8.5 国会議員による討論会「核兵器のない世界に向けた日本の役割」レポート(速報)
8月5日の午後6時から、国会議員による討論会「核兵器のない世界に向けた日本の役割」が、広島市内で行われました。核兵器廃絶日本NGO連絡会の主催で行われたこの討論会には、国会より8の政党の代表者、有識者として藤原帰一東京大学名誉教授、ユース代表の田中美穂カクワカ広島(核政策を知りたい広島若者有権者の会)共同代表が参加しました。この討論会は、新型コロナウィルス感染症対策のため無聴衆で行われました(討論会の録画はYouTubeで視聴可能です)。
去る6月には、核兵器禁止条約の第1回締約国会議がウィーンで行われました。8月1日からは、第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議がニューヨークの国連本部で行われています。そして広島は、77回目となる原爆の日を迎えます。こうした状況の中、核兵器のない世界の実現に向けて、日本がどのような役割を果たすべきかが問われています。5回目となる本年の国会議員討論会では、3つの課題が提示されました。
- 核兵器禁止条約―第1回締約国会議の成果と第2回会議(2023年11月)への課題
- 核不拡散条約(NPT)再検討会議―8月に開催中の会議における日本の役割
- G7広島サミット(2023年5月)―サミット開催を核兵器廃絶につなげるために
核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事の渡部朋子さん(ANT-Hiroshima理事長)の司会で行われた討論会では、3つの課題をめぐって各党から活発な意見が出されました。以下、討論会の概要を速報します。【文責:河合公明(核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事)/ 浅野英男(核兵器廃絶日本NGO連絡会事務局)】。
渡部朋子 核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事
ロシアによるウクライナ侵攻と核兵器使用の脅しが世界を変えた。「核兵器を絶対に使わせてはならない」、「同じ苦しみを他の誰にも味あわせてはならない」という被爆者の悲願を達成するためには、核兵器廃絶しかない。8月6日を前に、核兵器の非人道性を改めて想起するとともに、核兵器のない世界に向けた今日の課題、日本が果たすべき役割について議論していきたい。
藤原帰一 東京大学名誉教授 / ひろしまラウンドテーブル議長
核兵器の問題を考える際には、様々なアプローチが存在する。1つは、核兵器禁止条約に代表される核の非人道性に着目する「人道的アプローチ」だ。もう1つは、核兵器に依存する安全保障から核兵器を必要としないそれへと変えていくために緊張緩和を目指す「ステップ・バイ・ステップ」(step by step)アプローチだ。歴史上大きな成果があったのは、米ソ冷戦後の中距離核戦力全廃条約や戦略兵器削減条約などだ。2つのアプローチは相反するものではないと念を押しておきたい。
核に頼る平和の問題は、抑止は破綻しうることにある。核兵器は、通常兵器による戦争を抑止できない。核兵器で脅しあう安定は不確実である。つまり抑止は二重に破綻する。前者の典型がロシアによるウクライナ戦争である。核兵器を盾に使って通常戦争をするということである。
米ソ冷戦後、核兵器の削減は進んだが、それは核兵器を作りすぎた国が減らしたにすぎず、他の国による核兵器の開発は続けられてきた。その中でも我々にとって大きな課題は、米ロの核軍縮が止まったことだ。さらに中国が核軍縮の協議の中に入っていないことである。そこにウクライナ侵攻が起こった。
私は核兵器禁止条約の目標を共有している。ただし日本が批准すれば核兵器がなくなるという考えはまだとれない。なぜなら核保有国と核の傘に依存する国がまだ参加していないからである。核の傘のもとにある国や核保有国が、核兵器禁止条約の締約国と核兵器をなくす手順について協力していく共同作業を始めなければならない。そこにオブザーバー参加の意義があった。核兵器禁止条約は、NPTでは核の削減が進まないことにより生まれてきたと理解している。ならば、NPTが履行されることが重要である。
長岡義夫 原爆小頭症被爆者と家族の会(「きのこ会」)会長
