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2024年08月01日

【2024NPTレポート】座談会 ― 核軍縮の議論を総括する

 7月22日(月)から、スイス・ジュネーブ国連事務局にて2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会が開催されています。各国が自国の立場を表明する一般討論演説と核軍縮に関するテーマ別議論を行うクラスター1が7月25日午前(木)までで終了しました。

 そこで、明治大学の山田寿則さん、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の河合公明さん、軍備管理協会(Arms Control Association)の倉光静都香さんの3名をゲストとしてお招きし、NPT第2回準備委員会での核軍縮の議論についてお話していただきました。

浅野:本日は貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございます。この座談会では、本日(現地時間7月26日)までのNPT第2回準備委員会における核軍縮の議論について振り返りながら、皆さんに解説やコメントをしていただきたいと思います。よろしくお願いします。

3名:このような機会を頂戴し、ありがとうございます。よろしくお願いします。

浅野:まず初めに、今回の準備委員会で特に印象に残っている各国の発言ややり取りがあれば教えてください。

河合:日本キャンペーンのウェブ記事としても執筆しましたが、一般討論に先立つ中満国連事務次長・軍縮担当上級代表の発言は重要だと思います。中満さんは「私たちが生き延びられたのは、単純に幸運によるところが大きいことを忘れてはならない。しかし、今日の危険で複雑な地政学的緊張や、核兵器、新技術、新たな紛争領域が急速に交錯している状況では、再び幸運に恵まれることはないかもしれない」と述べました。これは、2年前の第10回NPT再検討会議におけるグテーレス国連事務総長の「我々はこれまで非常に幸運であった。しかし幸運は戦略ではない」との発言を思い起こさせるものでした。

 改めて考えると、核抑止というのは、幸運に支えられた考え、楽観的な見通しにたった議論、あるいは信仰とも言えるものではないでしょうか。たしかに広島と長崎以降、武力紛争で核兵器は使用されてはいません。しかし、今後それが持続可能か、その理論的保証はない。それが1つ目の核抑止の問題点です。

 2つ目の問題点は、核抑止は相手の侵略行為をどう未然に防ぐかということに議論の焦点がある一方で、それが防止できなかった場合の対応について理論的な回答を提供しない。つまり、抑止が破綻した後のことについて答えを持ち合わせていない「理論」です。

 核抑止の「理論」では、抑止が破綻した場合には核兵器を使用することが前提となっています。そこで抑止の失敗について考えなければならないのですが、核兵器が使用されれば生命や暮らし、社会、自然環境といった人々が大切にしているものがどういう事態に直面しうるのか、という問題が生じてくる。この問題は、実は「理論」の外にある問題です。そう考えると、核抑止は無責任な「理論」であるとも言えるのです。

 その問題に正面から議論してきたのが、2013年のオスロ会議以降の核兵器の人道的影響に関する国際会議の一連のプロセスであり、それが2017年の核兵器禁止条約の成立につながりました。核抑止の「理論」の外に置かれてきた重要な問題を提起したのです。それを含めてトータルに安全保障の議論をしましょうよ、と。その観点で、新アジェンダ連合(NAC)の核リスクに関する発言は注目に値すると感じ、日本キャンペーンのウェブ記事でも取り上げました。

浅野:そうですよね。NACの発言では、近年、盛り上がりを見せている核リスク低減の議論について、それはあくまで核抑止を前提にしたものであり、

  • 核兵器の使用の準備、つまり核兵器の使用の可能性が核ドクトリンの本質的な部分であるならば、核のリスクは現実的にどのようにして「安全」と呼ばれるレベルまで減らすことができるのか。
  • 核兵器が存在する一方で、それが使用され、人道上も環境的にも壊滅的な結末をもたらす危険性があることを国際社会が受け入れている中で、「安全」なレベルとはどのようなものなのか。

 といった鋭い問題を提起しました。山田先生はどうでしょうか?

