ウィーン・レポート①:ユース・オリエンテーション
17日15:00(現地時間)から、核時代平和財団(Nuclear Age Peace Foundation)およびリバース・ザ・トレンド(Reverse The Trend)の共催による「ユースオリエンテーション」が、在ウィーンのアイルランド大使館にて開催されました。約10カ国から50名が集まりました。以下、概要をレポートします。
タイムテーブル
・開会の挨拶
・国連アイルランド政府代表部大使の挨拶
・国連オーストリア政府代表部の挨拶
・締約国の視点:メキシコ
・ネットワーキング
・核兵器の人道的な影響と核兵器禁止条約(TPNW):被爆者による証言
(スピーカー:木戸季市、家島昌志 ファシリテーター:高橋悠太、中村生)
・核兵器の人道的な影響とTPNW:ICANと赤十字国際員会(ICRC)の視点
・人種・ジェンダー・核兵器の交差性(Intersectionality)を考察する
・アクティビズムという形でのアートの力
・ユース団体からの平和メッセージ
(スピーカー:高校生平和大使)
・閉会の言葉
最初に、オリエンテーションを主催するアイルランドのイオイン・オリアリー(Eoin O’Leary)代表部大使が、挨拶をしました。オリアリー大使は、アイルランドがこれまでTPNWの採択に果たしてきた役割などを紹介。広島で核兵器が使用されて75年にあたる2020年8月8日にTPNW を批准したことに触れ、核兵器の非人道性を訴えました。また、国連総会決議「Youth, disarmament and nonproliferation」(A/C.1/74/L.48)の採択など、ユース教育への取り組みも紹介し、「ユースの声はTPNWにとって必要不可欠なものである」と参加者に期待を寄せました。
続いて、国連オーストリア政府代表部1等書記官のダニエル・レトリン(Daniel Röthlin)さんが登壇。TPNWの意義と第1回締約国会議(1MSP)への期待について話しました。レトリン一等書記官は、昨今の国際情勢は、核兵器が切迫した脅威であることを示していると指摘し、TPNWの普遍化や被害者支援という積極的な義務の履行が求められると述べました。また、TPNWには、政府代表だけでなく、多様なコミュニティーが関わっていることに対し、期待を寄せました。
続いて登壇したメキシコのネグレテ・ヒメネス(Negrete Jimenez)二等書記官は、締約国の視点について話しました。ヒメネス二等書記官は、メキシコのアプローチを「楽観的現実主義(optimistic realism)」であると説明。広島・長崎での核兵器使用、キューバ危機という歴史から、メキシコは、核兵器が自国に安全をもたらさないという現実に立脚するようになった。ブラジルとアルゼンチンの間には対立が存在したが、交渉の結果、中南米は非核兵器地帯化された(トラテロルコ条約)。そして現在では、中米は世界で初めて地域のすべての国がTPNWを批准するに至った、と論じました。わずかな国と人々だけが核兵器を必要としている現状を打破するためには、協調的なアクションが必要だと語りました。
その後、東京からウィーン入りしたKNOW NUKES TOKYOの高橋悠太さんと中村生さんがファシリテーターを務め、日本被団協の木戸季市さん(事務局長)と家島昌志さん(代表理事)が、それぞれの被爆体験とユースへのメッセージを語りました。
木戸さんは、自らの被爆体験を通じて、核兵器廃絶の必要性と日本政府による核軍縮を訴えてきた。またTPNW、特に第6・7条の内容を歓迎している、と述べました。そして、日本の被爆者は「紛争解決に武力を用いないこと、そして核兵器を廃絶することを求める」と語りました。
家島さんは、ロシアによる核使用の威嚇について触れ、たとえ小さな核であったとしても核兵器の使用は許せないと発言。それに対して、私たちはTPNWという希望の峠にたどり着いた。「日本政府は真摯に条約に向き合ってほしい」と語りました。
また、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のティム・ライト(Tim Wright)さんとICRCのヴェロニク・クリストリ(Veronique Christory)さんが登壇。ライトさんはICANのキャンペーンの歴史について紹介。これまでの西欧諸国を中心とした伝統的な核軍縮のアプローチを超えて、アフリカなど、中小国へと開かれた国際的な連合(international coalition)を形成してきたこと。パワーや安定性といった抽象的な概念ではなく、人々に何をもたらすのかという人道的な影響に焦点を当てた新しい運動を展開してきたことなどを語りました。ライトさんは、「国際的なマジョリティーのエンパワーメント(empowering global majority)」が鍵だと述べました。また、TPNWをどう実効的なものにするかが課題であると論じ、核に依存する「オーストラリア、日本、NATOのうち、どの国が最初に締約国になるのか」。「実現すれば、それはとても大きな瞬間になる」と語りました。
ICRCのクリストリさんは、冒頭、ICRCが作成したビデオを上映。その上で、核兵器の使用は受け入れられず、非道徳的なものである。いかなる人や国も核兵器の使用に対処することはできない、と述べました。他方で、希望はある。それはTPNWであり、若者の関与であると語りました。
さらに、African American Against the Bombの著者であるヴィンセント・イントンディ(Vincent Intondi)さんとWILPF Zimbabwe代表のエドウィック・マドジムーア(Edwick Madzimure)さんは、人種やジェンダーと核兵器の「交差性」(intersectionality)の問題について話しました。イントンディさんは、核兵器の実験や生産の過程では、人々、特に先住民族が、使い捨て可能な生命として他者化(othering)されてきたことを指摘。核は人種や植民地主義と密接な関係にある、と論じました。
マドジムーアさんは、アフリカにおける女性の経験から、軍事化(militarization)により国家の軍事開発に多くの金が投資される結果、気候変動による農業の不作、貧困、家庭内暴力など、相互に関連する諸問題に対処できず、むしろそれらを深刻化させている。核のゴミが地域住民への相談なしに廃棄され、特に女性に影響がある放射性物質への懸念がある、と指摘。ジェンダーと人種、核や軍事化という問題が繋がっているからこそ、軍縮への女性の参加が必要であると強調しました。また、TPNWに参加していないアフリカ諸国について、核保有国から何らかの形で利益を得ていることがその背景にあると論じました。
次にアートについて、まず、クリス・ソープ(Chris Thorpe)さんが登壇。TPNWの成立に至るまでの歴史をショーとして制作し、公演する自らの活動を通して、人々が核兵器について「語る」ことの重要性、そして、その空間を作ることができる点に文化の役割があると語りました。
その後、太平洋島嶼国などから参加したパシフィック・ユースのメンバーたちが、ビキニでの核実験の歴史や核兵器なき世界に向けた思いを描いたアートを披露。彼らは、「TPNWは環境の修復、そして被害者への支援の道標である」と語り、この全てのアートはパシフィック・ユースの団結(solidarity)を示しているのだと語りました。
続いて、高校生平和大使の大内由紀子さんと神浦はるさんが平和メッセージを披露。200万を超える署名を集め、国連に提出したことを紹介し、「微力だけど無力じゃない」とのスローガンを掲げながら、被爆者の経験を世界に伝え、核兵器なき世界に向けてアピールしていこうと語りました。
閉会の挨拶に立った核時代平和財団のイヴァナ ・ヒューズ(Ivana Hughes)さんは、「ここにいる全ての人が未来そのものである。」2045年に核兵器ゼロを目指し、進んでいこうと呼びかけました。
文責:浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会/神戸大学大学院博士課程)
[1] 交差性とは、人種、民族、国籍、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況を言います(ヒューライツ大阪の説明を参照しました)。