
【2025NPTレポート】クラスター1:核軍縮をめぐる日本の発言
アメリカ・ニューヨーク国連本部で開催されているNPT第3回準備委員会では、現地時間5月1日から5月2日にかけて核軍縮などを議論するクラスター1が実施された。今回は石破政権が発足して初のNPT会議であり、核軍縮政策について日本が何を打ち出すのか注目しながら会議を傍聴していた。以下では、クラスター1での日本政府の発言を紹介したい。
クラスター1では市川大使が発言し、核軍縮の「現実的かつ実践的な取り組み」を進めるとして、以下の「鍵となる6つの行動(6 key actions)」を挙げた。
- 核不使用の記録を延ばさなければならないとして、核兵器国は「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とのコミットメントを支持しなければならないと述べた。その点において、核兵器国が核リスクを削減するための意義ある対話を推進するよう奨励した。
- 透明性の向上について、核兵器国による国別報告とそれに関するインタラクティブな議論を含む具体的な措置を2026年NPT再検討会議にて決定できるようあらゆる努力をすることを求めた。この提案は透明性と説明責任に関する軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)作業文書(NPT/CONF.2026/PC.III/WP.30)にて詳述されており、非核兵器国と市民社会を含めた議論枠組みの設立などが提言されている。
- 核軍拡競争を回避すべきであると述べ、ロシアに対して新戦略兵器削減条約(新START)の完全履行に戻るよう求めた。また、米露だけでなく中国を含む「より広範な核軍備管理・軍縮の枠組み」につながる対話の実現を呼びかけた。
- 核兵器の質的拡大に対する制限がかつてなく重要であると述べ、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始の重要性を強調した。また、FMCT発効までの間、関連する全ての国が核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言・維持するよう呼びかけた。ちなみに、5核兵器国のうち同モラトリアムを宣言していないのは中国のみである。
- 全ての国、とりわけ附属書II掲載の未批准国による包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名・批准を求めた。また、CTBT発効までの間、関連する全ての国が核実験モラトリアムを宣言・維持するよう求めた。
- 今年が被爆80年であることに言及しつつ、被爆の実相を普及するためにより一層を取り組むべきであると述べた。また、日本政府は軍縮・不拡散教育に関する95カ国の共同声明を取りまとめ、ノーベル平和賞を受賞した日本被団協を含む被爆者の証言が果たしてきた役割の意義に言及するとともに、軍縮・不拡散教育の積極的な普及を求めた。
上記に加えて、クラスター1特別時間(安全保証)でも発言し、「日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器使用の壊滅的な人道上の結末を十分に認識している。そのような悲劇は二度と繰り返されてはならない」と述べ、核使用の威嚇を控えることや消極的安全保証、非核兵器地帯の創設について意見を述べた。(なお、日本も参加しているストックホルム・イニシアティブは消極的安全保証の強化に関する作業文書(NPT/CONF.2026/PC.III/WP.42)を提出しており、日本の発言でも言及された。)
他方で、国連「核戦争の影響に関する科学パネル」や核兵器禁止条約、核被害者援助・環境修復、核の先制不使用などには言及しなかった。
今回の日本政府の発言は、昨年のNPT第2回準備委員会での発言内容と概ね同じとなっており、岸田前政権が打ち出したヒロシマ・アクション・プランを引き継ぐ形となっている。
昨年とは異なる点の1つとして挙げられるのは、核軍拡競争を回避するために、米露に中国を加えた「より広範な核軍備管理・軍縮の枠組み」につながる対話を求めたことである。こうした日本政府の立場は、近年の外交青書や軍縮関連の国際会議などでも表明されている。
そのような枠組みの追求や核兵器国間の対話を掲げたことは評価できるものの、その前途には課題も少なくない。例えば、上記のような枠組みは、より具体的にどのようなものであるべきか。また、今回の一般討論でも明らかだったように、核軍縮交渉について核兵器国の主張が噛み合わないなか、米露中や他の核兵器国をいかにして対話のテーブルにつかせるのか。新STARTが2026年2月には失効予定であることを考えると、上記のような野心的な枠組みが成立するまでの間に核軍拡競争が進まないよう、短期的にはどのような取り組みが必要なのか、などが少なくとも挙げられるだろう。こうした課題についてより具体的なアイデアやプランを提示していくことが求められる。
市民社会としては、これらの課題について政府の考えや方針の説明、情報提供を求め続けると同時に、それらをもとにしながら市民側からも具体的なアイデアを提供していくことが大切だろう。今回のNPTにおけるNGOセッションでも、多くのNGOが共同で名を連ね、核軍拡競争の防止や今後の核軍縮の方途について様々なアイデアを提案した。これらの議論を日本国内に持ち帰り、東アジアにおける日本の軍縮外交のあり方や日本の核兵器禁止条約参加に向けた議論に活かしていきたい。
核兵器をなくす日本キャンペーン コーディネーター
浅野英男