2023TPNWレポート1ー核兵器禁止条約第2回締約国会合の議題と議論
はじめに
2023年11月27日から12月1日まで5日間に渡り、核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会合(2MSP)がニューヨークの国連本部において開催されます。TPNWの締約国会合は、「条約の適用または実施に関する問題」だけでなく、「核軍縮のための更なる措置」について検討し、決定する場です(条約8条)。
2022年6月にウィーンで開催された第1回締約国会合においては、宣言、ウィーン行動計画及び4つの決定が採択され、TPNWの運用が開始されました。
今回の2MSPでは、前回会合で採択された行動計画に基づく取り組みをさらに前進させるために今後どのような措置をとるかを議論することになります。
第1回締約国会合では、同会合での合意をさらに議論し、前進させるために、2MSPまでの間に活動する会期間メカニズム(非公式作業部会や非公式ファシリテータ、ジェンダー・フォーカル・ポイント)も定められました。2MSPでは、これらの機関からの報告と勧告についても討議されます。
本稿では、これらの報告と勧告の内容をもとに、2MSPにおける主要なアジェンダを紹介します。
主要なアジェンダ
すでに、上記の機関からの報告書や締約国からの作業文書、NGOからの文書が提出されており、2MSPの議論の骨格が明らかになってきました。
以下では、公表されている暫定アジェンダ(TPNW/MSP/2023/1)とタイムテーブルに基づき、主要なアジェンダについて紹介します。
核兵器の人道上の影響
初日(11月27日)午前のハイレベルセッションに続き、同日午後から2日目(28日)午前にかけては、「核兵器の人道上の影響」をテーマとした討論が、専門家によるパネル討論とこれへの出席者からの質疑応答という形式で行われます。このテーマ設定と運営形式は、2013年以来4回に渡り核兵器の人道上の影響をテーマとして開催されてきた、いわゆる「核兵器の非人道性に関する国際会議」と同じであり、これを2MSPの中に組み込んだものと見ることもできます。TPNWの締約国会合には出席しないが、こうした非人道性の会議には出席してきた諸国がどのように対応するかも注目されるところです。
なお、これに関連して、会期間メカニズムを構成する科学諮問グループからは、核兵器とそのリスク、核兵器の人道上の影響、核軍縮と関連問題を取り上げてその現状と展開状況をまとめた報告書(TPNW/MSP/2023/8)が提出されています。
一般討論
2日目(28日)午後から3日目(29日)午前にかけては、一般討論が予定されています。その後、後述するように個別のアジェンダの審議へと移りますが、一般討論では、この個別アジェンダで扱われない問題、つまり、核兵器の使用・威嚇の禁止や核抑止といった、条約1条の禁止に関わる問題につき、出席国がどのような見解を表明するかが注目されます。
第1回締約国会合で採択された「宣言」では、核兵器の使用・威嚇を明確に非難し、核抑止を誤りと断じ、核使用のリスクが高いことを指摘し、核兵器の存在が共通の安全保障を損ない、われらの存在を脅かしているとしました(パラ4〜6)。他方、同会合にオブザーバー参加したNATO諸国は、核抑止に依拠するNATO加盟国としてはTPNWに参加できないことを明言していました(ドイツやノルウェー)。
このような見解対立は、NPTでも繰り返されています。このような対立状況について、今回、オーストリアが作業文書(TPNW/MSP/2023/WP.9)を提出しています。条約の普遍化という観点からですが、同国は、今後の課題として、①TPNWに規定される、核兵器と核抑止力に由来する正当な安全保障上の懸念、脅威及びリスクの認識をどのようにより適切・明確に表現するか、②核兵器の人道上の影響とリスクに関する新たな科学的証拠に加えて、核抑止に内在するリスク・前提を併記することで、いかにして核抑止に基づく安全保障パラダイムに挑戦する議論を発展させるかという2点を提起し、この議論を進めるためのコーディネーターの任命を提案しています。
条約の普遍性(12条)
3日目(29日)の午後には、2条に基づく申告についての検討の後に、条約の普遍性(12条)が議論されます。条約12条は、締約国に対して、すべての国による条約への普遍的参加を目標として非締約国に働きけることを義務づけており、第1回締約国会合ではこの問題を検討する非公式作業部会が設置されています(マレーシアと南アが共同議長)。2MSPに提出された同共同議長の報告書(TPNW/MSP/2023/2)では、会期間の活動を要約するとともに、新たに署名・批准国数が増加したとの成果が記載され、さらに2MSPに対して、ウィーン行動計画の行動1〜4の継続的な実施、特に各締約国の活動報告とその公表を奨励するよう勧告しています。また、この作業部会の共同議長の任務の更新も求めています。
核兵器の廃絶に向けて(4条)
4日目(30日)の午前は、核兵器の廃絶に向けた措置についての条約4条の問題がテーマとなります。これについての非公式作業部会(共同議長メキシコとニュージーランド)の報告書(TPNW/MSP/2023/7)では、会期間での活動をまとめるとともに、更なる作業の継続が必要だと指摘しています。当面、核保有国や核の傘に依存する国がTPNWの締約国とならない現状では、このテーマは科学諮問グループの支援を受けつつ、丁寧かつゆっくりと検討が進められていくものと思われます。
