TPNWレポート5ー核兵器禁止条約第2回締約国会合の成果についてー

はじめに

2023年12月1日に核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会合が「宣言」と「決定」を採択して閉幕しました。同条約の締約国69カ国のうち56カ国が参加し、このほかにオブザーバーとして、33カ国、9つの国際組織(ICRCとICANを含む)、122のNGO団体が参加しました(TPNW/MSP/2023/L.1, paras. 13-26.)。
 本稿では、この会合で採択された「宣言」と「決定」について紹介し、若干の考察を加えます。

宣言について

 第1回締約国会合に続き、第2回締約国会合でも政治宣言が採択され、TPNW締約国の核兵器廃絶への公約が改めて確認されました。第1回締約国会合で採択された宣言(以下、前回宣言)の副題が「核兵器のない世界への我らのコミットメント」であったのに対して、今回は「核兵器の禁⽌を⽀持し、核兵器の破滅的な結末を回避する我らのコミットメント」と題されており、取り組みの対象と方法がより絞り込まれた表現となりました。前回宣言は16のパラグラフ(以下、パラ)であったのに対して、今回の宣言は35パラであり、概ね前回宣言を踏襲し敷衍しつつも、新たな視点が加わっています。筆者が注目したのは以下の点です。

 第1に、「核兵器の影響に関する証拠に基づいた政策⽴案が、核兵器の廃絶に関する全ての決定および⾏動の中⼼になければならない」(パラ6)として、科学諮問グループの役割を重視しました。「証拠(または根拠)に基づく政策立案」(Evidence-Based Policy Making: EBPM)は、近年、行政分野でも広く議論・採用されている政策評価の手法であり、政策目的に見合った政策手段選択に際して、明確な証拠(エビデンス)を求める考え方です。宣言では「説得⼒のある科学的証拠」を探究することにも触れており(パラ12)、今後、後述する核抑止政策へのチャレンジを含めて、「科学的証拠」を提供する科学諮問グループの役割は重みを増すと思われます。

 第2に、核兵器の壊滅的な人道上の結末への懸念を再確認するともに、核リスクが高まっている点を「とりわけ悪化している」として特に強調しています(パラ8〜13)。加えて、新興技術の問題への対処の必要性にも言及しました(パラ32)。

 第3に、何よりも、核兵器の使用、使用の威嚇、核抑止など、核兵器に依存する安全保障のあり方を厳しく批判しました。核兵器の使用については、あらゆる使用が国際人道法に違反するとして、TPNWの立場を強調するとともに、核兵器の威嚇については、国連憲章を含む国際法の違反であるとの前回宣言の立場を繰り返すだけでなく、軍縮・不拡散レジームと国際の平和・安全を損なうとする点も加えて、明確に非難しました(パラ14)。また、大量破壊をもたらすという威嚇は、「⼈類全体の正当な安全保障上の利益に反」し、この「危険で、誤った、受け⼊れられない安全保障へのアプローチ」は容認されるべきではないとしています(パラ15)。さらに、G20による合意などでの核使用・威嚇は認められないという認識の広がりは称賛するが、具体的行動が必要だと注文をつけています(パラ16)。核抑止については、核兵器が「強制、脅し、緊張の激化につながる政策の道具」として使われており、核抑止によってこれを正当化しようとする試みは、核兵器に誤った評価を与えるもので、これにより核兵器の水平的・垂直的拡散のリスクを高めていると指摘しています(パラ17)。さらに、核の傘下国の問題についても、前回宣言より踏み込んでおり、その数の増加に言及し、核軍縮・不拡散レジームを損なう傾向が懸念されるとした上で、非核武装国への核兵器の配置に憂慮を示し、これらの国がかかる行為を停止しTPNWに参加するよう求めています(パラ18)。加えて、核抑止の永続化は不拡散に反し、核軍縮も妨害していると指摘しています(パラ19)。また、前回宣言と同様に、核軍備への投資は持続可能な発展への投資を犠牲にするものだとも指摘しています(パラ20)。