原爆小頭症とは、妊娠早期の胎児が母親のおなかの中で被爆したことで起こる原爆後障害のひとつである。強力な放射線を浴びることで、知的障害や内臓疾患などの障害を持って生まれてきた一番若い被爆者である。私は被爆2世で、兄が体内被曝をした原爆小頭症である。
戦闘から最も遠い存在である胎児を傷つける兵器が、平和を守ることができるはずがないと思う。広島に原爆が投下されてから77年。広島の街は復興を遂げた。しかし、原爆が残した傷は、今も私たちを苦しめている。核兵器の廃絶こそが、私たち「きのこ会」の願いである。
川下ヒロエさん(原爆小頭症被爆者)
私が描いた絵を持参しました。ご覧ください。
自民党 宮澤博行(衆議院議員)国防部会長
私は静岡から参加した。第5福竜丸の母港は焼津港だ。地元には浜岡原発もある。いろいろな意味で原子力に関わっている。今日は現実的な話もしながら、なるべく本音で話したい。ウクライナ戦争で核兵器がクローズアップされてしまった。藤原先生からは、核によって通常戦争は抑止できないという話があった。プーチンにとって見ると、ロシア国内への攻撃は核の威嚇によって止められたと見ることもできるかもしれない。北朝鮮も核兵器を保有している。それにより核以外の通常戦争をとどめている。核に頼る均衡が世界に生まれている。非常によろしくないことだ。だから現実のアプローチが必要だ。そのためにNPTをどう活用するか。だから通常戦力の安定の上に核兵器の削減をと考える。
公明党 山口那津男(参議院議員)代表 [第一部のみ]
ロシアによる核兵器使用の威嚇、核の小型化、運搬手段の進化など、核兵器の使用を前提とした「第3の核時代」に入ったと指摘する専門家もいることから、核兵器不使用の継続の重要性を国際社会で共有することが必要である。第一回締約国会議に浜田議員を派遣した。そこで確認したことは、核兵器禁止条約とNPTは相互補完的な関係にあること。被害者支援や環境修復は日本が特に貢献でき、他国からの期待も高い分野であることである。公明党は核兵器禁止条約の科学的諮問委員会への日本有識者の採用を目指す。第2回締約国会議に日本がオブザーバー参加できる環境の整備にも取り組む。NPT再検討会議での岸田首相の提案、特にCTBTフレンズ会合の首脳級での開催やユース非核基金創設の提唱を高く評価する。
立憲民主党 泉健太(衆議院議員)代表 [オンライン]
急遽、対面で参加できなくなったことをお許しいただきたい。ロシアのウクライナ侵攻で、核による威嚇という許されないことが起きてしまった。北朝鮮による頻繁なミサイル発射、核実験の兆候もある。核兵器をめぐる状況は、格段に悪い状況にある。その中でICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の努力があった。ウィーンで第一回締約国会議があった。我が党も代表を派遣した。勇気づけられたのは、保有国のイギリスやフランスからも国会議員が参加していたことだ。議員のネットワークを生かすことが重要だと改めて認識した。核兵器は使えない兵器であり、通常兵器による紛争を止める兵器にはならないと考える。核保有国の核削減に取り組まねばならない。ウクライナの戦争があるからと言って、我が国が核共有をするということは、とるべき道ではない。このことを各政党で確認すべきだ。NPT再検討会議で、岸田総理が演説したことは評価に値する。しかし我が国には、被爆国として保有国と非保有国を繋ぐという、我が国にしかできないことがある。演説の中では、核兵器禁止条約には言及すべきであった。G7の際には、単なる共同宣言ではなく、具体的なアプローチが始まるスタート地点に立たねばならなない。
日本維新の会 藤田文武(衆議院議員)幹事長
核兵器のない世界という理想は共有している。ただし、理想と現実をどう突き合わせ、前に進むのかという難問も存在する。ロシアによるウクライナ侵攻によって核兵器国は非核兵器国を攻めないという前提を崩された。北朝鮮もアメリカ本土に到達可能な大陸間弾道ミサイルを保有している。このような現実と理想を考えると、核保有国に核兵器を使わせない、さらに言えば、核保有国に対する交渉力を上げて、その意思決定を動かしていく必要がある。
日本共産党 志位和夫(衆議院議員)委員長
