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2022年06月24日

ウィーン・レポート⑤:第1回締約国会議 第2日目

全体の流れ

2022年6月22日、午前10時過ぎから、核兵器禁止条約(TPNW)の第1回締約国会合2日目の討議が始まりました。2日目は、1日目に終わる予定だった一般討論の続きからです。主に、オブザーバー参加国のステートメントが予定されており、何を語るかが注目されました。

 続いて、個別問題の討論に移り、条約2条で義務付けられている各締約国からの申告の状況確認、普遍化の問題(12条)、核兵器の廃絶期限の問題(4条)、権限ある国際的な当局の指定の問題(4条)、被害者援助・環境修復・国際協力援助の問題(6条・7条)、国内的実施措置の問題(5条)について、討論と(場合によっては)採択が行われました。

 この会合では、事前に問題ごとに締約国間の協議を促進するファシリテーター国が指名されており、これらの国がこの会議に、担当した事項について作業文書をまとめ、その中で、この会議で最終的に採択されるべき合意事項について勧告しています。会議は、それぞれの問題につき、まずファシリテーター国がその作業文書を紹介し、参加国がコメントを述べ、その事項ごとに、暫定的な合意を確認するという予定で進められました。

オブザーバー国の反応

 2日目にずれ込んだ一般討論では、最後にオブザーバー国がリストされました。特に注目されたのは、核兵器の非人道性には共感を示しつつも、TPNWには距離をおくスウェーデンやスイス、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるドイツやノルウェー、オランダです。

 スウェーデンは、TPNWには核保有国が参加しておらず、効果的・現実的でないとした上で、その欠点として、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)との関係、定義が不明である点、検証措置とその適用範囲が不明である点を指摘。同国としてはNPTに基づくストックホルム・イニシャチブを推進する、と述べました。

 スイスは、核使用を防止するとのTPNWの目的を完全に共有するとし、核使用が国際法と両立可能だと想定するのは困難だとした上で、TPNWとNPTとの関係について2点述べました。1つは、TPNWの目的は、NPT特に第6条の実施に貢献するとの声明が相次いでいることを歓迎する。2つ目は、TPNWの被害者援助・環境修復の規定はシナジー効果を産むかも知れず、また、TPNW締約国がIAEA保障措置協定・追加議定書を締結していることから、相互に補完的になる可能性があるとの評価を示しました。もっとも、この相互の関係はまだ未定な部分があることが、スイスが条約に署名・批准しない主な理由だと説明しています。

 ドイツは、核兵器のない世界を目指すというゴールはTPNW締約国と共有しているし、人道の観点も評価するが、核同盟としてのNATO国として、またロシアの公然たる侵略に直面している現状に照らしても、TPNWには参加できないとしました。もっとも、ドイツは「建設的対話」に取り組むとして、積極的義務、つまり被害者援助・環境修復問題に注目すると述べています。

 オランダは、TPNW参加はNATO同盟国としての義務と両立しないとの立場を維持していますが、オープンで・フランクな対話を続けることを表明し、核兵器のない世界という目標は共有していると強調。TPNWはNPTを強化し、これを補完すべきだと述べました。

固まってきた合意事項の中身

 一般討論に続いて、個別問題についての審議が進みました。第1に、条約2条に規定される核保有の有無などを明らかにする締約国からの申告はすでに60件に及ぶことが報告され、会議としてこのことを確認しました。

 第2に、普遍化の問題です。条約は非締約国に対して条約規範への参加を働きかけるように締約国に義務付けています。この普遍化の問題にどのように取り組むかが議論されました。注目したいのは、ファシリテーター国(オーストリア、コスタリカ、インドネシア)が提出した作業文書(TPNW/MSP/2022/WP.7)です。ここでは、普遍化の概念を、単に条約に参加する国を増やすだけでなく、条約の基本的な考え方を非締約国に広げることもまた普遍化として捉え、このための活動を提案しています。この問題につき発言した国のほとんどがこの作業文書を支持しました。この作業文書に含まれる勧告については、後の議題である会期間プロセスと行動計画に含まれることになるので、この問題についての合意事項の採択はその問題を扱う段階で行うことになりました。

 第3に、核兵器の廃棄期限の議題が取り上げられました。これは条約4条でその期限を第1回締約国会合で決定することが明記されている問題です。ファシリテーター国(南アフリカ)は、作業文書(TPNW/MSP/2022/WP.9)の中で、核兵器を保有している締約国については、核兵器の廃棄期限を最大10年とし、最大5年間の延長を認めるという仕組みを勧告していました。また、他国の核兵器が自国の領域に所在する締約国(ホスト国)についてはその核兵器の撤去期限を最大90日としていました。会議では、諸国からのコメントを受けたのちに、議長がこの提案をほぼ踏襲した案を提示して、出席国からの異論がないことを確認した上で、採択しました(別掲)。

