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2023年08月03日

2023 NPTレポート3 ― 第1回準備委員会 一般討論

 7月31日、オーストリア・ウィーンにて2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第1回準備委員会が始まった。初日の午前にはオープニング・セッションが行われ、その後、8月2日にかけて一般討論が行われた。

オープニング・セッション

ヤルモ・ヴィーナネン議長

 議長には、フィンランド外務省で軍備管理・軍縮を担当してきたヤルモ・ヴィーナネン(Jarmo Viinanen)氏が選出された。ヴィーナネン議長は、冒頭の挨拶の中で、今回の準備委員会が第10回再検討会議の1年後に行われることに触れ、「世界は、昨年8月よりも悪い状況にあり、それが会議の議論に影響を及ぼすことは間違いない。このような課題に直面する中、私たちは、世界の核軍縮・不拡散体制の要であり、国際平和と安全の不可欠な要素であるNPTを強化するために、粘り強く取り組んでいかなければならない」と述べた。また、議長は、準備委員会における率直な対話を通じて「今回の再検討サイクルにおける優れた土台を築くことができると信じている。私たちの目標は、再検討サイクル全体にあるべきである。それぞれの締約国の立場を明確に理解すれば、共通の土台を見出し、意見の相違を埋める方法を模索し始めることができるはずだ」と語った。

中満泉 国連事務次長

 中満泉国連事務次長は、前回のNPT再検討会議では最終文書案に合意できなかったものの、そこには今回の再検討サイクルに活せる有意義な要素が多くあったと述べた。また、昨年の再検討会議以降、NPTをめぐる諸課題はますます困難なものになっていると語り、NPTに大きな影響を与えている動向として特に以下の4つを挙げた。

  1. 核兵器のさらなる重視が不安を煽ると同時に、(核兵器のさらなる重視は)その産物でもあるという「ニワトリが先か、卵が先か」というシナリオが存在していること。前回の再検討会議からの12ヶ月間において核兵器が強制の手段として公然と用いられているという事実と核兵器が究極的な安全の保証をもたらすという誤ったナラティブが核拡散を後押ししていること
  2. 現在の地政的な戦略環境が、核兵器のない世界を実現する努力を損なっていること
  3. 技術の進歩およびサイバーや宇宙空間における新たな領域の出現が、新しいかつ危険な脆弱性をあらわにしていること
  4. 現在の困難な国際状況のなか、私たちは、世界中で深まる不平等や食料安全保障および健康へのアクセスにおける課題を目の当たりにしており、それらが、深刻化する気候危機によってさらに悪化していること。これらはSDGsに対して負の影響をもたらしており、原子力科学やテクノロジーがSDGsの達成に有意な影響を与えうること

 そして中満事務次長は、今回の準備委員会において、締約国に以下の8点について検討するよう求めた。

  1. 既存のコミットメント、特に核軍縮のそれに対する説明責任を強化すること
  2. 核兵器の使用、実験、拡散に対する規範を強化し、核兵器なき世界という共有された目標に向かって前進すること
  3. 核リスクを低減し、世界を核兵器の廃絶に向けた軌道に戻すよう、核兵器国間での対話の機会を作ること
  4. 新たな課題、特にテクノロジーと核兵器のそれについての共通理解を見出すこと
  5. アメリカとロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の完全な履行を再開するよう促すとともに、現在および将来において効果的な軍備管理には何が求められるのかを議論すること
  6. IAEAがその権限を果たすために必要な支援を含め、核不拡散体制を強化すること
  7. 地域的な核拡散の危機を解決するための支援をし、非核兵器地帯を含め、核兵器(問題)の地域的な解決策を強化するためにさらに何ができるかを議論すること
  8. SDGsや他の開発イニシアチブの達成のため、またパンデミックの予防や気候危機といった他の国際的な問題に貢献するためのプラットフォームとしてNPTを使うこと

一般討論

 続いて行われた一般討論(7/31〜8/2)では、参加各国が順に演説を行った。

日本

 武井俊輔外務副大臣は、国際社会の分断やロシアによる核の脅威など、核兵器なき世界に向けた道がますます厳しくなる中、NPTを維持し、強化していく重要性を述べ、広島G7サミットで発表された「広島ビジョン」が核兵器なき世界に向けた取り組みの確固たる基盤を提供していること、そして日本政府は「広島アクションプラン」に沿って現実的かつ実践的な取り組みを進めていくことを強調した。
 また、武井副大臣は、冷戦後初めて、国際社会は、核兵器数の減少傾向が逆転するかもしれないという厳しい状況にあり、それを許すべきではないと述べ、透明性の向上や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、北朝鮮の核ミサイル開発、イランの核問題などの課題にさらに取り組むことを求めた。FMCTについては、今年の国連総会において、フィリピンとの共催でハイレベル会合を行う予定であることを明らかにした。また、ユース非核リーダー基金の取り組みなどを含め、被爆者とともに、世代を超えて核兵器使用の実相を伝え続けていくと述べた。
 さらに、福島第一原発におけるALPS処理水の放出について、その安全性を確保し、健康や環境に被害が及ぶような放出は行わないため、可能な全ての取り組みを行うと強調した。また、7月に公表された国際原子力機関(IAEA)による包括報告書に言及し、日本は、科学的な証拠に基づき、透明性のある形で、処理水放出の安全性を国際社会に説明し続けてきていると述べた。
 7月31日の討論終了間際には、答弁権(right of reply)を2回行使し、中国がその安全性などを批判したALPS処理水の放出について反論した。日本は、放出されるのは「汚染水」ではなく「処理水」であると訂正し、IAEAの包括報告書に基づいて、ALPS処理水の放出は国際的な安全基準と合致していること、また健康および環境への放射線の影響は無視できる程度のものであることを強調した。