 第4に、前回宣言と同じく、核兵器の非正当化と汚名化を進める決意を表明しました。なお、強行規範の構築を目指すことへの言及はなされていません(パラ22)。

 第5に、TPNWとNPTなど他の核軍縮・不拡散レジームとの補完性については、TPNW締約国側にこのレジーム全体を前進・強化する役割があるとしつつ(パラ23)、核兵器国はNPT6条や「明確な約束」を果たしていないと指摘したうえで(パラ24)、(TPNWによる核兵器の)法的禁止がNPT6条を前進させたとしました(パラ25)。またNPTにおいて、汚染された環境回復の促進に取り組むことも述べています(パラ26)。なお、原子力の平和利用の権利があることにも条約前文と同じ文言で言及しました(パラ27)。包括的核実験禁止条約(CTBT)については、発効促進を訴えるとともに実験禁止規範の支持を表明し(パラ28)、非核兵器地帯(NWFZ)については、NWFZ諸国にTPNW参加を呼びけるとともに、NWFZの継続的強化(議定書の批准や留保等の撤回等、中東地帯等の新規創設)の重要性に言及しました(パラ29)。

 第6に、このような取り組みを進めるに際しては、多様な利害関係者と協働する包摂的なアプローチをとること(パラ33)や、国際社会の全てのメンバーとの信頼醸成が必要であり、全ての国と協働する意思があることを表明しました(パラ34)。

 

決定について

 第2回締約国会合では5つの決定がなされました(TPNW/MSP/2023/CRP.3/Rev.1)(なお、今回は、第1回から第2回締約国会合までの間に採択された手続的事項に関する決定を確認する決定(TPNW/MSP/2023/L.1, Annex III)もなされています)。

 決定1は、第1回締約国会合で定められた会期間構造を第2回から第3回締約国会合までの会期間に延長する決定です。この概要は別掲のとおりです。

 決定2は、第2回締約国会合で実施された「テーマ別討論」を将来の締約国会合でも実施するためのものであり、これによれば、議長が特定のテーマを選択し、調整委員会と協議のうえ、締約国の同意を得て提案することとなりました。

 決定3は、第6条と第7条に関する自発的報告に関するものであり、カザフスタンとキリバスが提出した文書(TPNW/MSP/2023/3)に含まれる報告ガイドラインとフォーマットを締約国が自発的に利用するために暫定的に採用することを決定しました。なお、併せて今後の改善のために、このガイドラインとフォーマットの見直しを継続することも勧告しています。

 決定4は、被害者援助と環境修復のための国際信託基金に関するものであり、「被害者援助、環境修復並びに国際協力および援助に関する非公式作業部会」において、この基金設置の実現可能性とガイドラインについて集中的に議論を行い、第3回締約国会合にそのことに関する勧告を提出することを決定しました。

 決定5は、「核兵器禁止条約に基づく諸国の安全保障上の懸念に関する協議プロセス」を確立するものであり、締約国・署名国や科学諮問グループ、ICRC、ICAN、その他の利害関係者及び専門家の関与を得て協議を行い、第3回締約国会合にその議論の内容と勧告を含む報告書を提出することを決定しました。協議のテーマは、①核兵器の存在と核抑止力の概念から生じる、条約に含まれている正当な安全保障上の懸念、脅威、リスク認識をより適切・明確に表現することと、②核兵器の人道上の影響・リスクに関する新たな科学的証拠と核抑止に内在するリスク・前提とを併記することで、核抑止に基づく安全保障パラダイムに異議申し立てを行うことの2つです。この協議プロセスのコーディネーターにオーストリアが任命されました。

若干の考察

 今回の会合では、新たな「行動計画」は策定・採択されませんでしたが、「宣言」で「ウィーン⾏動計画の実現に断固として尽⼒する」(パラ35)としており、前回のウィーン行動計画の継続的実施が確認されました。

 その上で、今回の会合で新たな進展が見られた点としては、第1に、被害者援助、環境修復並びに国際協力および援助、つまり第6条・第7条に関して、その具体的実施に向けて、制度化が図られたこと(決定3と決定4)、第2に、安全保障上の懸念に関する協議プロセスが開始されることとなった点(決定5)が指摘できます。なお、TPNWの締約国会合は、単に「条約の適用又は実施に関する問題」だけでなく、「核軍縮のための更なる措置」について検討し、(必要な場合には)決定を行うことを目的としています(8条)。第1の点は前者に関わり、第2の点は後者に関係すると整理できます。

 第6条・第7条の実施に関する自発的報告については、今回の会合でカザフスタンとニュージーランドが報告書を提出しました(TPNW/MSP/2023/10TPNW/MSP/2023/11)。今後、他の国がどこまで同様の実行を行うかが注目点です。報告フォーマットの適切性についても、今後の見直しの可能性も含めて、継続的に議論する必要があります。また、人権条約一般に見られるような、被害者自身による報告ないし通報を受理する仕組みの必要性も議論されるのではないかと思われます。

