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2024年07月20日

【2024NPTレポート】作業文書からみるNPT第2回準備委員会

はじめに

 2024年7月22日から8月2日まで、2026年に開催される核不拡散条約(NPT)再検討会議のための第2回準備委員会が、スイスのジュネーブ国連本部において開催される。議長はカザフスタンのアカン・ラクメトゥリン大使である。

 NPT再検討会議のための準備委員会が、再検討会議に先立つ3年前から毎年開催されるようになったのは、1995年の再検討・延長会議での合意による。当初、これら準備委員会の目的は「条約の完全履行と普遍性を促進するための原則、目標及び方法を検討し、かつ再検討会議に対してそれらに関する勧告を行うこと」であり、併せて手続的な準備も行うものとされた(1995年再検討会議の決定1)。その後、2000年の再検討会議では、第1回と第2回の準備委員会では、条約等の実施に関する特定の実質事項を検討した上で、その検討の事実概要を次回に報告することが合意され、第3回についてはコンセンサスによる勧告を再検討会議に提出するようあらゆる努力を払うべきことが合意されている(NPT/CONF.2000/28 (Parts I and II), p. 20.)。したがって、第1回、第2回の準備委員会においては、再検討会議の日程や議長の指名など手続事項での合意はなされるが、核軍縮や不拡散等のNPTの実施に関する問題について、何らかの合意が追求されるわけではない。昨年の第1回準備委員会では、議長が提示した事実概要案に、ロシア等が強く反対したため、これがコンセンサス採択されないどころか、議長による作業文書としても残らなかった(こちらを参照)。表面的には、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる諸国間の対立が影響したように見える。しかし、この議長による事実概要案の内容を見ると、両論併記の部分が多いし、また昨年の会議でも参加各国がこの概要案について様々な意見を述べている(こちらを参照)。2年後の2026年の再検討会議において実質事項についてコンセンサスに至るには、まだ紆余曲折が予想される。

作業文書と国別報告書

 本稿執筆時点で、作業文書が37本、国別報告書が4本提出されている(会議公式サイト参照)。

 核兵器国としては、米国がNPT再検討プロセスの強化(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.4)及び、スイスと共同で核軍縮検証国際パートナーシップ(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.7)に関する作業文書を提出し、フランスは原子力の平和利用に関して3本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.8, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.9 and NPT/CONF.2026/PC.II/WP.10)、包括的核実験禁止条約(CTBT)に関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.37)提出している。中国も、核兵器の先行不使用(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.33)、安全の保証(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.34)、核軍備管理(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.35)及びAUKUS問題(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.36)について計4本の作業文書を提出した。英国は、米国を含む23カ国による「核兵器不拡散条約IV条の下で構想された協力の強化を支援するための平和的利用に関する持続的な対話に関する最新情報」と題する作業文書の共同提出国となった(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.38)。なお、5つの核兵器国はともに、ザンガー委員会のメンバーとして同委員会による作業文書の提出国ともなっている(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.5)。

 非核兵器国としては、新アジェンダ連合(NAC)が核リスクに関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.2)、トラテロルコ条約締約諸国も核リスク低減に関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.14)、カザフスタン、キリバス及びマーシャル諸島が共同で核被害の対処に関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.15)、オーストリア等の核兵器禁止条約(TPNW)締約国・署名国11カ国が核リスク低減に関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.16)、イランが、核軍縮、平和利用、中東地帯及び核使用・威嚇に対する安全の保証に関して計4本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.17, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.18, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.19 and NPT/CONF.2026/PC.II/WP.20)、シリアが核不拡散に関して1本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.21)、非同盟諸国(NAM)が、核軍縮、核実験、非核兵器地帯、平和利用、中東地帯、保障措置、安全の保証及び検証に関して計8本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.22, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.23, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.24, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.25, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.26, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.27, NPT/CONF.2026/PC.II/WP.28 and NPT/CONF.2026/PC.II/WP.29)の作業文書を提出している。

