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2022年06月21日

核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議に参加して

はじめに

 2022年6月20日、オーストリア政府主催による「核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議」が、80カ国の政府、国際機関、市民社会等の約800名が集ってウィーンの国連本部に隣接するオーストリアセンターウィーンにおいて開催されました。核兵器の人道上の影響とリスクに関して、新たな研究の結果が報告され、これに基づき参加者が議論しました。

 本稿では、この会議に参加した筆者が、あくまでも筆者としての視点から内容を紹介し、最後に若干の考察を述べたいと思います。

オープニング

 冒頭のオープニングでは、開催国のシャレンベルク外相(ビデオ)、中満国連事務次長(軍縮問題担当)、エルバラダイIAEA名誉事務局長が、いずれも核兵器のない世界を強く希求するスピーチを行いました。

被爆証言

 続く被爆証言では、木戸季市さん(日本被団協事務局長)が自身の体験を通じて核兵器の非人道性を訴え、核兵器も戦争もない世界を求める被爆者の強い思いを語りました。続いて若者世代の証言として、中村涼香さん(Know Nukes Tokyo)とダニティ・ローコンさん(MISA4ThePacific)が演壇に。中村さんは、祖母の被爆体験を語るとともに、日本の締約国会合不参加を残念だとしつつ、被爆3世としての自身の役割と決意を語りました。ローコンさんも、マーシャル諸島での核実験被害を語り、核兵器禁止条約への支持を訴えました。

 その後は、3つのセッションが続きました。いずれも、専門家によるプレゼンとパネルディスカッション、会場からの質疑応答という形式で進められました。2014年の前回会議と異なり、出席者による意見表明のオンパレードということはなく、プレゼン内容に即した質問が会場から提起され、パネリストが答える形式でした。以下、専門家によるプレゼン内容を中心に紹介します。

第1セッション

 第1セッションでは、核兵器のもたらす人道上の帰結とリスクが確認されました。赤十字国際委員会のドレージ法務部長が、広島・長崎での救護の歴史を通して核爆発直後の人道援助の不可能性を語り、国連軍縮研究所のレヴィル博士が、核爆発時の国連の人道援助活動における課題を検討し、核爆発への効果的対処能力を信頼することは無知による傲慢だと指摘しました。英国国際問題研究所のルイス博士は、核兵器が誤使用されたかもしれない数々の事例を紹介し、核の不使用は幸運だったに過ぎないとの見解を示しました。核廃棄物政策の専門家オルソン女史は、放射線は、少年・男性よりも少女・女性に対してより有害であることをデータに基づき詳述しました。これらのプレゼンに続き、中満事務次長とノルウェーの元外交官コングスタード氏を交えたパネルディスカッションと会場からの質疑応答が行われました。

第2セッション

 J・C・ポラニー博士による(1986年ノーベル化学賞)「われらの共通の未来を守るための軍縮の役割についての一科学者の考察」と題する記念講演に続く、第2セッションでは、核兵器がもたらす影響について新たな知見が提示されました。まず、クッツ主任研究員(ハンブルグ大学平和研究安全保障政策研究所)からは、広島・長崎型よりも低出力の核兵器でも、壊滅的な直接的効果や未知の社会的・心理的なグローバルな効果がもたらされ、エスカレーションにつながる可能性があるのだから、「小型核兵器」などは存在しないことが報告されました。次に、ミルズ博士(米国立大気研究センター)からは、核戦争がグローバルな気候とオゾン層の喪失に与える影響が報告され、印パによる地域核戦争では気温が小氷河期(14世紀半〜19世紀半)を下回りこととなり、米露間の核戦争では、数年間は平均気温が0度を下回り農業が不可能となる「核の冬」が生じることが指摘されました。さらに、キム博士(ベルゲン大学生物科学部)からは、地域核戦争であってもグローバルな食料生産と供給システムを破壊することが報告されました。加えて、核実験の影響に関する研究成果も報告されました。フィリップ博士(プリンストン大科学地球安全保障プログラム)による報告では、仏領ポリネシアでの調査に基づき、過去の核実験の影響は従来理解されていたものよりも広範であることが指摘されました。また、カセノバ博士(ニューヨーク州立大学)による報告では、カザフスタンでのソ連の核実験の影響が取り上げられ、ソ連時代の対応措置と現在のカザフスタンによる措置の不十分さと課題とが指摘されました。

第3セッション

 第3セッションでは、核兵器のリスクや使用の威嚇、核抑止がテーマとなりました。クリステンセン氏(米科学者連盟核情報プロジェクト)は、核の競争とリスクが拡大しており、核のレトリックが協働的なものから戦闘的なものへと変化していること、核兵器の価値・役割を再評価する傾向のもと核戦略・ドクトリンが更新されていること、核軍備の近代化・強靱化が先端的通常兵器の発達と相まって、軍事衝突のリスクが高まっており、核兵器使用の新たな可能性があることを指摘しました。エレスト上席研究員(ストックホルム国際平和研究所)は、新たな科学技術の進展で、戦略的安定性など従来の概念が影響を受けており、核抑止の脆弱性が増していることを指摘し、対話の必要性を論じました。キンボール氏(米軍備管理協会)は、ウクライナ戦争で核リスクが拡大していることを指摘し、核兵器は、核武装国による侵略を促し、核武装国による戦争はずっと危険なものになると主張。ウクライナ戦争によって米露間の戦略安定対話と新START後継問題の議論は閉ざされており、両国間の核軍備の法的上限がなくなってしまえば、核軍拡競争のリスクが高まると論じました。リソフスキ研究員(アジア太平洋リーダーシップネットワーク)は、長崎大学核兵器廃絶研究センター等による共同研究プロジェクトの成果に基づき、北東アジアにおける核使用のリスクにつき報告しました。この研究は、北東アジアで核使用が生じるさまざまなシナリオとそれぞれの被害想定を算出し、それぞれについて核使用の可能性を低減する措置を検討するものです。最後に、ミアン博士(プリンストン大学)が、「私たちが知っていること、知らないこと、知りたいこと、知ることができないこと」と題して報告し、印パにおける核危機の実情に触れながら、私たち一人ひとりが核兵器と核抑止の問題をどう捉え、考え、何を信じるかについて問題を提起し、深く考えさせる、極めて示唆深いプレゼンを行いました。