山田:今回の議論では色々な論点があって、答弁権(Right of Reply)行使のところでは、NATOの核共有やブダペスト覚書、イランの核問題などが繰り返し論点になっています。

 それらに注目が集まるかと思うのですが、クラスター1での核兵器国(P5)の発言を聞いていて、安全保障環境と核軍縮との位置付けについてはっきりとした立場の違いが見受けられたことに私は注目しました。ロシアは、NATOの拡大などを指摘して、安全保障環境が変わらないと軍縮は考えられないと繰り返し明確に述べていました。戦略環境が変わらないとダメであると。アメリカやイギリスなどは、厳しい環境のなかでも、何かできることがあるという発言をし、そこから出てくるのが核リスクの低減です。とはいえ、アメリカも、ロシアと中国の出方次第では、我々も(配備核兵器数や核政策などについて)考え直さなければならないかもしれない、とも述べていました。安全保障上の環境と軍縮ができることとのせめぎ合いの中で各国は悩んでいるのではないかという印象を受けました。他方で、そうした安全保障環境の問題から一歩離れた立場の国、例えば非同盟諸国(NAM)やアフリカ・グループは、非核兵器地帯や消極的安全保証などについて発言していました。つまり、お互いに持っている悩みが共通の土俵に乗っていないように思える。その中でどうやって有意義な軍縮措置を作っていくのかを模索しているのだろうと思います。

 様々な立場の違いがありつつも、多くの国がリスク低減の話はしている。NACも軍縮の代替措置にはならないと釘を刺しつつも、リスク低減はやるべきだというところは認めている。そう考えると、大きな流れとしては、リスク低減措置を具体的にどう進めるのかが落とし所になりうるのではないかという印象を持ちました。ただし、中国が(核リスク低減の議論を)P5の中でやりましょうと言っているように、核兵器国中心の議論になっていかざるを得ず、そこに対して非核兵器国が外野から物を言う構図になっているように感じました。

河合:山田先生が言及されたP5について、P5ではこれまで共同声明の発表や用語集の制作に取り組むなど、いざとなれば核兵器の問題について一致団結するところがありました。ウクライナやガザの紛争などを背景に行われている現在のNPTで、P5は一定の連帯感や共通の利益を維持しているのでしょうか?

山田:一応、ロシアなども「核戦争に勝者はなく、戦ってはならない」とのP5声明に言及はするが、P5として共同で何かをやろうとはならないのが現状だと思います。P5プロセスがどこまで進んでいるかについて承知していないので、現場でどういうやり取りがあるのかは私も知りたいところです。ただし、中国は核の先制不使用の議論はP5の中で交渉しようと提案してきており、P5の枠組みに何らかの期待を持っているのではないかとも見ることができます。

倉光:中国の先制不使用についてコメントすると、アメリカやロシアが乗ってこないという前提を踏まえて提案を続けているという側面があるように思います。中国のP5プロセスに対する期待については、そこで先制不使用を提案したらアメリカがどう反応するか、またアメリカがP5プロセスの中でどのような提案をしてくるかを気にしているように思います。一方で、今の情勢を踏まえてロシアが反対すればP5として何かを取り組むことはできないので、その現実も踏まえて考える必要がありますね。

浅野:クラスター1でアメリカは、不透明な核軍拡を進める中国が表明している核の先制不使用政策には疑問がある。中国による先制不使用条約交渉の提案も、検証の問題を含め、実際にはどう形になりうるのか疑問である。提案が中身の伴ったものというより形式だけに見えると苦言を呈していました。この点はNPTでの発言に留まらず、アメリカの高官も繰り返し主張していますね。

山田:P5間の共通の利益に話を戻すと、核不拡散を維持したいという考えがあることは確かだと思います。他方で、核軍縮についてそうはいかない。私の基本的な見方は、すでに事実上普遍化している現在のNPTにおいては、不拡散を受け入れてもらうために軍縮に取り組むというグランドバーゲンが成立しない。今後の不拡散への対応は、北朝鮮のケースのように国連安保理で制裁などの対応をすれば良いということになってしまっている。したがって、今のNPTには構造上、核軍縮をするというインセンティブが生まれにくいのではないかと思っています。

河合:NPTは不拡散という意味ではほとんど普遍性を得ている。重要なご指摘ですね。だからこそ、次は核軍縮を進める順番である、という議論がますます重要なのだと思います。“It’s your turn”ということですね。

