ウィーン・レポート④:第1回締約国会議 第1日目
2022年6月21日、核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議が国連ウィーン事務局に隣接するオーストリアセンターウィーン(Austria Center Vienna)で開会しました。第1日目は、会議の開会(中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表)、議長と他の役員の選出、議長挨拶、ハイレベル開会セッションと議事が進行しました。ハイレベル・セッションでは、国際赤十字委員会(I C R C)のピーター・マウラー(Peter Maurer)総裁の、核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン(Beatrice Fihn)事務局長、カザフスタンのカリプベク・クユコフ(Karipbek Kuyukov 、核実験被害者)さんの3名が登壇し、続いてフィジーなど9カ国の首脳級登壇者がスピーチしました。
その後、議題の採択、議事規則の採択、組織事項、会議への代表の信任状の確認がおこなわれ、一般討論が始まりました。本稿では、この会議に参加した筆者の視点から、内容のいくつかを紹介し、最後に所感を述べます。(より詳細な会議のレポート(英語)はこちら、各スピーカーによる発言の全文(英語)はこちら)
議長挨拶
アレクサンダー・クメント(Alexander Kmentt)議長
・第1回締約国会議の開催にあたって、市民社会、ヒバクシャ、核実験被害者へ敬意を表する。核兵器をめぐる動向はネガティブな方向へと進んでいる。TPNWを除いて。これこそ、TPNWが重要な理由である。
・「核の傘」依存国の参加に謝意を表する。彼らの参加は、TPNWの重要性を認識し、それに建設的に関わっていこうとする意思の表れであると思う。
・会議を始める前に、締約国会議を目前に批准をした3カ国に祝福を送りたい(参加者一同、拍手)。
ハイレベル・セッション
ピーター・マウラーI C R C総裁(全文はこちら)
・ウクライナにおける紛争と核抑止論が正統(legitimate)なもののように思われている状況に対して、核兵器、さらに低出力で「戦術的」と呼ばれる核兵器でさえもが非戦闘員および戦闘員ならびに環境に何をもたらすのかを改めて見直すことが必要だ。
・核兵器のもたらす壊滅的な影響こそが、その使用を非人道的、非倫理的(unethical)、そして国際人道法のもとで違法なものにしている。それに照らして、ICRCの見解では、核兵器が国際人道法を遵守して使用しうるという考えに極めて懐疑的である。
・TPNWによる核兵器の全面的禁止は、その廃絶のために必要不可欠なステップであり、それは国際社会全体の責任である。
・NPTとの相互補完性と、特に、核被害者への支援と環境被害の修復の必要性への取り組みを発展させることが重要である。
ベアトリス・フィンICAN事務局長
・ヒバクシャ(survivors)、核被害を受けたコミュニティ(impacted community)、市民社会、その他の関係者が協力し、TPNWは発効した。国際法のもと、核兵器が全面的に禁止されたことは、並はずれた、また変革的な偉業(extraordinary and transformative achievement)である。
・この条約の必要性は極めて高い。ロシアによる核使用の威嚇によって、核戦争の恐るべき可能性と壊滅的な人道上の影響は人々の関心の中心となった。核使用を防ぐために私たちは決然と行動を起こさなければならない。
・私たちは核兵器を禁止した。今こそ廃絶を目指すのだ。私たちの前には長い道のりが待ち構えている。しかし、それを進む準備はできている。
ローマ教皇庁(全文はこちら)
・核兵器の使用、またその保有は非道徳的(immoral)であると改めて言いたい。保有は、いとも簡単に使用の威嚇をもたらし、人類の良心にとって忌むべき恫喝になる。
・既存の核軍縮条約は単なる法的義務を超えるものである。それらは、道徳的なコミットメントでもある。
・国際的な軍縮条約の遵守とそれに対する敬意は、弱さの表れではない。それは強さと責任の源である。なぜなら、信頼と安定をもたらすからである。
・また、この条約は被害者と環境に対する国際的な協力と支援を提供する。この点において、私の思いは広島と長崎の原爆を生き延びた被爆者、そして核実験の被害を受けたすべての人々に及んでいる。
南アフリカ
・この条約はマジョリティである人々と国々の民主的な願いである。
・核抑止の理論は平和を守らない。
・ほとんどの核保有国が安全保障のためとして核兵器の保有を正当化しているが、非核保有国には核兵器の存在そのものが自国と人類の安全を脅かしているという確信がある。
・多くの人々が飢餓などに苦しむなか、破壊的な兵器に投資をしていることを批判する。
一般討論
カザフスタン
・私たちは、核兵器なき世界の実現に向けて取り組んできた。ソ連による核実験に苦しんできた私たちは、TPNWにおける核被害を受けたコミュニティへの支援を歓迎する。第6条および第7条の積極的義務(positive obligation)を履行することを求める。それは、核兵器廃絶に向けた道徳的要請(moral imperative)になる。
・核軍縮の検証のための制度的枠組みを構築することに取り組む必要がある。
・オブザーバー参加国を歓迎する。より多くの国がTPNWに参加することを望む。普遍化にあたって、他の核軍縮条約における経験から学ぶことができる。
オーストリア
