される。2023年と2024年の国連総会では、被害者援助・環境修復に関する決議が採択されるなど、TPNW以外の場においてもこの問題は議論されている。このような動きとどのように関係するかという点も、TPNWの普遍化という課題にも絡んで整理して議論することが必要となろう。

 さらに、4日目は条約の国内的実施(第5条)の問題と条約の効果的実施のための科学・技術上の助言の問題も議論される。後者については、科学諮問グループがその活動について年次報告書(TPNW/MSP/2025/8)を提出している。

 加えて、会期間構造の問題も審議されることとなっており、3MSPの議長が作業文書(TPNW/MSP/2025/WP.2)を提出している。同文書では、概ね現行の会期間構造を継続・延長することを提案しているが、安全保障上の協議プロセスのコーディネーターについては延長せず、代わりに普遍化に関するWGの共同議長を従来の2カ国から3カ国に増やすことを提案している。

補完性、ジェンダー、安全保障上の懸念、最終文書(3月7日)

 5日目最終日(3月7日)には、TPNWと既存の軍縮・不拡散体制との補完性の問題、条約のジェンダー関連規定の実施問題及び安全保障上の懸念に関する協議プロセスの問題が議論される。

 まず、補完性の問題についてはこれを担当する非公式ファシリテーター(アイルランドとタイ)の報告書(TPNW/MSP/2025/6)が出されており、会期間での活動が報告されると共に、そこで得られた知見がまとめられ、今後の取り組みについての勧告が提示されている。補完性を論じる事項的範囲として軍縮・不拡散のみならず、人権、ジェンダー、環境、被害者援助といった側面にも着目すべきことを主張している点が注目される。

 次に、ジェンダーの問題についても、ジェンダーフォーカルポイント(メキシコ)による報告書(TPNW/MSP/2025/5)が提出されており、その活動報告がなされるとともに、この問題の分析と結論が示され、3MSPに対する勧告が提示されている。

 さらに、安全保障上の懸念に関しても、コーディネーター(オーストリア)による報告書(TPNW/MSP/2025/7)が提出されている。このプロセスは核抑止に基づく安全保障パラダイムに異議申し立てすることを念頭に前回(2MSP)から開始されたものであり、3MSPで注目される議題の一つである。

この報告書の要約(Executive Summary)に従えば、ポイントは、以下のようである。

  • 核兵器の脅威を排除することによりこの脅威に対応することは、すべての政府にとって主要な責任であり、正当な懸念であり、国家の安全保障上の利益の完全に「現実的な」追求である。
  • 核兵器の使用は、いかなる場合も人道上および安全保障上の壊滅的な結果をもたらす。
  • 核兵器が、それを保有または依存する国に安全と安定を提供する「不可欠な」手段としての役割を担っていることは、核兵器禁止条約(TPNW)締約国の安全に対する直接的かつ重大な脅威であり、現在この脅威は高まっており、核兵器が安全保障上不可欠だという主張は、核拡散を誘発し、世界的な不拡散体制を弱体化させ、安全上のリスクをさらに高めている。
  • 核抑止は失敗する可能性があり、核武装国がエスカレーションを制御し、誤算や事故を回避する能力は不確実で、核抑止力が大規模戦争・核紛争を防いできたことを決定的に証明することも不可能である。これからも核抑止が想定通りに機能する確実性はない。
  • 核抑止は核使用の威嚇に依存しており、TPNW締約国にとってはこのリスクと帰結は同じである。核武装国のリスク削減措置は核抑止の改良に重点があるだけである。不安定化する世界の安全保障環境では、核抑止からのパラダイムシフトが緊急に必要である。
  • 核抑止と核使用シナリオは抽象的であり、法的評価を含め現実の影響を具体的にどの程度考慮しているかの情報はほとんど明らかでない。核武装国は、人道上・環境上の影響に関して不透明で、認識してきていない。
  • 核兵器政策の決定は科学的事実に基づくべきであり、新たな研究によれば、核兵器のリスクは、これまで知られているよりも深刻である。
  • TPNW締約国はNPT等と共に、すべてにとって安全の損なわれない核兵器のない世界という目標を共有している。だが、危険で投機的な核抑止システムへの永続的な依存によって、TPNW締約国の安全は積極的に損なわれており、これは、すべての国に正当性も公正さもなくリスクをおわしめるものであり、人類の未来を脅かしている。

 同報告書では、これらの点をより詳細に論じたうえで、TPNW支持国はこういったメッセージを対外的に発信すること、その場として様々な場(国際機関、地域機関、専門機関、国連安保理・総会など)を活用することを勧告するとともに、核兵器依存国との関係で、情報開示を求め、リスク低減に関する議論を進めること等を勧告している。

 このような主張は、会期間の非公式協議プロセスで行われてきたことの集大成と言えるが、締約国間で広く共有されるかどうか、また今後、対外的に一丸となってこのような取り組みを推し進めることになるかどうか、議論の行方が注目される。なお、この問題は、前述したとおり、初日・2日目に実施されるテーマ別討論の背景ともなっている。

 以上のような議論を踏まえて、最後に次回会議(検討会議)に関わる諸事項が決定されたのち、最終文書(関連する決定、宣言、最終報告書)の採択が予定されている。

おわりに

 現在、TPNWの締約国は73カ国(批准が69、加入が4)であり、署名国は94カ国である。署名済みで未批准国は25カ国なので、98カ国がTPNWと何らかの法的な関わりを有している。TPNW支持国が、核兵器国を含む核依存国に比して多数派となっていることは事実だ。このTPNWのMSPに核依存国のオブザーバー参加を含め、どのような国がどれだけ集うかは、一つの注目点だろう。

 だが、TPNWのMSPは、「条約の適用又は実施に関する問題」だけでなく、「核軍縮のための更なる措置」について検討し、必要な場合には決定する会議とされている(条約8条1)。4条問題や被害者援助・環境修復の問題などは前者に該当し、安全保障上の懸念に関する問題は後者にあたると言える。もちろん、この両者は截然と区別されるものではなく、密接なつながりがある。締約国に対してすべての国による条約参加を目標とした行動をとることを義務付ける12条の普遍性の規定とウィーン行動計画における普遍化の解釈(署名・批准の増加だけでなく、条約の基本的価値の促進も普遍化と解する)は、両者を媒介する機能を持っているとも言える。

 安全保障上の懸念の議論にみられるように、MSPは、TPNWの影響力をTPNWの外へどのように及ぼすかを議論する場ともなってきている。

 2026年にはTPNWの検討会議が予定されているが、NPT再検討会議も予定されている。来年を見据えてどのような議論がなされるか、注目しておきたい。

山田寿則(公益財団法人政治経済研究所主任研究員/明治大学兼任講師)

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