山田:だからこそ市民社会の立場では、NPTは「核軍縮」条約あるいは「核廃絶」条約であると言い切っていくことが重要ではないでしょうか。核兵器禁止条約(TPNW)の締約国が、(TPNWはNPTを核軍縮の側面で補完するという)補完論を言うのは、単純に権利義務の観点からみると補完しているようにみえるということだけでなく、NPTは「核廃絶」条約であり、そこでの核兵器観を変えようという試みがあるのではないかと思います。NPTは核抑止を前提とする国が作った枠組みで、安全保障を重視し、核兵器は「必要悪」であるという考えが基底にある。他方で、核兵器は「絶対悪」であるというのがTPNWで、そこにせめぎ合いがある。ただし、NPTの条文には、核兵器国が核兵器を「持って良い」とは書いていません。核兵器は違法であると考えている国が広がってくればNPTにおける核兵器の位置付けが変わってくるし、そうなるように議論していかなければならないのではないかと思っています。

浅野:たしかに、今回のNPT準備委員会でも、TPNW締約国の発言でよく耳にしたのがTPNWはNPT第6条のもとでの核軍縮を補完するという論であったという印象を受けました。

河合:NPTにおける核軍縮についてさらに言えば、NPT第6条について説明責任を問うことが重要だと思います。法に照らして相手に良い問いを投げかけ、相手に答えてもらうのです。NPTでは、核兵器の廃絶に向けた議論の手がかりが第6条なわけですから、それを武器としてどう活かすかを考えなければならない。

 RECNAが7月に刊行したポリシーペーペーにも書いたのですが、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見は良い質問の宝庫です。何が言われているかというと、1つ目に限定的な核使用はあり得るか、その証拠を示した国はないこと。2つ目に、仮にそれが可能であるとして、そのような核使用がエスカレーションする傾向がないと証明した国はないこと。これらの問いに今もって核保有国は答えていない。それにも関わらず、自分たちは責任ある核保有国であるかのようにと言っている国がある。責任ある核兵器の使用が本当にありうるのか。こうした質問を投げかけていくことが重要です。

山田:河合さんの発言に関連して、今回の準備委員会でも説明責任という話が出てきました。アメリカが作業文書4で、NPT再検討プロセスのさらなる強化を前に進めようと提案しています。核兵器国が(核軍縮の実施状況を含めた)国別報告を提出し、それを他の国がレビューし、対話する枠組みを作ろうという提案がなされています。EUも、そこへの市民社会の参加などを提案している(作業文書6)。今回や次回のNPT再検討サイクルでそのようなものが実現していけば、市民社会がもっと関心を持って核兵器国の核態勢や核軍縮の取り組みに対して質問を提起していくことができる。そのような仕組みができていくことが重要であると思っています。そうした提案は、市民社会からもっと声をあげても良いと思います。

浅野:まったく同感です。同様の提案は日本が参加する軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)からもなされています。今回の準備委員会に先立って、核兵器廃絶日本NGO連絡会も日本政府に対して、市民社会が参加できる国別報告議論の枠組みの設立をNPTで求めるよう日本政府に要請しました。

浅野:話は尽きませんが、ここで少し話題を変えたいと思います。ここまでのNPT準備委員会で必ずしも十分に議論されなかった点、あるいは今後もっと深めてほしい論点はどこにあったと感じましたか?

倉光:このままだと米ロの新STARTは2026年2月に失効予定ですが、それがなくなったら米ロ中による無制限の核軍拡競争に陥りかねないという危険性や新STARTの次の条約交渉の必要性などが十分に扱われていなかったと感じました。また、非核兵器国による米ロ交渉を後押しする発言があまり見られませんでした。私の所属する軍備管理協会のステートメントの中では、新STARAT後継条約の交渉や、新たな取り決めの合意に至るまでの間米ロが核兵器数を増やさないと合意をすることなどを具体的に提言しました。

山田:その点、NPT第6条の観点からプッシュすることが重要だと思います。第6条では、「核軍備競争の早期停止」について交渉することが義務づけられています。新STARTを含め米ロでこれまで交渉してきた核軍備管理・軍縮条約の前文には、NPT第6条への言及がある。これら諸条約はNPT第6条の実施であると。新STARTの後継条約を追求するのはNPT第6条の義務であり、それをやらなければならないという議論は政治論だけでなく法律論としてもやっていくべきであると思います。

倉光:非核兵器国は必ずしも国際法のバックグランドや専門家アドバイザー、大きな政府代表団を持っているわけではないので、NGOから非核兵器国に対して、このような議論の仕方があるというような働きかけをしていくことも重要になりますね。山田先生の気になった点はどこでしょうか?