 国際信託基金については、今後「集中的に議論」を行う予定ですが、その「実現可能性」を含めて議論することとなっており、第3回締約国会合において基金が設置されることが最終決定されているわけではないことには留意する必要があります。基金のあり方についての本格的議論はこれからだと言えそうです(今回の会合におけるこの議題の討論内容を紹介した別稿を参照)。

 安全保障上の懸念に関する協議プロセスの背景と狙いについては、これを提案したオーストリアの作業文書(TPNW/MSP/2023/WP.9 )がこれを詳述しています(なお、この作業文書についての紹介はこちらを参照)。同文書では、TPNW反対派の議論を次のように整理しています。つまり「人道上の影響についての懸念は認識されているが、これは核抑止力の実効性を裏付ける議論として見られ、利用されている。同様に、核リスクの低減も核武装国により重要な作業領域として推進されるが、その議論は、核兵器の保有と核抑止力の実践そのものから生じる核リスクは除外するという狭いやり方で組み立てられている。」(パラ3)と。他方で、TPNWの理論的根拠については、「核抑止が失敗した場合」の核兵器の人道上の影響や核リスクに関する科学的証拠でもって核抑止を支持する安全保障の主張に異議申し立てするもの」(パラ2)だと位置付けています。

 このプロセスを通じて、TPNW反対派(核抑止支持派)の議論に対して、科学的根拠を援用しつつ、どれだけ説得的な主張を展開できるかが今後の課題です。核使用の結末がいかに非人道的であっても、それは核抑止の効き目を支持するものとなるのだという核抑止支持派の議論をどのように克服できるかが1つの焦点のように思われます。

 前述したように、今回の「宣言」では、核兵器の使用や威嚇、核抑止を厳しく非難しました。他方で、TPNWの持つ禁止規範の位置付けについては、前回宣言では「強行規範」化することを目指すとしていました(パラ8)。しかし、今回の宣言ではこれへの言及が脱落し(パラ22)、代わって、他の条約とTPNWとの法的関係についての言及が登場しています(パラ31)。これによれば、先行する条約とTPNWが抵触しない場合には、TPNWの趣旨・目的へのコミットメントに影響はないことを確認したうえで、TPNW諸国としては、「この条約の目的および趣旨(purposes and objectives)を効果的に実施するために必要なあらゆる措置をとるものとする」とした上で、その趣旨・目的の確保のため他の義務の見直しを継続するとしました。他方で、非締約国にこの趣旨・目的に影響する活動の差し控えを求めています。

 ここでは、TPNWと他の条約義務とが抵触した場合について明記していませんが、その場合には、TPNW締約国がTPNWの趣旨・目的を確保するために行動する意思を表明する一方、非締約国にはTPNWの趣旨・目的を尊重するよう求めたと言えます。前回宣言の目指すように、TPNWが強行規範となれば、これに抵触する他の条約(義務)は直ちに無効となりますが、今回の宣言では、より現実的な対応を志向しているように思われます。TPNW締約国が核保有国(非締約国)との軍事協力関係上の法的義務に拘束されている場合(例えば、カザフスタンとロシアの関係が想起されます)に、この点は意味を持ってきます。

おわりに

 第3回締約国会合は、カザフスタンのアカン·ラクメトゥーリン議長のもと、2025年3月3日〜7日の日程でニューヨークの国連本部で開催することとなりました。おそらくNPTの第3回準備委員会も同年にニューヨークで開催されることとなります。

 TPNWで動き始めた核軍縮への取り組みが、今後のNPTにどのように影響を与えるかにも注目していきたいと思います。


別掲 第2回と第3回締約国会合との間の会期間メカニズムの概要

  • 普遍化に関する非公式作業部会(共同議長:南アフリカ、ウルグアイ)
  • 被害者援助、環境修復並びに国際協力および援助に関する非公式作業部会(共同議長:カザフスタン、キリバス)
  • 第4条の実施に関する非公式作業部会(共同議長:マレーシア、ニュージーランド)
  • ジェンダー・フォーカル・ポイント(メキシコ)
  • 補完性に関する非公式ファシリテーター(アイルランド、タイ)
  • 核兵器禁止条約に基づく諸国の安全保障上の懸念に関する協議プロセスのコーディネーター(オーストリア)
  • 調整委員会

山田寿則(公益財団法人 政治経済研究所 主任研究員)