日本決議案に対する被爆者・若者のコメント
本年の国連総会第一委員会において、日本政府は米国などとともに核兵器廃絶決議案(A/C.1/77/L.61)を共同提出した。核兵器廃絶日本NGO連絡会は、先にその内容に対する声明を発表したが、今回は提出された決議案に対する被爆者と若者の声を紹介する。
田中熙巳(日本被団協 共同代表委員)
日本国の決議案が採択された。賛成は139か国で、昨年より13か国少なくなっている。アメリカや英国などを含む西欧諸国は賛成しているが、中国と北朝鮮、ロシアは昨年同様反対しており、昨年棄権した南アフリカが反対に回っている。南アフリカとマレーシアは、採決の前に反対や不満の意見を述べている。今日もなお混沌としているロシアとウクライナの戦況の中で、唯一の戦争被爆国である日本の役割への期待に対する失望があったのかもしれない。
今年の日本決議が前年と大きく異なるところは、昨年は全く無視した核兵器禁止条約の存在を認めているところである。しかしそれは、積極的な関心を示したことを意味しない。第10回NPT再検討会議の最終文書案で認められていた核兵器禁止条約の位置づけに、やむなく従わざるをえなかったのにすぎない。
私は、原爆被爆者として、唯一の戦争被爆国を標榜し、原爆被害の壊滅的、非人道的真実を世界の中でもっともよく知っているはずの日本国政府が、核兵器の使用の禁止と廃絶の実現に向けて世界の政府の先頭に立つべきだと、日本国の安全保障政策、外交方針を根底から変換することを求めてきた。
今日、核兵器の壊滅的で非人道的な被害の真実は、被爆者たちの証言により明々白々になっている。核戦争のない世界の実現は諸国民の強い願いとなり、運動となって、核兵器禁止条約が制定され、発効した。
日本政府は、戦争で利益を得る集団のための安全保障、核戦略に身を寄せるのでなく、人間の生命と生活の安全と安心のための政策に大転換し、核兵器の速やかな廃絶を目指す国連決議を提案してほしい。せめて、先制核攻撃の不行使と消極的安全保障の宣言ぐらいは、核兵器保有国に求めてほしい。
遠藤あかり
日本政府は、1994年以来毎年「核兵器のない世界」の実現に向けた道筋を示す核兵器廃絶決議案を提出している[1]。10月6日、核兵器廃絶日本NGO連絡会は外務省との意見交換会で、本年の決議案に関する要請書を提出した。この意見交換会に参加した伊藤茂樹・軍縮科学部審議官は、日本が提出する核兵器廃絶国連決議案について、「多くの国から賛同を得られるように努力する」と回答した。10月31日に行われた採択の結果、賛成139、反対6、棄権31と採択数では圧倒的賛成を得たことから、外務省の努力が実を結んだようにみえる。しかしながら、その決議案内容と各国の対応を注意深く見なければならないと思う。
この決議案には、核兵器禁止条約(TPNW)の存在、TPNWの締約国会議が開催されたことを「認識する」との文言がはいった。同条約に強い反対を示している米国が、決議案の共同提案国に加わった。これは、少なくとも「核兵器の開発・実験・生産・製造・保有・貯蔵、使用または威嚇の禁止(同条約第1条)」[2]が規定されたTPNWが存在する事実を、米国は否定することはしないことを国際社会に示すものであり、それには一定の意義があると捉えている。しかしながら、被害者支援など条約の内容に踏み込まなかったことから、TPNW締約国から決議案に対し批判的な態度がみられることは承知のとおりである。TPNWを推進する国と日本が提出した決議案の間には、距離があると言わざるを得ない。
日本政府に与えられた課題は、TPNW反対国や日本と同じように核の傘にある国とTPNW締約国を結び、どのように核兵器のない世界を目指して連携を図っていくかである。この決議案を基にして、核保有国および核の傘にある国との対話、TPNW締約国との意見交換の場を持つことが求められる。日本は、12月に広島で行われる国際賢人会議や明年5月のG7ヒロシマサミットの開催を控えている。今回の決議案の内容を踏まえた日本政府の具体的な対応に注目したい。私たち若い世代は、政府の対応に着目しつつ、市民社会が協力できることは何であるかという点に関心を持っている。各国政府の連携を後押しできるよう、市民社会の国際的な繋がりをさらに広げていきたいと思う。
[1] 外務省「核兵器廃絶決議案」https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100414228.pdf
[2] 日本反核法律家協会(JALANA)による2017年7月20日現在暫定訳 https://www.hankaku-j.org/data/01/170720.pdf