山田:核被害者援助・環境修復です。まだ1週目なので今後の展開はわかりませんが、思っていたほど言及されていないというのが正直な印象です。被害者援助は重要なテーマであるとして、昨年、国連総会では160カ国を超える賛同を得て決議が採択されました(第1委員会では賛成171、本会議では161)。今回のNPTでは、カザフスタン、キリバス、マーシャル諸島が作業文書15を出し、グループでの声明も発表しましたが、賛同国が8カ国で、決して多いわけではない。TPNW締約国・署名国のステートメントでは確かに触れてはいるけれども、メキシコやオーストリア、アイルランドなどのTPNW締約国やドイツやスイスなどの興味を示していたTPNW非締約国も国家としてのステートメントでは言及していない。これは何を意味するのか、なぜなのか気になります。

 カザフスタンらが提出した作業文書では被害者援助をNPT第6条の義務として取り組みたいと言っています。つまり、核軍縮義務の一環として被害者援助があるという位置づけをしようとしている。また、核の正義(nuclear justice)という言葉を用いており、核実験国の責任まで問うている。それらの議論に対して、他の国々がどのように向き合うとしているのかが気になります。

河合:私は、核不拡散の抜け穴を作り出していないのかという点について、各国が「自己点検」する姿勢がないように思います。NPTの交渉を求める国連総会決議には、「いかなる形であれ、核兵器を拡散させることを許すようないかなる抜け穴もあってはならない」という項目がありました。この原則に立ち返って、各国の政策や議論が「抜け穴」に該当していないかを厳しく自己点検するべきです。端的に言えば、核兵器国も不拡散の義務をしっかり守ってくださいと言うことです。AUKUSや核共有、ベラルーシへの核配備などは、この点に関わります。これまで核共有をしてきたNATOが、今日ロシアのベラルーシへの核配備というしっぺ返しを受けているわけです。NPTは核兵器の不拡散に関する条約です。核不拡散こそが共通の利益であり、そこが出発点であったはずです。核不拡散という共通の利益が損なわれれば、NPTは崩壊してしまいます。

浅野:ここまで今回の準備委員会での論点および議論が足りなかった点についてお話していただきました。それらを踏まえて、最後に、今回の日本政府代表団の発言取り組みをどう評価するか、また、今後どのような取り組みを期待するか伺いたいと思います。

倉光:2点あります。1つ目は、もうそろそろ被爆80周年に日本政府として何をするのかを国際社会に打ち出すべきであると思います。ヒロシマ・アクション・プランをもとに何をするのか、期待していきたいです。

 もう1点は、CTBTについてです。核実験モラトリアムが破られる可能性が高くなってきている状況にあることを踏まえて、アメリカ国内のNGOからはどうモラトリアムを守っていくか、米ロ間がCTBTに反してゼロ・イールドではない実験を行なっているのではないかとお互いに疑心暗鬼になっている状況をどう打破できるかを議論しています。そこで、専門家技術者をお互いの未臨界核実験に招聘して、これはCTBTに違反していないということを示す信頼醸成措置を作ろうという提案がなされています。

 日本も、一般論的にCTBTを推進しましょう、発効させましょう、と言うだけではなくて、このような具体策を示していくことが重要であると思います。そのようにすることで他の非核兵器国に対しても、どのような提案を推進していくべきかを示す良い例にもなるのではないかと思っています。細かいことかもしれませんが、日本ができることをきっちりとやっていくことが重要なのではないでしょうか。

山田:今回の日本政府代表の発言はヒロシマ・アクション・プランを中心としたものでした。ここにきて、核兵器不使用の継続と核兵器を増やさない、核兵器数の減少傾向を維持というのは重要なメッセージだと思います。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)をやろうというのも重要です。というのも、包括的核実験禁止条約(CTBT)はCTBTO準備委員会がしっかりと形成されてきており、監視のシステムが根を張ってきている。ロシアが批准撤回したなどの課題が出てきてはいますが、核爆発実験禁止規範というのはかなりしっかりしたものになってきていると思います。そうするとFMCTが次のステップというのは理にかなっているなと思います。ただ、どのようにしたら本気で前に進めることができるのか。単純に呼びかけたり、フレンズ会合を開いたりするだけではなく、もう一歩踏み込んだアクションが必要ではないかと思います。軍縮会議(CD)の中でやるということに拘り続けるのか。新規の核物質生産の禁止だけでなく既存の在庫の削減をどうするのか。どちらにしろ、新規の生産を停止したら既存の在庫はどうするのかという問いが次に出てくるので、そういったところを見据えた計画性のある議論を出していかないと呼びかけだけで終わってしまうのではないかと思います。

