NGO News

2022年06月25日

ユース・ブログ⑨:高橋悠太さん(KNOW NUKES TOKYO)にインタビュー

本日のブログは、KNOW NUKES TOKYO共同代表の高橋悠太さんへのインタビューです(聞き手は、事務局の浅野英男)。今回、高橋さんには、ウィーンでの活動の総括や締約国会議の受け止めなどについてお話を伺いました。

Q:今回のウィーン渡航で印象的だったことを教えていただけますか?

高橋:まず、締約国会議の初日と2日目に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によるアドボカシー活動に参加しました。そこでは、被害者支援や環境修復について定めている核兵器禁止条約(TPNW)の第6条および第7条をさらに発展させた内容にしてほしいと、日本の市民社会による提言書を持って話しにいきました。僕は、チリやモザンビーク、キルギスなどの国を担当しました。向こうの反応は好意的で、大切なことなので本部に相談してみるといったコメントをもらえました。また、大人の男性だけが重要な決定をしている現状に女性や若者が関わっていくことが重要だとも語ってくれました。相手が外交官であっても対等な立場で話せたことは嬉しかったし、働きかけができて良かったです。
 また、この活動をコーディネートしてくれたハーバード大学ロースクールのボニー・ドチェルティ(Bonnie Docherty)さんも、前に進めてよかったと語っていました。このような具体的なアクションがあると、一緒に活動をしたメンバーの間でも信頼関係が生まれるし、今後のつながりを築いていけることが重要だと感じました。

 2つ目に印象に残っているのは、ICAN市民社会フォーラムの中で主催した「被爆者に会ってみよう(Meet the Hibakusha)」という企画です。良かったと思うのは、世界中の若い人が被爆者と「人間的なつながり」を作れたこと。海外に対して被爆証言を発信するのは想像以上に難しいです。運営の面もそうですが、育った背景が異なる人に対して証言をしてくださいと被爆者に頼むことも難しいし、やったとしてもそれが実際にきちんと伝わったかもわからない。だからこそ、面と向かって、膝と膝を付き合わせて被爆者と関わりを持ってほしい。同時に被爆者の方にも交流を楽しんでほしいと思い、企画ができて良かったです。
 参加したウクライナの方は、自分たちが経験している戦争の現状と、核兵器による凄惨な経験から立ち上がって進んできた被爆者の歴史が重なると語っており、被爆者のメッセージが伝わっているのだと感じることができました。

 3つ目は、今回の国際会議を経て、仲間たちとともに成長できたという実感があることです。色々な国の参加者と交流する中で感覚が鋭くなったし、度胸もついた。お金の問題やコロナの状況もあってギリギリで渡航を決めたけど、ウィーンに来れてよかったと感じています。 
 若者によるNGOのリバース・ザ・トレンド(Reverse The Trend)などとも話をする中で、一緒にコラボレーション(協力)をして広島で開催予定のG7で国際的なアクションをしたいねということにもなりました。未来につながるアイデアや関係性を作れたことがとても良かったです。

Q:高橋さん個人としてウィーンに来たからこそ見えてきたこと、感じるようになったことはありますか?

 まずは、TPNWを視る「視点」が増えたと感じています。日本では、禁止のみがハイライトされがちですが、それ以上にこの条約は、「被爆者援助」の側面がとても色濃い。それを改めて学びました。こういった視点を持ち帰れば、日本でも議論や運動の広がりもたらせるのではないかと思っています。

 また、核被害者が世界中に存在し、様々な運動を展開しているなか、「被爆国」日本とは何なのかを考え直した方が良いと痛感しました。日本の人々は核被害について知った気になってはいけないと思いました。世界の核被害の実相は、それぞれの地域で異なるし、広島・長崎についてわかっていないことも多いです。

これまでやってきたことの二番煎じでは意味がない。今回の会議で改めて核兵器の非人道性とTPNWは一体のものになったと改めて感じました。日本では、核軍縮の問題に関して、安全保障と非人道性は切り離されているところがあります。特に政府は、非人道性の問題には取り組んできたけれども、これからは何らかの形でTPNWへの態度を示していくことが求められていくだろうと思います。

Q:締約国会議の内容で印象に残っていることはありますか?

 オブザーバー参加の国々の発言には注目していました。ドイツなどは、やはりTPNW自体にはネガティブな態度だった。今回のロシアによる軍事侵攻が影を落としたのではないでしょうか。まだまだTPNWが各国における価値判断の中心的な基準になっていないと思います。そこをもっと推し進められれば、何で核廃絶が必要なのかを国民で考えるようになる。それが課題だと感じました。
 ただ、ノルウェーなどは、アメリカの同盟国だから参加はできないけど、核兵器の非人道性には賛同していると発言していました。さすがに核兵器はダメだと。その視点が日本には抜け落ちているように思います。本当はこれを日本政府がやるべきだったと感じました。世界から学ぶべきことがたくさんありました。

 採択された行動計画については、どう市民社会が関与していくかは模索する必要があると感じました。次回の締約国会議の議長を務めるメキシコの課題ではないかと思います。被害者支援についても民間・市民がもっと関与できるようにしてもいいのではないでしょうか。現段階では国家が参加できる場所を作ったという形だが、今後はさらに市民社会が入っていけるようになっていくのではないかと思います。

Q:最後に会議の総括をお願いします。

 会議は成功だったと言えるのではないでしょうか。核軍縮を進めようという熱量は示せたし、行動計画にも合意できました。また、市民社会が対等な立場で参加し、発言できたことも大きな収穫であったと思います。2年後の次(第2回締約国会議)まで進んでいける。

 また、この後すぐに核不拡散条約(NPT)再検討会議があるので、そこにどう繋げていけるか。NPTでの議論で、TPNWで核兵器は禁止されたから核軍縮を進めましょうという声が大きくなっていってほしいと思います。

 オブザーバー参加国も議論に加わって自身の課題や障壁を提示できたのは大きかったと思います。何が課題なのかが提示されなければ、それをどう乗り越えるかも議論できない。日本がオブザーバー参加をやめたのは、もったいないなと感じました。課題を提示するためにも日本はくるべきだったのではないかと思います。

 また、改めてですが、核軍縮や安全保障の議論と非人道性の議論はそれぞれ別のものと捉えられてきたように思います。しかし、TPNWでは、安全保障の中で非人道性も考えましょうという議論ではなく、非人道性が全てのベースにあって、その上で安全保障も考えましょうという視座の転換がもたらされたのではないかと感じています。

 最後に、コスタリカのエレイン・ホワイト・ゴメス(Elayne Whyte Gomez)大使とお話した際に、外交官は任期があるが、市民社会はずっと活動を続ける。だから重要なんだ。今回、多くの市民が参加してくれたことが嬉しいと語っていたことが印象的でした。これからも活動をがんばっていきます!

文責:浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会事務局 / 神戸大学大学院博士課程)

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