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2022年08月26日

NPTレポート⑦:クリスチャン キリバス代表団アドバイザーに聞く

第10回核不拡散(NPT)条約再検討会議も残り数日となりました。今回は、キリバス政府代表団で核兵器禁止条約に関するアドバイザーを務めているクリスチャン・チョバンヌ(Christian Ciobanu)核時代平和財団(Nuclear Age Peace Foundation)コーディネーターにお話を伺いました。(聞き手:浅野英男)

浅野:22日の本会議においてキリバスの大使がNPT脱退の可能性を示唆するような発言をしましたが、その背景や意図について伺えますか?

C:あれは、再検討会議の限られた時間の中で堂々巡りの議論が続き、痺れを切らした大臣から出た発言でした。彼には2つの意図があったと思います。1つ目は、合意を目指す姿勢が見られない中で、核兵器国の注意を引きつけること。2つ目は、彼の家族や友人を含め、多くの方が太平洋地での核実験による被ばくで亡くなったという事実を強調することだったと思います。彼が声をあげたことで、その場にいた全員がはっとさせられたように感じました。NPT脱退は大胆な発言ですが、あくまで自らの思いを政治的に表現したのものであったと思います。

浅野:最終文書採択に向けた交渉の現状と期待をお聞かせください。特に軍縮分野では、最終文書に核の非人道性や核兵器禁止条約を認める内容が入ることが期待されていますね。

C:最終文書については、今夜(24日)を目安に新たな最終文書案(第二案)が出る見込みです。軍縮という点については、十分な内容にはならないのではないかと予想しています。現在、最終文書の中に核兵器使用の人道的影響に関する文言およびパラグラフを残すよう、かなり強く要求がされていると思います。ただし、核兵器の人道的影響や核兵器禁止条約については、事実として認めるという中立的な言い回しに落ち着きそうな印象です。また、NPTと核兵器禁止条約との補完性の言及を(最終文書に)入れようとすると、間違いなく揉めてしまうでしょう。
 もう一点、キリバス代表団のアドバイザーである私にとって非常に重要なことは、パラグラフ192を確認することだと考えています。このパラグラフは、核兵器の人道的な影響について多くの人により深く知ってもらうため、ヒバクシャとの交流を促す内容のものです。このパラグラフを残すことはもちろんですが、これを、現在組み込まれている最終文書案の「分野を横断する問題領域(cross-cutting section)」というセクションから、核軍縮に関するNPT第6条のセクションに移動させるべきだと考えています。最近発表されたキリバスやカザフスタンによる共同声明にも同様の内容が含まれていましたので、その文言を残すことは改めて重要であると思います。被害者支援についてはもっと言及して欲しいところですが、このパラグラフがあるだけでも一歩前進です。(翌日(25日)に発表された最終文書第2案において、被害者支援および環境修復に言及したパラグラフが追記されました。)

浅野:核兵器禁止条約とNPTの補完性についてはどうお考えですか?

C:NPT6条の核軍縮義務と難航している核軍縮の現状とのギャップを埋めるという点において、核兵器禁止条約はNPTを補完すると考えています。補完性を認めることで非人道的な問題を訴えるだけでなく、核被害者や環境修復の問題にも取り組むことができます。キリバスとカザフスタンは、核兵器禁止条約の被害者支援および環境修復に関するワーキング・グループの共同ファシリテーターを務めているため、非常に重要な役割を担っていることは確かです。この2つの条約(核兵器禁止条約とNPT)は相互に補完し合うものであり、核兵器禁止条約が(第1回締約国会議で採択された)行動計画とともに機能すれば、核実験の被害者やその影響を受けた国々を援助することができると認識しています。特に、秋から始まる第2回締約国会議の時期にかけては、この点について懸命に取り組んでいくつもりです。
 一方で、NPTに関しては再検討会議のプロセスをより透明で、より包摂的なものにする必要があると思います。核兵器国およびその同盟国と非核兵器国との間には非常に大きな溝がありますから、それを埋める方法を見つけなければなりません。

浅野:再検討会議プロセスの透明性について、もう少しお話いただけますか?