NPT再検討会議の岸田演説には、日本政府の2つの問題点が現れている。1)首相は、核兵器禁止条約に一言も触れなかった。6月の第一回締約国会議は、ウィーン宣言を採択して大きな成果を収めた。その会議には、米国の同盟国であるドイツ、ノルウェー、ベルギー、オランダ、オーストラリアもオブザーバー参加した。それは、核兵器禁止条約が無視し得ない世界の現実であることを示している。その重要な会議に、唯一の戦争被爆国の政府が参加せず、NPTでもその核兵器禁止条約に一言も触れない。それで橋渡しができるのか。私たちは、核抑止の呪縛を脱し、核兵器禁止条約を批准することを強く求める。2)核保有国に核軍縮の誠実交渉を義務付けるNPT第6条に一言も触れなかった。2000年の再検討会議では核兵器の完全廃絶の明確な約束、2010年の再検討会議では核兵器のない世界を達成し維持するための必要な枠組みについて、全会一致で確認した。日本は自らも賛成したNPTの合意を再確認すること、とりわけ核保有国にそれを強く求めるべきだ。
国民民主党 玉木雄一郎(衆議院議員)代表
党綱領には核廃絶を明記している。ロシアによる核使用の脅しなど、核の脅威が高まっている中で、どう現実的な核軍縮を進めるか。1つ目は、ステップ・バイ・ステップでどう核兵器に頼らない抑止を実現していくかを議論する必要がある。攻撃型ドローンやサイバー兵器など、より安価かつ効果的な手段を持つことで、核保有に経済的・戦略的な有効性がなくなれば、核保有国も核軍縮に合意していけるのではないかと考える。2つ目は、 唯一の戦争被爆国として、核の実相を伝えていく責務がある。核兵器禁止条約へのオブザーバー参加など、国際的な場で言い続けることが重要である。3つ目に次の世代を担う若いリーダーの育成と交流に積極的な役割を果たすべきである。
れいわ新選組 櫛渕万里(衆議院議員)
れいわ新撰組は、核廃絶の先頭に立つことを公約に掲げている。唯一の戦争被爆国として直ちに核兵器禁止条約を批准し、核なき世界の先頭に立つことによって、地域の安定をリードすべきだ。その実現の第一歩として、私は6月の締約国会議に参加した。参加しての実感は、1)核兵器のない世界はもはや抽象論ではないということだ。核兵器禁止条約の成立によって、核兵器そのものが違法になった。法規範として動き出している。2)ウィーンは、ウクライナから地続きで1000キロほどのところにある。そこから出されたメッセージは、核抑止は間違いである。安全保障政策として正当化できないというものだ。しかし日本では、核共有や核抑止の強化という議論が出ている。ウィーンの国会議員の集まりでそのことを伝えると、驚きと非難を持って受け止められ、採択された国会議員による声明には、真剣に憂慮の意が表された。日本の一部の政治家に伝えたい。そうした考えは憂慮されている。オブザーバー参加を拒否した岸田総理にも伝えたい。橋渡しを口では言っているが、NPT再検討会議でも一言も核兵器禁止条約に触れない。どこまで本気なのか国際社会でも疑われている。国際社会とのネットワークで、国会で早期批准を求めたい。NATOの加盟国でありながらオブザーバー参加したオランダでは、議会で決議して参加するという民主的プロセスを踏んでいる。核兵器禁止条約を推進する議員連盟を立ち上げたい。それをここにいる各党に呼びかける。
社会民主党 福島瑞穂(参議院議員)党首
核と人類は共存できない。核抑止論は虚構である。核抑止論を認めるのであれば、全ての国が核を持つことを阻止できないはずである。ウクライナ侵攻は、核兵器の保有が抑止どころか開戦の後押しになってしまった。そこから学ぶことは、核兵器も原発も廃絶すべきということである。岸田首相が言うように橋渡しをするのであれば、核兵器禁止条約に批准し、せめて締約国会議へオブザーバー参加すべき。NPTで核保有国に軍縮を強い姿勢を示すべきであるし、アメリカの核兵器の役割低減策にも賛同すべきである。核兵器への投資引き上げも進められている。市民社会の力で核兵器の廃絶・批准に向けて取り組んでいきたい。
田中美穂 カクワカ広島(核政策を知りたい広島若者有権者の会)共同代表
カクワカの活動の中で、核廃絶は理想だと言われてきた。ステップ・バイ・ステップの考えを理解した上で、核兵器禁止条約の批准を訴え、広島選出の国会議員に意見を聞いてきた。私たちが核兵器禁止条約を推す理由としては、日本に住むものとして広島、長崎は知っているが、グローバルヒバクシャや原爆小頭症といった、世界的にフォーカスされて来なかった被害に対して、人権に対して向き合っている姿勢を見せたところだ。それが核兵器禁止条約の素晴らしいところではないかと思う。核実験の被害について、国会議員の中でも述べられることが少ないことを憂慮している。