 第4に、4条で予定される「権限のある国際的な当局」の指定問題です。これは核保有国が条約に参加した場合に、核兵器の廃棄の検証を担う機関です。条約では、締約国会合が指名するとしていますが、具体的な規定はありません。ファシリテーター国(ブラジルとメキシコ)が提出した作業文書(TPNW/MSP/2022/WP.1)では、会期間(締約国会合と次の締約国会合との間の期間)で非公式作業部会を設けて、検討を継続することを勧告しました。この問題についてコメントした国は概ね継続審議を前提として、議論のあり方について意見を述べています。この問題についても、会期間プロセスと行動計画に含まれるとして、採択は後の段階で行うこととなりました。

 第5に、6条及び7条で規定される、被害者援助・環境修復及びこれに関する国際協力・援助の問題です。ファシリテーター国(カザフスタンとキリバス)は、作業文書(TPNW/MSP/2022/WP.5)において、6条7条義務の履行が最優先事項であるとして、実施の枠組みづくりや実施措置の報告、会期間作業の継続、国際信託基金の設置など、この積極的義務の実施のあり方について広範な勧告をおこないました。会議では、多くの国がこの作業文書を歓迎しましたが、この問題についての採択は、会期間プロセスと行動計画の問題と併せて後の段階で行うこととなりました。

 最後に、5条の国内的実施措置の問題です。これについてファシリテーター国は指定されておらず、締約国による作業文書も提出されていませんでした。会議では、締約国としてはキューバが発言し、市民社会からの発言が1件、ICRCからの発言があったのみで、必ずしも諸国の注目を集めた事項ではありませんでした。

若干の感想

 まず、2日目の議論では、ファシリテーター国が作業文書で示す提案を押し並べて参加国が歓迎するという傾向が見られました。おかげで、始まる前は一般討論の延長で議事日程がタイトになっているように思われましたが、最終的には3日目に予定されていた議事日程をも前倒して消化することができ、2日目の最後には、残りの会議で採択すべき決定の草案が議長から示されることがアナウンスされました(TPNW/MSP/2022/CRP.6とTPNW/MSP/2022/CRP.7)。これは、各ファシリテーター国の事前の協議調整が十分になされていたことが背景にあると推測されます。

 次に、オブザーバー国の中には、TPNWとNPTを繋げようとする動きが見受けられます。スイスは上述の一般討論での発言にみられるように被害者援助・環境修復の規定に一定の期待を寄せているように見えます。実際、スイスはこの問題が審議された際にも発言し、非締約国の役割にも言及。この問題を補完性と相乗効果を探るべき分野だと指摘していますし、NPT再検討会議でこの問題を提起することも示唆しました。ドイツも一般討論で被害者援助問題に注目しています。オランダの一般討論での発言も、TPNWがNPTを強化・補完するという理想像が想定されているともいえます。すでに、TPNWとNPTとを橋渡ししようとする試みが始まっているように見えます。特に、被害者援助と環境修復をその手がかりにするという構想がどのように具体的に展開するか。注目したいと思います。

 最後に、市民社会にも発言の機会が相当程度与えられています。NPTとは異なり、TPNWでは(交渉会議でもそうでしたが)政府からのステートメントがいくつか続くと市民社会の発言の機会が与えられ、その後から再び政府のステートメントが続くという形式がとられています。もちろん、これは議長の裁量によるところが大きいのですが、政府の発言と同じように市民社会の声を聴こうというTPNW締約国の姿勢の表れと感じました。さらに言えば、市民社会のステートメントを読み上げるのは、多くが若者であり、彼ら彼女らの発言には会場から温かく大きな拍手が送られています。この若い条約を支えるのは、未来を担うこの若者たちであると実感する瞬間でもあります。

(別掲)

「核兵器の禁止に関する条約第4条第2項及び第4項の完全かつ効果的な実施を追求するため、締約国は、以下の事項を決定する。

a. 4条2項を追求し、すべての核兵器関連施設の不可逆的な転換または除去を含む、当該締約国の核兵器計画の検証された不可逆的な除去のための法的拘束力のある期限付きの計画に従って、核兵器廃棄に必要な期限として最大10年の上限を採用すること。

b. 核兵器廃棄のための最大5年の延長期間を設定すること。

c. 軍縮プロセスにおける予期せぬ困難を克服するために、例外的に締約国会合又は検討会議によって延長要請を認めることができること。

d. 延長要請は、締約国が第4条第2項に基づく義務を完了するために厳密に必要な年数を超えてはならず、締約国は最大延長期間内にとどまらなければならないこと。

e. そのような要請は、以下を含むべきである。

i. 提案された延長の期間

ii. 当初の計画を遂行する上で直面した課題の説明を含む、延長提案の理由の詳細な説明。

iii 当初の計画を遂行する上で直面した課題に対処するための手段を具体的に含む、廃棄のために更新された詳細な計画。

f. 延長要求の具体的な要件は、科学諮問グループからの助言及び関連する技術的な諸国際機関からの情報に基づき、条約の将来の締約国会合又は検討会議においてより詳しく述べられ得ること。

g. 締約国による上記に関するいかなる決定も、科学諮問グループ及び関連する技術的な諸国際機関の勧告に基づいて行われるべきこと。

h. ホスト国からの核兵器の撤去について、最大90日間の期限を採択すること。」

文責:山田寿則(明治大学法学部)

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