浅野:核兵器数の減少傾向の維持について、これは山田先生との以前の会話の中で出てきた話なのですが、核兵器数を増やさないためには、核兵器国と非核兵器国の橋渡しだけではなく、核兵器国間すなわちP5間の橋渡しが重要であると思います。このまま米ロあるいは米中が対話できず、新STARTが失効し、中国も核軍拡を続ければ、新たな核軍拡競争に突入していくことになるでしょう。核兵器数の減少傾向を維持していくコミットメントを現実のものにするためにはどうP5間の橋渡しをするのか知恵を絞っていく必要があると思います。

山田:もう一つ、被爆の実相の普及と日本が核兵器に依存しているという現状をどう整理していくのか、という課題があると思います。これは核抑止の話につながっていきます。昨年のTPNW第2回締約国会議に提出されたオーストリアの作業文書の中では、核兵器の非人道性が核抑止の根拠として使われてしまっていると論じています。要するに、核兵器を使った結果が酷いということは、それだけ脅しが効くということだから、抑止論者にとって(核兵器の非人道性は)むしろ大歓迎な議論であるということになる。こういう議論と日本の被爆の実相の普及がどう関わるのかを考えていかなければならないと思います。NACは、今回の作業文書2やクラスター1の発言のなかで、核抑止は核リスクの存在そのものに基づいている。つまり、核兵器の壊滅的な結果は核抑止の基礎になっている。その結果、それが核使用の結果を軽視する動機となっている、と述べています。これは興味深い指摘であると思います。

 これまでTPNWは、核兵器を使った結果は非人道的であるということと、核兵器が使われてしまうという核リスクは高いのであるという、2大ポイントをベースにしてきたが、核抑止論そのものを正面に据えて、抑止論のどこがいけないのかを議論する方向に進んできているように感じます。先日、山田ゼミで行った公開講座でオーストリアのクメント軍縮局長も触れていましたが、第3回締約国会議に報告書を提出する、核抑止に挑戦するための協議プロセスが現在まさにこの議論を進めているようで、今後の動向に注目しています。

河合:日本のステートメントには、「核兵器のない世界」という文言があります。これは重要なコミットメントであり、それをステートメントに明記している点は評価したいと思います。NAMやTPNW締約国は別として、核兵器に安全を依存する国の中で、このコミットメントを繰り返し表明し続けているという点で、日本は重要な役割を果たしていると思います。

 日本がさらに取り組まなければいけない点は、山田先生と同じポイントすなわち被爆の実相に関する議論を深めることだと考えます。特に「被爆の実相」を国際法の用語にいわば翻訳するような試みが必要です。例えば、長崎の原爆資料館には焼け焦げたお弁当箱があります。それを見て、「大変なことがありましたね」で終わってはいけない。それを持っていたのは誰か?と問う必要があります。その答えは学校の生徒であり、生徒が原爆により生命を奪われたのです。それに対して、戦争では戦闘員以外の相手の国民を攻撃してはいけないと言うのが国際人道法のルールですよね、と話ができる。すると今度は、意図的に攻撃したのではないとの反論もあり得ます。その生徒は巻き添えになっただけです、と。それに対して、そのような巻き添え被害は行き過ぎだったのではないか?と議論を深めていける。このように、被爆の実相という抽象的な言葉で終わらせず、原爆投下による出来事について詰めて考えていくことが大切なのです。

 日本にとって重要な原則の1つは、国際社会における法の支配です。国際法が重要になるわけです。国際法に照らすと核兵器は本当に使えるのかどうか?被爆の実相として曖昧に語るのではなくて、そこから分析的な議論に進んでいく必要があるのではないかと思います。

浅野:皆さん、本当にありがとうございました。現下の厳しい国際情勢そしてNPTの現状にあっても日本が取り組むべき課題や私たち市民が考えるべき問いを多く提示していただけたのではないかなと思います。NPT第2回準備委員会は、現地時間8月2日まで続きますので、引き続き、議論の動向に注目していきたいと思います。本日は、ご参加いただき、誠にありがとうございました。

核兵器をなくす日本キャンペーン 事務局スタッフ
浅野英男

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