C:実は、現在の交渉プロセスにおいては非公式な協議や二国間での協議で多くのことが議論されています。太平洋諸国が自分たちの意見を表明することが非常に難しく、透明性が確保されていないことが不満です。希望は捨てたくないのですが、恐らく最終文書案は充分な内容にはならず、骨抜きなものになりそうな気がしています。

浅野:軍縮以外の点についても交渉の現状や期待について伺えますか?

C:私は、再検討会議の最終文書が消極的安全保証に言及することを強く望んでいます。また、核共有の問題についても言及することが重要だと思います。現段階での最終文書案では核共有について触れられていません。核兵器国は明らかに(核兵器の役割低減に関する)パラグラフを入れることも望んでいません。私たちにとって重要なのは、このパラグラフを残すこと、新たな非核兵器地帯の設置や核兵器国による既存の非核兵器地帯(キリバスも加盟しているラロトンガ条約など)の議定書への署名・批准といった地域的な問題を進めることなのです。

浅野:非核兵器国と核兵器国との間の溝が大きくなっているように思えますが、それを埋めるためにはどのようなアプローチが求められると思いますか?

C:私たちは既に、そのような試みを目の当たりにしています。例えば、核兵器禁止条約の第1回締約国会議に核兵器国や同盟国を招待し、オランダやオーストラリア、ドイツ、スウェーデンなどが参加しました。このような参加を後押ししたのは、各国の外務省ではなく、草の根の市民の力でした。核兵器国との溝を埋めるためには、市民が国会議員に強く働きかけることが重要だと思います。日本にはKNOW NUKES TOKYOや議員ウォッチという素晴らしい団体があるではないですか。これらの団体は国会議員に働きかけ、さらに国会議員たちから外務省へと働きかけをさせようと懸命に活動しています。このような流れを継続し、国会議員に働きかけていくことはとても重要なことであると思います。

浅野:今回のNPT再検討会議において、核兵器国と非核兵器国の橋渡しをする試みはありますか?

C:現在行われている非公式の協議において、まさに橋渡しが行われていると思います。メキシコやオーストリア、ニュージーランド、カザフスタンなどは、核兵器国との対話を強く求めています。私にはそれらの協議の結果がまだ共有されていないので、そこで実際にどのようなやり取りがあったのかは分かりません。しかし、核兵器国は核兵器禁止条約の存在という現実を直視しなければならないと思います。いずれにしろ、このような対話を私たちは行っているのです。これはとても重要なことです。アイルランドも鍵となる役割を担っています。同盟国に核軍縮を働きかける中間的なステップとして、NPTの枠組みの中で核被害の問題を取り上げることがとても重要だと思います。同盟国を含めた多くの国は、そのような枠組みに参加し、NPTで核被害者について議論することを快く思っています。

浅野:核リスクの低減や核軍縮についても少し意見が割れているような印象を受けます。両者の関係性についてどのようにお考えですか?

C:核リスク低減は暫定な措置として、常に軍縮という目標を念頭に置いた上で捉える必要があると思います。核兵器国は、自らがリスク低減に取り組んでいるとさえ言えば大丈夫であると考えている。しかし彼らは、実際に核兵器を削減し、廃絶することに取り組まなければならない。さらに一歩先へと踏み出さなければならないのです。多くの核兵器国はそれを望んでいません。核リスクの低減を主張することはできても、核兵器の廃絶にはとても抵抗しているのです。

浅野:ジェンダー平等についても意見が対立していますが、その点についてはどうお考えですか?

C:ジェンダー平等という点については、主要委員会Iにおける議論でコスタリカのイニシアティブに賛同しました。ジェンダーの問題を臆せずに取り上げることは重要だと思います。他のいくつかの国もジェンダーに関する視点を変えて、ジェンダー平等の文言を受け入れてほしいと思います。いずれにしろ、ジェンダー平等への言及はとても重要であると思います。

浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会 事務局)

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