 この他、ストックホルム・イニシアティブ諸国からは、核軍縮措置についての作業文書(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.13)が提出され、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)諸国からは、平和利用の促進及び透明性に関する作業文書が計2本提出されている(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.31 and NPT/CONF.2026/PC.II/WP.32)。WP13は、第1回準備委議長による考察文書(NPT/CONF.2026/PC.I/WP.38)を踏まえたものであり、広範な軍縮措置に言及するものの、これらは「選択肢と勧告」として提示されており、論点出しの側面が強い。WP38は、NPT実施に関する国別報告のためのテンプレートが提案されている点が注目される。いわゆるウィーン問題と呼ばれるCTBT、遵守と検証、輸出管理、平和利用協力、核の安全、核セキュリティ及び脱退問題を扱うウィーン・グループからも作業文書が出ている(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.11)。

 EUは、CTBTと透明性・説明責任に関して計2本(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.1 and NPT/CONF.2026/PC.II/WP.6)を提出し、8カ国と共同でFMCTについても作業文書を提出した(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.12)。

 日本は、軍縮・不拡散教育に関しする作業文書(NPT/CONF.2026/PC.II/WP.3)を単独で提出し、前記WP5、WP12、WP13、WP31及びWP32の共同提出国となっている。

 日本、オランダ、カナダ及びオーストリアはそれぞれ国別報告書を提出している。昨年は米国が提出していたが、今年はいずれの核兵器国も提出していない。

作業文書からみた若干の注目点

 こう見ると核リスクの低減に言及する作業文書が多い。だが、具体的な低減措置については非同盟諸国やTPNW諸国が核兵器の先行不使用などを含む核兵器の役割の低減措置に言及するのに対して、核依存国を含むストックホルム・イニシアティブは危機におけるコミュニケーションに言及する程度であり、役割低減についても議論を推奨するにとどまっている。

 これに関連して中国が核兵器の先行不使用条約の交渉と締結、またはこれに関する政治声明の発表を提案している(WP33)。従来からの主張であるが、今回作業文書として提起しており、一つの論点となるだろう。上述したように、新アジェンダ連合やTPNW諸国、そして非同盟諸国も先制不使用は支持している。中国以外の核依存国からの反応が注目される。

 核被害への対処に関するWP15では、核実験の影響の認識や核実験国による核被害者への援助の責任の認識が主張されている。この問題は、近年、TPNWの中で注目されている。今回会議の議長国であるカザフスタンはキリバスと共にTPNWの枠内で議論をリードしてきた。TPNWに対しては異なる立場をとるマーシャル諸島も共同提出国となっている。非同盟諸国も、NPTでは従来から核実験被害者とその地域の回復の問題を提起してきている(WP23)。昨年の国連総会での関連決議の採択状況を踏まえると、この問題には広範な支持が集まるかもしれない。もっとも、WP15ではこの問題をNPT第6条に位置付けており、核軍縮や核使用・実験国の責任との関係でどのような議論が生じるか注目される。

 核兵器国から軍縮措置についての具体的提案が乏しい中、米国が再検討プロセスの強化について積極姿勢を見せている(WP4)。準備委員会と再検討会議で核兵器国の報告書を検討する仕組みの提案が軸である。透明性と説明責任強化については、EUやストックホルム・イニシアティブ、TPNW諸国、軍縮・不拡散イニシアティブなどが支持している。特に、EUは市民社会の参加に言及している(WP6)。プロセス強化に必ずしもコンセンサスがあるわけではないが、現在よりも市民社会がより深く関与しうるあり方は追求されて良い。

 上記以外にも注目すべき点は多い。この核軍縮をめぐる多様な論点についてどのような議論が展開されるか、注視していきたい。

2024年7月20日午後3時(日本時間)脱稿

山田寿則(明治大学/公益財団法人政治経済研究所)

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