議長サマリー

 朝9時45分から夕方の6時すぎまで続いた会議の締めくくりとして、「議長サマリー」が発表されました。なお、これは、会議参加者の合意事項ではなく、主催国たるオーストリアの立場での、議論のまとめと認識・評価を示したものです。

おわりに

 今回の会議は、核兵器の人道上の影響に関する会議としては、2013年のオスロ、2014年のナジャリット、ウィーンに続く4回目の会議であり、オーストリア政府主催のものとしては2回目の会議となりました。いずれも、核兵器の人道上の影響について、事実に基づき検討し、認識を深めるという点では、共通していますが、従来の会議と今回の会議との最大の違いは、核兵器禁止条約(TPNW)の成立の有無です。例えば、2014年の会議では、TPNWという条約の必要性に結びつく議論として、いわゆる核兵器の禁止と廃絶に向けた「法的ギャップ」の存在を確認することがテーマとして設定されていました。今回の会議では、従来議論されてきた核爆発のもたらす影響の問題に加えて、一つには、核使用・実験によりもたらされた被害をより掘り下げて検討するという視点(第2セッション)と、もう一つには、核使用のリスクの増大にどう対処するかという視点(第3セッション)が加わっています。この2つは、すでに発効しているTPNWの第6条と第7条には被害者援助と環境修復に関する義務が規定されていることと、第12条、締約国は、「すべての国によるこの条約への普遍的な参加を目標として」、この条約の非締約国に条約参加を奨励することが義務付けられていることと関係します。

ひとつ目の点、被害者を援助し環境を修復するには、現実にどのような被害あるのかを明らかにする必要があります。第2セッションでのフィリップ報告やカセノバ報告はこの観点から極めて興味深い知見を提供しています。つまり、現実の核使用・実験の被害は従来考えられていたよりも大きいののではないか、そして現在とられている被害者への補償措置を含めた対応措置は不十分なものなのではないかということです。この点、議長サマリーでは「大気圏内核実験は、数十年前に行われたとはいえ、深刻な健康被害と長期にわたる環境悪化の原因となっている。新しい分析と技術により、核実験による放射性降下物による地球規模の放射能汚染、被ばくした地域社会、影響を受けた生態系のマッピングが改善され、影響を受けた地域社会にとって重要な意味を持つようになった。」とした上で、「核兵器の影響に関する統合的な全体像がまだ得られていない。知識を深めるためには、短期、中期、長期の影響の相互作用について、より学際的な作業とさらなる研究が必要である。また、事実に基づく政策を立案できるような、より明確な知見をもたらすために、さらなる研究だけでなく、議論や考察が必要である。」と指摘しました。会場では、2世、3世に対する被爆の影響をどう捉えるかという医学的視点からの質疑応答もありました。また、世界各国にいる核被害者に対して関係国がどのような補償制度を設けているかという調査研究も始まったばかりです。この会議を契機に日本を含む世界各地でこの点の検討の深化を期待したいところです。

もう一つの条約の普遍化の点ですが、締約国会議に提出されたオーストリアなどの作業文書では、この普遍化を単に非締約国を条約に参加させることにとどまらず、「核兵器固有のリスクと壊滅的な人道上の帰結による核兵器の完全廃絶という根本的な根拠の促進を含む広い概念」として捉え、「国別または協調的な努力によって署名と批准の数を増やすことと、人道上の帰結と関連するリスクに関する懸念、軍縮および国際平和と安全に対する条約の効果的な貢献といった規範、価値、条約の基本的な主張の推進に積極的に関与すること、この2つを普遍化の努力として考えるべきである」と主張しています(TPNW/MSP/2022/WP.7)。オーストリアによるこの会議の開催と、会議のテーマとして核兵器のリスクと人道上の帰結を掲げることは、まさに12条の義務の履行にあたると言えます。条約非締約国を含めたこのような会議を開催し、条約の基本的な考え方を非締約国に普及し、定着させることが重要だと考えているのです。

最後に、今回の会議でおそらくすべての参加者の念頭にあったことは、ロシアによるウクライナ侵攻と核兵器による威嚇の問題です。会議冒頭のシャレンベルク外相の挨拶から始まり、この問題に触れるプレゼンも複数存在しました。なかでも、小型核兵器など存在しないのだと指摘するクッツ報告は印象的でした。ロシアによる核兵器による威嚇がなされ、戦術核兵器使用の可能性が指摘される現状は、核軍縮の進展に暗い影を落としているのは事実ですが、核使用のリスクの高まりは、核使用の人道上の帰結の認識を広げ、深化させ、ひいては核兵器の非正当化を前進させる好機とも捉えられます。今回の会議の内容がもっと広く共有されることが必要だと感じます。

文責:山田寿則(明治大学法学部)

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