被害者援助、環境修復及び国際協力・援助(6条、7条)
続いて同日午前に議論されるこのテーマには、多くの注目が集まっており、提出されているNGO文書の多くがこの問題を扱っています。TPNWは、核使用・実験の被害者が自国の管轄下にいる締約国や汚染地域を管轄する締約国に、被害者援助および環境修復修復を行う義務を課しており、カザフスタンなどの対象国が締約国である現状から、この問題への対応は喫緊の課題となっています。ウィーン行動計画では、核使用・実験の影響を受けている締約国はその影響の初期評価を報告することとなっており、実際、カザフスタンは報告書を提出しました(TPNW/MSP/2023/10)。どれだけの締約国が報告を行うかは1つの注目点です。この問題についての非公式作業部会の報告書(TPNW/MSP/2023/3)では、その活動を報告するとともに、2MSPに対していくつかの決定を行うよう勧告しています。まず、非公式作業部会の任務を更新し、影響を受けている締約国には国内計画を完成・発展・実施することと、援助を提供できる締約国には国際協力・援助を提供するよう奨励すること。ついで、各締約国に、この問題についての自発的報告を求めることを勧告しており、具体的な報告事項と報告フォーマットも提案しています。さらに、国際信託基金について、引き続き作業部会で集中的に討議し、次回の締約国会合までに同基金のための指針を提出することも求めています。
市民社会からは、NGO文書を通じて、非締約国にいる被害者の声も提起されており、被害者援助・環境修復のあり方が、どのように構築されるかに注目が集まっています。
補完性
4日目(30日)午後に国内実施措置(5条)、科学的助言の制度化、会期間制度の問題が扱われた後に、5日目最終日(12月1日)午前には、TPNWと現行の核軍縮・核不拡散体制との補完性の問題が議論されます。第1回締約国会合のウィーン行動計画では、TPNWが多様な軍縮・不拡散の基本構造を基礎とし、これらを補完するものだと明記しており(パラ11)、同会合では、この問題を探究・明確化していくための非公式ファシリテーター(アイルランドとタイ)が任命されました(決定3)。同ファシリテーターの報告(TPNW/MSP/2023/5)では、2MSPに対して①会期間作業の歓迎。②ウィーン行動計画(行動35~38)の継続的な実施、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、国際原子力機関(IAEA)、国連安全保障理事会が設置した1540委員会、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、人道諸機関、非核兵器地地帯の各機関との協力の継続・拡大、③科学諮問グループとの協力、④非公式ファシリテーター、締約国、非締約国との対話・協議の奨励、⑤補完性の他の側面(ジェンダー、環境、被害者援助、人権等)の探究、⑥会期間メカニズム内の協力の奨励、⑦非公式ファシリテーターの任務の更新の7点を勧告しています。
ジェンダー
これに続き、同日午前には、ジェンダーの問題も議論されます。第1回締約国会合のウィーン行動計画では、TPNWにおけるジェンダー関連規定を踏まえた条約実施の必要が確認されていました(パラ13)。これを受けて、ジェンダー・フォーカル・ポイントとして任命されたチリは、2MSPに報告書(TPNW/MSP/2023/4)を提出し、会期間での活動を報告するとともに、①会期間作業の歓迎、②ウィーン行動計画の行動47~50の継続的な実施の奨励、③次のフォーカル・ポイントの任命、④他の軍縮条約におけるジェンダーに配慮した被害者援助の指針とジェンダーの視点の組み入れ方の検討、⑤影響を受けている地域社会、女性等へのアウトリーチと被害と援助のニーズの多様性への理解の深化、⑥女性への核兵器の影響に関する情報の開拓と科学諮問グループとの協力の拡大の6点を勧告しています。最後の点については、会期間の作業でも、核兵器の女性への影響は大きいが、その原因が明確でないことが指摘されているという背景があります。
おわりに
5日目最終日の午後には、信任状の問題を処理した後、第3回締約国会合に関する事項(議長の指名、期日・場所の決定)につき決定し、最後に最終文書が討議・採択される予定です。
2MSPの議長からは、次の会期間メカニズムについての提案がなされており(TPNW/MSP/2023/WP.2)、現在とほぼ同じメカニズムが次の会期間に継続することが予想されます。また、今回実施されたテーマ別討論の仕組みを継続するための提案も議長から提起されています(TPNW/MSP/2023/WP.3)。
TPNWの締約国会合では、条約実施で問題となることだけが議論されるわけではありません。はじめにで述べたように、「核軍縮のための更なる措置」について検討し、決定する場でもあります。核不拡散条約(NPT)における議論の停滞を背景に、TPNWの場で、核軍縮を進める議論がどのようになされるかにも注目していきたいと思います。
山田寿則(明治大学)