核兵器禁止条約

 新アジェンダ連合(NAC)を代表して発言したメキシコは、核兵器禁止条約(TPNW)は、核兵器への人道的アプローチを(NPTに)取り入れるなど、NPTを強化および補完し、NPT第6条履行の緊急性を強調するものであると主張した。そのうえで、両条約の補完性が適切に反映されていくことを期待すると述べた。その他にも、南アフリカアイルランドアフリカ諸国グループなどがTPNWの補完性について言及した。キリバスとカザフスタンは共同声明の中で、太平洋地域およびカザフスタンで数100回にわたって行われてきた核実験を想起し、核兵器国に対して、被害者支援および環境修復のために、十分な財政的支援や情報交換に取り組むよう要請した。すでにTPNWの批准を表明しているブラジルは、核兵器禁止条約が、核兵器の使用および威嚇に対する道徳的な敷居を高めることによって、安全保障環境の向上に目にみえる貢献をしていると述べた。そして、TPNWは、段階的な核軍縮アプローチを含め、核軍縮の目標を達成するための道筋を妨げるものではないと語った。オーストリアは、それが明示的であれ暗示的であれ、またいかなる状況下であるかに関わらず、全てのあらゆる核の威嚇を非難し、拒絶すると語り、この問題について、他のTPNW締約国とともに明確なスタンスを取り続けてきたと述べた。

核軍備管理・軍縮

 非同盟諸国(NAM)は、今回の準備委員会および第11回再検討会議において、1995年、2000年および2010年に合意されたコミットメントの重要性と継続する有効性を再確認し、その完全な履行を求めるべきだと語った。アメリカは冒頭、ウクライナ侵攻におけるロシアの核のレトリックや新STARTの履行停止について批判したうえで、軍備管理について、以前にジェイク・サリバン大統領補佐官が表明した、前提条件なしでロシアおよび中国と2国間対話を行う意思があるとの考えに言及した。また、アメリカは、核軍縮義務の履行に関する自国の報告について議論することを歓迎すると表明した。中国は、他の核兵器国が核軍縮プロセスに参加できるよう、まずは最も多く核兵器を保有する国々が新STARTを履行し、核兵器の数を大幅に減らすことを求めた。また、核兵器国間における核兵器の相互先制不使用条約や法的拘束力のある消極的安全保証の供与に向けた交渉を呼びかけた。ロシアは、核軍縮プロセスおよび軍備管理は安全保障の状況と切り離せないと述べ、NATOの拡大やイギリスおよびフランスが保有する核兵器、NATO同盟国に配備されているアメリカの核兵器などがヨーロッパを不安定化させていると指摘した。

核共有

 バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は、ロシアによるベラルーシへの核兵器配備はNPTおよびブダペスト覚書に違反すると批判した。ポーランドは、ベラルーシへのロシアの戦術核配備の動きは、エスカレーションのリスクを高め、地域およびグローバルな安全保障環境に悪影響を及ぼしていると批判し、NATOの核共有についてはNPTに完全に合致していると述べた。イランは、核共有はNPTに違反するとして、アメリカおよびドイツなどの核配備受け入れ国(ホスト国)に対してNPTにおける不拡散義務の遵守を求めた。エジプトは、核共有や核の傘の体制下にある非核兵器国がNPTを遵守していると言えるのかについて客観的な検討をする必要があると述べた。その発言に対してオランダは、答弁権を行使し、NATOにおける核共有はNPTに違反しないと反論した。それに対してエジプトは、核共有がNPTの義務と矛盾しないかどうかは、次のNPT再検討会議で検討されるべき問いであると指摘した。ロシアは前述のようにNATOの核共有について批判した。なお、ベラルーシは連合国家創設条約としてロシアとともに共同で演説を行ったが、核配備に向けた動きについては触れなかった。

 全てを挙げることはできないが、その他にも、各国は、核兵器の非人道性や核リスクの低減、核兵器の不使用、P5声明、消極的安全保証、包括的核実験禁止条約(CTBT)などについて語った。また、ロシアによるザポリージャ原発の占拠、中国の不透明な核軍拡、核戦力の近代化、AUKUSにおける核拡散への懸念、中東非大量破壊兵器地帯などのテーマについても意見が表明された。

 8月2日午後の終盤からは、核軍縮について議論するクラスター1が開始された。一般討論において、2015年、2022年と2回連続の再検討会議における最終文書採択の失敗が語られるなか、各クラスターでどれだけ有意義な議論が展開されていくのか、今後もその動向を注視していきたい。

核兵器廃絶日本NGO連絡会 事務局 浅野英男

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