【声明】NPTが停滞しても、私たちは前進する
このたびのNPT再検討会議の結果を受けて、核兵器廃絶日本NGO連絡会は本日8月29日、以下の声明を発表しました(PDF版はこちら。英語版はこちら(English here))。これを踏まえて、本日13時から記者会見を行います。
NPTが停滞しても、私たちは前進する
――再検討会議の決裂を受けた核兵器廃絶日本NGO連絡会の声明ーー
2022年8月29日
会議を決裂させたロシアを非難する
第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議が決裂に終わったことについて、私たちは、深い失望と強い憤りを禁じえません。核戦争の回避を前文でうたったNPTは、まさに世界が核戦争の淵に立たされているときに、何ら具体的な成果を上げることができませんでした。
NPT上の核兵器国であり国連安保理常任理事国であるロシアが、国連憲章に違反して、核の威嚇を背景に、非核兵器国であるウクライナへの侵略戦争を続けています。その中で、原子力発電所が核惨事を引き起こす可能性や、戦争が核戦争へとエスカレートする危険性が、現実のものになっています。
今回の再検討会議では、こうしたロシアの行為への非難が相次ぎました。それでもロシア政府は、自らの行為を正当化し続けました。そして、交渉の末つくられた最終文書案への合意を拒み、会議を決裂させたのです。私たちは、このようなロシア政府を強く非難します。
核兵器国5カ国の不誠実と傲慢
しかし同時にこの再検討会議で浮き彫りになったのは、核兵器国5カ国すべてが第6条の定める核軍縮の義務に真剣に向き合おうとしないその不誠実さです。1995年のNPT無期限延長決定にあたって核兵器国は、究極的な核兵器廃絶の目標に合意しました。2000年には、核兵器廃絶を達成するという「明確な約束」をしました。2010年には、そのための行動計画に合意しました。しかし核兵器国は、核軍縮にまったく誠実に取り組んでいません。こうした核兵器国の態度が、今回のNPT再検討会議が失敗に終わった根本的な原因です。
会議の中では、核兵器の先制不使用や、核兵器の使用・威嚇を行わないという非核兵器国への保証、また、核兵器の材料となる核分裂性物質の生産停止といった重要な提案がなされましたが、核兵器国はこれらをことごとく拒絶しました。
最終文書案では、過去の核軍縮合意は再確認されているものの、それより一歩も先に出ないという核兵器国の姿勢が明らかです。核兵器国5カ国の姿勢はきわめて傲慢といわざるをえません。NPTがこの12年間何ら実質的な進展のないまま足踏みしている状況を、私たちは受け入れることはできません。
核兵器禁止条約という希望
その一方で、2010年のNPT再検討会議以降広がった核兵器の非人道性を訴える国際的な運動は、2017年に核兵器禁止条約の採択へと結実しました。今年6月には同条約の第1回締約国会議が開かれ、力強い政治宣言と50項目の行動計画を生み出しました。
核兵器国は、こうした運動を嫌い、核兵器禁止条約を敵視してきました。それでも多くの国々や市民社会がひるまずに運動を続けた結果、今回のNPT再検討会議の最終文書案には、核兵器の非人道性に関する多くの記述が残りました。核兵器禁止条約に関する記述も残りましたが、核兵器国からの圧力によって、この条約の意義に関する記述は盛り込まれませんでした。
それでも、ここには希望があります。NPTが機能不全に陥っている今、核兵器を絶対悪と定めた核兵器禁止条約への参加と支持を拡大する必要があります。そうした国際世論で核兵器国や核依存国を包囲していかない限り、2026年開催が予定される次回NPT再検討会議でも、また同じことがくり返されます。
日本の課題
今回、日本政府が果たした役割は最小限のものでした。岸田首相自身が会議に参加したこと、世界の若者の被爆地訪問を含む軍縮教育のイニシアティブを表明したこと、核兵器の非人道性に関する147カ国の共同声明に名を連ねたことは評価できます。しかし、たとえば、核の先制不使用の提案に同盟国として賛成を表明することはありませんでした。自らの核兵器依存をなくしていこうという姿勢はまったく見られません。
日本の私たちはまた、今回の再検討会議でくり返し指摘された福島の原発事故の処理汚染水の問題や、原発への武力攻撃の問題を真剣に受け止めなければなりません。また、オーストラリアの原子力潜水艦導入について保障措置との関連で重大な懸念が表明されたことについても留意する必要があります。日本が大量保有するプルトニウムの問題も、引き続き重大な懸念事項です。
核依存から脱却せよ
核兵器の脅威は、全人類の生存がかかった喫緊の課題です。日本政府は「核兵器禁止条約には核兵器国が入っていないから参加しない。核兵器国が入っているNPTの下で核軍縮を進める」と説明してきました。しかし、NPTだけでは核兵器のない世界が実現しないことはもはや明らかです。
核兵器国や核依存国が、核兵器の使用・威嚇を前提とした核抑止政策を続ける限り、核兵器廃絶は達成できません。核兵器を「保有する権利」や「使用する権利」を主張する国々の身勝手を許してはいけません。日本は核兵器禁止条約に参加し、ヒロシマ・ナガサキの経験を出発点にして、核兵器そのものを許さない国際的な包囲網に加わるべきです。
平均年齢が84歳を超える広島・長崎の被爆者は、生きているうちに核兵器廃絶をと訴えてきました。私たちは日本政府に対して、被爆者の声をしっかりと受け止め、直ちに政策転換して核兵器依存から脱却するよう求めます。
核兵器廃絶日本NGO連絡会
共同代表
足立修一(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会代表)
伊藤和子(ヒューマンライツ・ナウ副理事長)
大久保賢一(日本反核法律家協会会長)
川崎哲(ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員)
田中煕巳(日本原水爆被害者団体協議会代表委員)
朝長万左男(核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員長)
この声明のPDF版はこちら。英語版はこちら(English here)。
関連声明
2022.8.29 日本被団協の声明
2022.8.29 広島被爆者7団体の声明