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2022年08月27日

NPTレポート⑧:最終文書 合意できず(速報)

 8月1日から開催されてきた第10回核不拡散(NPT)再検討会議は、最終日となる26日に全体会合(plenary meeting)が行われ、ロシアの反対によって最終文書の採択はできないまま、閉会しました。

 22日午前をもって全ての主要委員会(Main Committee)および補助組織(Subsidiary Body)における議論が終了し、同日午後の本会議(Plenary Committee)において各委員会から提出された議長ワーキングペーパーが報告されました。それらを踏まえて作成された最終文書草案をもとに23-26日の4日間、非公開の本会議および非公式協議において交渉が進められました。そして26日、4時間30分の開始延長の末、19時30分頃から本会議が行われましたが、最終文書の採択はできませんでした。

第10回NPT再検討会議最終週スケジュール

~22日 午前主要委員会I, II, III・補助組織I, II, IIIによる議論終了
22日 午後本会議
23~26日 非公開での交渉
26日最終文書、採択できず

 最終文書案には、核兵器使用の非人道性に対する深い憂慮や1995年の「核兵器廃絶の明確な約束」を含む核軍縮へ向けた過去の合意の履行、核兵器禁止条約とその第1回締約国会議に対する認識、核被害者の支援および汚染地域の環境修復への言及などが盛り込まれていましたが、ロシアによる反対を受け、採択には至りませんでした。

 唯一反対を示したロシアは、最終文書の中で5つのパラグラフに同意できないと語り、意見の対立が多く見られた同文書に対しては同国だけでない他の多くの国も反対しているのだと説明。最終文書は、各国の立場のバランスを欠いていると主張しました。最終文書が採択されないと決まった後の発言においてロシアは、締約国間の立場の埋まらない溝、対立する意見を聞き入れない姿勢、新たな提案をさらに時間をかけて検討する必要性、ウクライナ侵攻に関する政治的な主張の存在、文書作成プロセスにおける不平等といった反対理由を並べました。特に、ウクライナの問題について文書の一部が「政治的」で、今回の会議は「一方的」であると批判しました。

 その他、最終文書の不採択を受けた各国の発言として、EUやフランス、アメリカ、オーストリアなどは、ロシアによるウクライナ侵攻やザポリージャ原発の問題に対する非難の声をあげました。フランスは、日本やアメリカなどを含む国々を代表し、ロシアによる違法なウクライナ侵攻が国際的な平和と安全、さらにNPTの正当性を損なっていると批判。ロシアによる核の威嚇や核兵器の警戒体制引き上げは、1月に表明された核兵器国による共同声明に反するとも指摘しました。アメリカはザポリージャ原発の問題も、今回のNPT再検討会議の決裂もロシアのせいであると非難しました。

 また、アメリカは、AUKUSにおける原子力潜水艦取得に向けた技術移転について、その安全性とIAEAとの協力についても強調しました。

 メキシコは、核兵器禁止条約締約国および署名国を代表して発言しました。同国は条約推進派がNPTにコミットし、その義務を履行していると強調。NPT6条との補完性や核の非人道性、核抑止への批判などを述べ、核兵器なき世界へと向かう決意を示しました。メキシコに加えて、コスタリカや南アフリカ、ニュージーランド、オーストリア、キューバなどの国々も、核の非人道性や核兵器禁止条約の重要性を訴えました。

 非同盟諸国(NAM)を代表したインドネシアや新アジェンダ連合(NAC)を代表したエジプト、中国、ニュージーランドなどは、会議の決裂に苛立ちや落胆の意を示しました。その上でインドネシアは、NAMの提案が最終文書案に含まれていなかったことを指摘し、核軍縮が進まない現状を憂慮しました。アフリカ連合を代表したナイジェリアは、過去のNPT再検討会議における核軍縮の合意の完全な履行を求めました。ニュージーランドは、最終文書案で提示されていた内容が核軍縮の成果に乏しいものであったことを指摘し、軍縮に向けたさらなる前進を訴えました。

 中国は、NPTが機能しておらず、共通の安全保障(common security)および真の国際主義(genuine internationalism)などが必要であると語りました。また、NPTをグローバルな核不拡散の礎石として支持する用意があると述べました。

 イランは、最終文書案において核軍縮や消極的安全保証について様々な条件が設けられていたことを残念に思うと発言するとともに、中東に関する言及も不十分であったと指摘しました。

 ウクライナは、最終文書案に誰も満足してはいなかったが、それに同意する準備はできていた。しかし、ロシアにはNPT体制を支持する意思がないと語りました。また、自国の原子力発電所の危険性を訴えつつ、ウクライナに対する各国の支持に感謝も述べました。発言後には、会場に残っていた参加者から拍手が送られました。

浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会 事務局)
   倉光静都香(ANT-Hiroshima インターン)

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