・2014年のオスロ会議から、皆さんが再びウィーンに戻ってきたことを嬉しく思う。これは歴史的な条約である。
・他方で、ロシアは核使用の威嚇、または核の恫喝といえる行為を行なった。これが示すことは、核兵器がある限りそれを使用するリスクが存在するということである。私たちは正しい教訓を得る必要がある。多国間の協力のみが核兵器の危険に対処できる唯一の道である。
メキシコ
・核使用と核実験の被害者の努力を歓迎する。また会議へのオブザーバー参加国を迎えることができ嬉しく思う。
・ウクライナへの軍事侵攻が「核の要素(nuclear element)」を含むことを非難する。
・核軍縮と検証のための国際的な枠組み作りに取り組みを始めた。
・TPNWは国家、市民社会、ヒバクシャの協力の賜物であり、今後もそうであるべきである。条約への幅広い参加が必要である。
キリバス
・今日は歴史的な日であり、私たちが核兵器禁止条約に加盟した日だ。
・これまで33回のイギリスとアメリカによる熱核爆弾実験を経験したことがTPNWに署名・批准した動機だ。
・1958年のイギリスによる最大の熱核爆弾実験は、当時警告も不十分で、多くの市民が死に至り、傷ついた。その被害の中には先天性障害、がん、新生児の異常などがある。このような事例は実験当時島にいた人達の子孫の間でも後を絶たない。
・核兵器は国際人道法の中核的な信念を損なうものだ。一部の国家が核兵器の開発と維持に多額の費用を費やしていることは容認できない。
・キリバスは、TPNW第6条および第7条に関するワーキングペーパーを作成した。また、締約国、ユース、市民社会と協議してきた。
・締約国が検討すべき一連の勧告を作成した。その一つは被害を受けた国のために国際信託基金(International trust fund for affected states)を設立することだ。
・キリバスは違法かつ不道徳な兵器のないより安全で健全な世界を確立するために行動する用意がある。第76回の国連総会で我々の大統領が発表したようにクリスマス島に太平洋地域のためのTPNWセンター(TPNW centre on Christmas Island for the Pacific region)を受け入れる用意がある。
モンゴル
・一国非核兵器地帯の形成から30年を迎える本年、TPNWを支持する。
・一国非核兵器地帯を形成して以降、国際的な平和に貢献してきた。
・北東アジアの安全保障問題が外交のプライオリティである。
・2014年のウラン・バートルプロセスを開始し、地域における対話と相互理解を促進している。
平和首長会議
松井一實(広島市長)
・ロシアのウクライナへの侵略は、民間人への無差別攻撃へと発展し、核兵器の使用さえ示唆している。その解決は我々の喫緊の課題だ。その解決策は、人類がこれまで築き上げてきたものを壊すものであってはならない。
・被爆者は「私たちのような苦しみを他の誰にも与えてはならない」という願いを伝えている。
・国連、各国政府、市民社会はこの条約が掲げる崇高な目標に向けて協力していこう。
・平和首長会議は、広島、長崎に国の代表が来ることを強く勧める。
・2023年にG7が広島で開催される。すべての国と協力して平和を求める。
・参加者の皆さんに、私たちが守り抜く次のことに参加するよう呼びかけたい。被害者支援の充実を含む本条約の具体的な目標を達成すること。
田上富久(長崎市長)
・被爆者は、この条約を「核兵器のない世界の現実への道を照らす希望の光」と称賛している。
・ウクライナ危機の中で核武力の威嚇が行われ、再び核兵器が使用される危険性がある。今私はこれまで以上に、この条約の存在が非常に重要であると感じている。
・広島・長崎の再来が危惧される今、私たちは「長崎を最後の被爆地に(make Nagasaki the last atomic bombing site)」という被爆者のモットーの下に集まらなければならない。
・今回の会議が核兵器の廃絶に向けて大きく進展する契機となることを期待したい。
なお、本日予定されていた一般討論の一部(52. ボツワナ以降)は、締約国会議2日目に行われます。明日の一般討論では、核兵器廃絶—地球市民集会ナガサキの朝長万左男さんや、「核の傘」のもとにあるNATO加盟国のドイツやノルウェーなど、オブザーバー参加国が意見を表明する予定です。
一般討論続きに加えて、明日の会議では以下の点について議論されます。
・核兵器の所有・占有又は管理の申告(2条)
・普遍化(12条)
・核兵器及びその他の核爆発装置の運用状態からの撤去及び廃棄並びに自国の領域からの撤去の期限(4条)
・検証を含む権限のある国際的な当局(4条)
・被害者に対する援助、環境の修復並びに国際的な協力及び援助(6条、7条)
筆者の所感
・被爆者や核被害を受けたコミュニティの経験や視点の重要性について多くの国が言及していた。被害者支援・環境修復を規定する第6条および第7条についての議論も多かった。明日以降、どのように議論が進展し、結論に至るのか注目したい。
・核兵器を条約で禁止(prohibit)したので、ここから核兵器の廃絶(eliminate)に取り組むという意見が多く見られた。
・条約の普遍化(第12条)を求める意見を表明していた国も多く見受けられた。
・明日は、「核の傘」に依存するオブザーバー参加国の発言が予定されているので、条約の普遍化という視点から、どのような発言がなされるのか注目したい。
文責:浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会 / 神戸大学博士課程)