宮沢さん、核兵器禁止条約に対する評価がなかったのが残念だった。岸田首相のNPTにおける演説でも、核兵器禁止条約に言及がなかった。避ける姿勢では核廃絶はできない。条約の評価を聞きたい。山口さん、自民党と連立を組む公明党は、自民党との整合性をどうとっているのか。CTBTを評価する発言があった。CTBTは未臨界核実験を禁止していない。それへの対応はどうか。泉さん、核兵器禁止条約について立憲民主党としてどう進めるのか。藤田さん、核保有国に対して日本の交渉力を上げるという指摘はその通りだと思う。具体的にどうすれば交渉力が上がるのか。志位さん、岸田首相の演説の問題点を指摘していた。NPT第6条に触れていなかったとの指摘は重要だと思った。共産党として、どう核兵器のない世界を実現するのか。玉木さん、若い人の人材育成は重要だが、日本が(核兵器の問題に)どう向き合うかを発信するのかが一番重要だと思う。若い人を育てるのはある意味で簡単だ。日本として、国民民主党としてどういう姿勢で向き合うのか。櫛淵さん、超党派の動きの実現可能性はどの程度あるのか。福島さん、地雷やクラスター爆弾への言及があった。社民党として、核兵器の廃絶を具体的にどう求めていくのか。
自民党 宮澤博行(衆議院議員)国防部会長
核兵器禁止条約参加を求める声はわかる。多くの国民の声もそうだと思う。核兵器禁止条約に参加した場合は、逆に条約が有名無実化するのではないかと思う。条約の第1条は核抑止を否定している。その条約に加盟して核抑止に頼るとなると、条約の精神そのものがどうかなってしまう。だから現実的には、NPTを進めていく方が核廃絶には近道だと考える。
公明党 谷合正明(参議院議員)党核廃絶推進委員会委員長
自民党とそれぞれ意見が異なる部分もあるが、日本国内の政治の中において公明党は橋渡しをする役割があると考えている。政府には、NPTとの補完性と、被害者支援や環境修復への参加は可能という点について、説得していく。CTBTについても、それだけで全てが盛り込まれていなくても、一つ一つを前に進めていくことが重要だと思っている。
立憲民主党 泉健太(衆議院議員)代表 [オンライン]
カクワカの活動は同僚から聞いている。核兵器禁止条約を日本が批准することには、道のりがある。まず、オブザーバーで参加するということ、日本として、禁止条約に取り組む国々対する敬意、共感そのための支援活動が行われるべきだ。立憲民主党が議席を増やせばその道が開ける。全議員に働きかけをしたいのであれば、そのサポートしたい。条約参加はすぐには難しいかもしれない。安全保障に関する記述の問題もある。しかし、日本としてどういうアプローチができるかについては、全体会合以外の機会にも、様々に取り組めるはずだ。党として提案したい。
日本維新の会 藤田文武(衆議院議員)幹事長
核保有国の意思決定を動かすのは難しいことである。われわれの安全保障および経済的な力をつけることが重要である。核兵器の地上配備というNATO型の核共有は時代遅れだ。そうではなく、作戦や意思決定、責任を共有する。それがアメリカの情報開示を求めることに繋がる。このようにして相手の意思決定に関わり、影響を及ぼしていくという戦略的な行動が求められる。
日本共産党 志位和夫(衆議院議員)委員長
質問をしっかりと受け止めないといけない。どうすれば核兵器のない世界に進むか。核抑止という考えを乗り越えることがどうしても必要だ。核抑止は、いざというときには核兵器を使用することだ。広島、長崎のような非人道的惨禍を引き起こすこともためらわないことが前提になった議論だ。ウィーン宣言は、核抑止論は核兵器が実際に使用されるという脅威に基づいており、その誤りをこれまで以上に浮き彫りにした。核兵器の非人道性には、日本の政治家には共通認識があるはずだ。非人道性は核抑止と両立しない。どうやって乗り越えるか。それは草の根の運動だ。長年の頑張りで条約を作った。それを広げることだ。
国民民主党 玉木雄一郎(衆議院議員)代表
岸田総理が提唱した基金は良いアイデアであり、支援していきたいと思う。若い世代が、もっとたくさんの人が触れられるような形で情報を発信したり、翻訳をつけて世界にも発信したりすることで、若い人の関心を高めて、より多くの人と共に歩むようなムーブメントを大きくしていってほしい。
れいわ新選組 櫛渕万里(衆議院議員)
れいわ新撰組は、超党派の核兵器禁止条約早期批准を求める議連の呼びかけをすることを決定した。9月末から10月にかけて、次の臨時国会で各党に呼びかける。締約国会議の報告会を提案したり、勉強会も進める。さきほど、核の傘の国のもとにいる国が民主的なプロセスでオブザーバー参加したことを紹介した。核兵器禁止条約の重要な特徴は、ヒバクシャや若者、市民社会が世界中にうねりが起こして具体的なプロセスが始まったことだ。ここで、立法府の役割が重要だ。日本でも市民社会や若者、被爆者と議連が繋がることで、立法府から行政府に対して声を上げるプロセスを作りたい。先ほど維新から、意思決定をするために核共有をという話があった。ウィーンで、核の傘のもとにある国の議員からあった発言を紹介したい。核兵器が共有されることはあり得ない。核保有国の核が押しつけられて配備される国の側には、何の権限も与えられないのが核共有の原則だ。
社会民主党 福島瑞穂(参議院議員)党首
まずは、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバーとして参加することが重要だと思っている。今回も核の傘のもとにある国が参加した。この意義は大きい。この動きがどんどん広がるようにしていくとともに日本も次はせめてオブザーバー参加するようにすべき。市民社会の声を高めて、核抑止論ではなく、核廃絶に踏み出すべきだという世論も拡大したい。核共有や核武装論では、沖縄に核が配備されるのではないかと危惧する声もある。核兵器禁止条約に批准し、広島・長崎を繰り返さないために若い世代と力を合わせて取り組んでいく。
藤原帰一 名誉教授
NPTと核兵器禁止条約の話も重要だが、基礎となっている危機感がまるで違う。今は、核兵器の役割が増えているだけでなく、実戦使用の可能性が現実の問題としてある。核兵器の実戦使用を阻止するのは大変難しい。現在は戦争の真っ只中であり、エスカレーションを阻止すること、侵略者が大きな利得を獲得すること、この両者を排除するがいかに難しいか。そこに目を向けていただきたい。
ロシアによる侵攻が続いているという現実を前に、核共有やそれによってアメリカの意思決定を透明化するという考え自体にガッカリした。
私は抑止には賛成だが、核抑止には反対だ。通常兵器による抑止は、核抑止より不安定である。したがって、抑止力と緊張緩和がセットでなければ問題は解決しない。その緊張がまるでないところで、中国を想定した議論をしてほしくないし、ロシアを議論から外すこともしてほしくない。核使用がされる現実の可能性がある中で、広島と長崎が繰り返されるかもしれないという危機感がある。
核の傘のもとにある国が、核の傘を信用しているわけではない。だから核抑止に頼らない安全保障をどう実現するかは具体的な政策の問題である。オブザーバー参加は、それによって核兵器廃絶の具体的なプロセスを作っていくことができる。ステップ・バイ・ステップというのは、将来に先延ばしすればいいということではない。私たちが直面している現実がいかに酷く厳しいものか。そこから議論を始めなければならない。核戦争に至らない環境をどのように具体的に作り上げていくのかが問われる。
渡部朋子 NGO連絡会幹事
核被害はまだ終わっていません。今日きのこ会の皆さんが語ってくださった「現実」を前に、核兵器が日本を守るのか、世界の子どもたちの未来を奪うことにならないのか。それを真剣に考えていただくために、この会を開いた。ここからが議論すべきところである。ヒバクシャの現実に向き合って政策を考えて欲しい。
足立修一 核兵器廃絶日本NGO連絡会共同代表(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会代表)
核兵器廃絶に向けて、国際司法裁判所が勧告的意見において全員一致で認めたNPT第6条の核軍縮を完結する義務に着目してほしい。被爆国である日本が核軍縮を完結すべきであると主張することを世界は期待していると思う。最低でも、核兵器は使用してはならないという合意を今回のNPT再検討会議でしてほしい。岸田首相は核兵器禁止条約について、「核兵器のない世界への出口」ともいえる「重要な条約」と述べている。この方向に向かって議論を深めていただきたいし、私たち市民でも議論を深めていきたい。
写真撮影:中奥岳生
この討論会の模様は、以下のメディアで報道されています。
朝日新聞「核禁条約会議「広島で与野党が討論 核禁条約オブザーバー参加は 核共有に言及も」2022年8月6日
中国新聞「核廃絶へ 日本の役割は 与野党8党の幹部 広島で討論」2022年8月6日
RCC中国放送「「日本の役割は…」核兵器のない世界に向け 政党党首らが討論会」2022年8月9日